第300号(最終回)(2012.9.10)
酒雑感
 新庄まつりが終われば秋が来るとは昔から言われていたことなのですが、今年はどうやら当てはまらないようです。まつり中はもとより、まつりが終わってからも最高気温が30℃を下回ることなく4日まで続いています。山車制作の疲れがなかなか抜けていきません。
 そうはいっても、ふと耳を澄ませばいつの間にか蝉の声から涼やかな虫の音に替わり、裏庭の柿の実もずいぶんと大きくなってきました。秋が近づいているんですね。
 そうそう、新庄まつりといえば、一昨年、昨年と二年連続で我が北町の山車が最優秀賞を獲得していたのですが、今年も見事、最優秀賞を獲得して歴史センターに来年のまつりまで飾られることになりました。機会がありましたらぜひご覧になって下さい。
 さて、昭和62年10月に誕生した富田通信も25年、300号になりました。誕生当時はインターネットも普及しておらず、また酒に関する情報もほとんど流れていなかったため、こんな小さな富田通信でもずいぶんと皆さんから喜ばれましたが、時代も変わって今はインターネット上に膨大な情報が流れ、瞬時に欲しい情報を得ることが出来るようになりました。
 300号を迎えた今、キリのいいところで富田通信を終えることに決めました。長い間お付き合いいただきまして本当にありがとうございました。
 最後の富田通信は酒についての思いをあれこれ書いてみたいと思います。

「ワイングラスで日本酒を楽しもう!」???
 インターネットであれこれ見ていたら「ワイングラスで日本酒を楽しもう!」という企画を見つけました。これは「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」というところの提案のようです。
 以下に「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」のコンセプト全文を載せます。(ちなみにアワードというのは賞という意味だそうです)
『米国・欧州がけん引役となった日本食・寿司のブームは今や世界中に広がっており、各国の都市部では様々な形の日本食が楽しめるようになりました。
 その中で、各国の文化・食のスタイルと日本酒が出合い、新たな発見も成されました。
 日本国内では考えられなかった食材や料理との意外な好相性もそうですが、一番の発見は「香り」と「見る楽しさ」です。
 海外では一般的な、ワイングラスで飲むスタイルに出会い、日本酒は香りの楽しさと見た目の美しさを手に入れたのです。
 ワイングラスはその形状から、日本の伝統的な酒器ではつかみきれなかった繊細な香りまでも感じさせてくれます。また、底面まで見えるグラス形状により、微妙な色付きや粘性をも感じられるようになったのです。同じ日本酒を猪口からワイングラスに移しただけでも、誰もが違いを感じられるほど味わいが変わります。日本酒の持つ香りがこんなにも品があり、良いものだったことを初めて知った日本人も多く、今後の広がりが期待されます。
 ワイングラスは日本酒の秘めたる魅力を引き出してくれる、最良のパートナーだったのです。
「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」は、単に品質の良し悪しを競うことを目的に開催するものではありません。日本酒の需要を掘り起こし、日本酒の文化継承・発展を祈念して行う取組みとして、ワイングラスの力を認識し、新たに見出された日本酒の魅力を広く伝えていこうという趣旨に賛同した専門家達により、ブラインドで評価したコンテストです。日本酒の広がりの為に超えて行かなければならない3つのボーダー、すなわち若年層への啓蒙が必要だという「年齢の壁」、和食以外にも日本酒の相性は良いことを広めなければならないという「業態の壁」、そして文字通り世界へ羽ばたかせるために越えなければならない「国境」という壁を、軽やかに超えていく新しい提案になると信じての試みです。
 2011年から開始した当アワードは、日本全国から約200蔵から300点以上の応募があり、現在最大規模のコンテストとなりました。
 日本の食文化の核であり、ふるさとそのもの日本酒がより広がり、継承されていく為にも、当アワードの取り組みが理解され、ワイングラスで楽しむスタイルが広がっていくことを願っております。』 以上です。

 ここでのワイングラスとはホームページに載っている写真を見た限りではテースティンググラス(きき酒用グラス)のようでした。
 ワインには誤解を恐れずにいうと二種類のワインがあります。人々が和やかに話し合うための並ワインと、ワインそのものについて語り合うための観賞用ワインです。テースティンググラスはまさにこの観賞用ワインを厳密に徹底的に吟味するためのグラスであり、その形状、大きさ、グラスの厚さ、材質であるクリスタルグラスの鉛含有量まで規定されています。
 そのグラスで日本酒を飲んだら、盃やぐい飲みで飲んだ時とは味わいが変わるのは当然のことです。なにせきき酒に特化されたグラスなのですから。
 確かに、日本酒に秘められた美味しさを引き出してくれるテースティンググラスは魅力的でしょう。それで、新たな日本酒ファンが増えてくれればほんとうに素晴らしいことです。
 でも、なにか引っかかるのです。ワイングラスで日本酒をっていうのに、どうも素直に肯けないのです。それがなんなのかずっと考えていたのですが、ふっと思いつきました。オリンピックで見たJUDOへの違和感に近い感覚です。
 柔道が持っているであろうはずの(私は柔道に詳しくないので勝手な妄想ですが)勝ち負けを超えた美学などはまったく理解されない、オリンピックの、いや世界基準のただ勝敗だけにこだわったJUDOへの違和感です。
 日本酒は当たり前のことながら日本の優しく美しい四季折々の中で長い時間をかけて育ってきました。その飲み方、酔い方はたとへ独酌であろうとも月、花、雪、あるいは虫の音に心を寄せ、自然と渾然一体となることができます。そこでは、酒そのものを厳密に鑑定するためのテースティンググラスではなく、盃でないと具合が悪いような気がするのです。日本酒の良さは、酒そのものはもちろんのこと、その酒を媒介とした精神世界にこそあると思うのです。
 ワイングラスで日本酒のファンになった人々が日本酒スノッブになることなく、その奥のさらに深い日本酒の持つ酔い心地を楽しんでいただけたらと思っています。
 フランスワインに憧れてフランスへ行ったら、フランス人が皆、ぐい飲みでワインを飲んでいたなんてことになっていたらガッカリしますものね。



……… 編 集 後 記 ………
○25年300号、振り返ってみると長かったような短かったような。よくぞ休むことなく書き続けられたものです。そもそもは乗っていたバイクを売り払って当時高価だったワープロを買ってしまったことから、家族に対してなんとか格好を付けようと不純な動機で書き始めたものでした。それがここまで続いてしまうとは・・・。いや、続けてしまった本人が言うのも変ですが、人生は本当にわからないものです。でも、この富田通信のお陰で、たくさんの人と出会うことが出来ました。たくさんの方から励ましのお言葉をいただきました。ありがとうございます。恩返しも出来ないうちに幕を引いてしまうのは少々心苦しいのですがお許し下さい。皆さまの良き酒と良き人との出逢いをお祈りしてペンを置きます。今まで本当にありがとうございました。

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