第290号(2011.11.10)
蒸留酒の信長、秀吉、家康
 もう11月に入ったというのに日中はストーブもこたつも要らないかなり暖かな日が続いています。
 新庄の気象観測所のデータを調べたら、10月上旬の平均気温が平年より2.3度も低い12.7度。10月下旬の平均気温が平年より2.6度も高い13.0度。なんと上旬より下旬の方が気温が高かったんですね。なんだか季節感がすっかり狂ってしまいます。
 それでも裏庭の柿の実はすっかり色づき、今月に入って早々に収穫して渋抜きにかかりました。もう間もなく美味しい柿が食べられます。
 柿の渋抜きといえば焼酎ですよね。というわけで、今回の富田通信は蒸留酒について吉澤淑著『酒の文化誌』からご紹介しましょう。

蒸留酒の信長、秀吉、家康
 多くの飲兵衛にとって、アルコール分の高い酒を飲みたいというのは、昔から強い憧れであった。蒸留により水(100度)より低沸点(78度)のアルコールを濃縮する蒸留酒製造法は、古く12世紀には行なわれていたという。
 当時の蒸留機は、基本的には現在用いられているポットスチルと同じで、鍋(銅製が多い)に発酵したもろみや酒を入れ、加熱沸騰させて生じた蒸気を、鍋の上部から延びる管(スワンネックという優雅な名がついている)を通じて冷却管に導き、アルコールの濃縮された留液を得る。
 このような方式を単式蒸留といい、7パーセントのアルコールを含む酒からアルコール分21パーセントほどの留液が得られる。したがって、ウイスキーやブランデーなどの高アルコール分の酒を得るためには、通常、蒸留を二度繰り返すことになる。
 このようにして得られた留液には、様々な成分に混じって不快な成分も認められ、一般にそのまま直ちに製品となり難く、簡単な濾過処理くらいで瓶詰めできる焼酎は稀な例である。このため不快な香味を除き、好ましい特徴的香味を引き出すために様々な工夫が凝らされる。
 戦国の英雄、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の人となりを、ほととぎすの取り扱いに託して、次のように詠んだ歌があるが、蒸留酒の取り扱いと極めて類似していて面白い。

  泣かぬなら 泣くまで待とう ほととぎす

 いかにも苦労人の家康らしい。ブランデーの王コニャックは、コニャック市を中心とするシャラント地方の産であるが、この地方のぶどうは酸が多く、酒質も上等とはいえず、色々工夫した末に蒸留したが、その留液も飲み難い。樽に詰めて放置し、長い年月の後に取り出したところ、素晴らしい香味の褐色の液体に生まれ変わっていたという。17世紀のことである。
 ウイスキーやブランデーは、留液を楢(なら)や樫(かし)の樽に貯蔵するが、その間に樽材が不快成分を吸着し、樽材の成分が溶け出して酒の香味の一部を形成し、樽を通じて進入した酸素によりアルコールが酸化して、酢酸が生じ、これがイソアミルアルコールと結合して芳香エステルである酢酸イソアミルを生成するなど複雑な反応が起こる一方で、アルコール分子と水分子がが会合して大分子を形成するなどなど様々な反応が次第に進行し、酒の優れた特性が作り出される。
 この変化を熟成と呼ぶが、必要な時間は、ウイスキーで最低三年間、ブランデーでは六、七年以上、50年を超えても熟成が進行するという。
 このように樽で熟成した蒸留酒は、樽成分が溶け出して褐色を呈しており、ブラウンリカーと総称され、蒸留酒の主体となっている。

  泣かぬなら 殺してしまえ ほととぎす

 猛々しい織田信長である。不快成分も好ましい成分も一緒に取り除いて、きれいなアルコールにする方式で、精留塔を何本も重ねて精留し、ほぼ純粋なアルコール液とする方法と、更に白樺から作った炭層で濾過して、不快成分を除いて香味を改善する方法がある。
 前者はわが国の連続式蒸留焼酎があり、後者はウォッカが有名である。糖蜜より作られたラムの一部やメキシコの銘酒テキーラの多くも含めて、無色透明な色調からブラウンリカーに対してホワイトリカーと称している。

  泣かぬなら 泣かしてみせよう ほととぎす

 豪放な豊臣秀吉である。不快な香味を、強力な芳香成分などを加えて隠してしまう方式で、留液にジュニパーベリーやコリアンダーなど芳香植物を浸して再蒸留するか、蒸留機の上部に芳香植物を置いて、立ち上るアルコール蒸気を通し、芳香成分を抽出する。ジンが有名であり、これらもホワイトリカーに含まれる。



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