第296号(2012.5.10)
みりんのはなし
 4月27日頃までは肌寒い日が続き、ゴールデンウィーク中に桜が咲くのだろうかと心配していたのですが、翌28日からは一転して夏を思わせるような陽気が続き、咲き始めたと思ったら4日ほどで満開となり、あっという間に散ってしまいました。なんとも気ぜわしい春です。
 富田通信を書き始めて約25年、普段あまりこれを飲んでいる人はいないとの理由で、みりんについて詳しく取り上げたことはありませんでした。そこで今回の富田通信は酒類総合研究所の情報誌である『お酒のはなし』よりみりんについて書いてみましょう。

みりん
 みりんは、もち米、米麹、焼酎(アルコール)を主原料とするお酒です。清酒や焼酎などのように酵母によるアルコール発酵の工程がなく、米麹のもつ酵素が、もち米のデンプンを糖分にしたり、タンパク質をアミノ酸に分解する工程があるだけです。
 現在では、料理用が主体であまり飲むお酒というイメージはありませんが、このように旨味を多く含んだみりんは飲んでも美味しいものです。

歴史
 みりんの発生起源については諸説あり、未だにはっきりしていないのが現状です。その代表的な説として、中国伝来説と日本発生説があります。
 中国伝来説は、中国清明の時代の『湖雅巻八造醸』という書に「密淋(みいりん)」と呼ばれる甘い酒があったという記述があります。「淋」という字は「水がしたたる」「濡れる」という意味があるので、蜜がしたたるような甘い酒と解釈できます。この密淋が、戦国時代に中国から渡来したという説です。慶安2年(1649)の『貞徳文集』に、みりんが異国より渡来した物であるとの記述もあります。
 日本発生説は、文正元年(1466)の『蔭凉軒日録』に「練貫酒(ねりぬきざけ)」という甘い酒が博多にあったという記述があります。この酒は、腐敗しやすかったため、腐敗防止策として焼酎が加えられていました。これが改良されてみりんになったという説です。ただし、現在発売されている博多練酒にはアルコールは使用されていません。
 豊臣秀次の右筆駒井重勝が書き残した『駒井日記』の文禄2年(1593)1月晦日の条に「三位法印様密淋酎御酒御進上成ラレルヘキノ由、御諚ノ為申上」とあります。これがみりんが文献に登場した最初のものです。
 この戦国時代の頃には、みりんは甘い珍酒として上流階層でもてはやされていました。一般階層の飲み物となるのは江戸時代に入ってからになります。
 元禄2年(1689)の『合類日用料理抄』には鳥醤(とりびしお)に味淋酎を使用したという記述があります。これが料理にみりんを使用した最初の文献になります。これ以降、みりんを料理に使用する記述が増えてきます。
 天保から安政年間にかけての諸国の風俗を記した『守貞漫稿』(1837〜1867)には、みりんの多くが江戸で使われ、また、鰻の蒲焼きのたれやそばつゆに使われているという記述があります。この頃になって、調味料としての使われ方が定着しました。
 戦国時代から時代を追うごとに、甘味や旨みの濃いものに変化していき、現在売られているみりんの形になったのは第二次世界大戦後のことです。

製造方法
 それでは伝統的なみりんの製造方法を説明します。
 まず、精米歩合80〜85%程度のうるち米を用いて米麹をつくります。みりんには酵母による発酵過程がないため、麹の酵素力や酵素バランスが品質の良し悪しを決定する要因となります。製麹方法は、清酒の製麹とほぼ同じ経過をたどります。
 この米麹と蒸したもち米、アルコールをタンクに加えてもろみを仕込みます。もち米は精米歩合85%前後のものを使用します。
 もろみは約2ヶ月間熟成させた後に搾ります。この間に、米に含まれるデンプンが糖分に、タンパク質がアミノ酸に分解され、甘味や旨味成分が蓄積されていきます。
 搾ったみりんは、おり引き、ろ過、調合を行ない製品化します。
 みりんには、使用するアルコールの違いで2種類の区分ができます。連続式蒸留焼酎を用いた新式みりんと単式蒸溜焼酎(主に清酒粕を蒸溜してつくった粕取焼酎)を用いた旧式みりんです。単式蒸溜焼酎は香りに特徴があり、出来上がったみりんにも独特の芳香が付きます。連続式蒸留焼酎は無味無臭のため、米からの風味がおだやかに広がります。
 みりんには糖分とアミノ酸が多く含まれているため、熟成するとアミノカルボニル反応により色が濃くなります。時間の経過とともにみりんは、濃い褐色を呈すことがありますが、品質には何ら影響はありません。

柳陰(本直し)
 柳陰は江戸時代より、昭和の高度経済成長期まで庶民の酒として広く親しまれてきたお酒です。もともとは焼酎を通常のみりんの仕込みよりも多く使って仕込んだみりんで、本格焼酎とみりんの中間的な味わいのお酒です。簡便に飲むなら、通常のみりんと焼酎を1:2ぐらいに混ぜ合わせてもつくれます。暑い日に柳の木陰でちびちびと飲んだことから付いた名前のようです。
 落語「青葉」では、昼下がりの暑い時分に植木屋さんが一服していると、お屋敷の旦那がでてきて、鯉の洗いや冷やした柳陰をご馳走する場面が出てきます。今ではほんのり甘いもち米のリキュールといった感じです。アルコール分が約22度と高いので、ロックや水で割って飲んでもいいでしょう。



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  ※取り扱い注意点
  ・必ず冷蔵庫で保管してください。
  ・開封の際は噴き出す恐れがありますので、冷たいまま、ビンを振らずに、王冠を少し開けたり締めたりを繰り返し、ビン内部のガスを十分抜いてから開封してください。
  ・沈んだ「オリ」は、開封後、王冠を締め直した後に、軽くゆすって混ぜてください。
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