第289号(2011.10.10)
目黒のサンマはなぜ旨い?
 このところ最低気温が10℃を下回る日が続き、実りの秋というよりも一気に晩秋といった感があります。すでに部屋にはコタツがあり、朝晩はストーブも恋しくなってきました。
 寒くなってくると冬に備える生き物の習性からか、食べ物が美味しくなりますね。中でも脂の乗ったまるまると太ったサンマは堪えられません。焼いて良し、刺身で良し、さらには叩きで良し。酒の肴に最適です。
 そこで今回の富田通信は落語の「目黒の秋刀魚」を題材に、殿様がなんで「秋刀魚は目黒にかぎる」といったのかについて、『つい誰かに話したくなる雑学の本』講談社文庫より書いてみましょう。

目黒の秋刀魚
 その前に、まず、落語の「目黒の秋刀魚」のあらすじを『落語の部屋』のホームページより紹介します。
 【ある大名が馬術鍛錬のため、目黒に野がけをやった時、空腹になった。そこへ近隣の農家で焼く秋刀魚の香ばしい臭いがする。どのような物かと尋ねたところ、、秋刀魚という下魚で、殿様が口になさる物ではないと、言われたが、空腹に耐えかね、一兆事が起きたおり、食物に好き嫌いをいっていては、侍大将がつとまらぬ、屋敷うちでなくかような野がけにて食するのであると、もっともらしい言い訳をいって、買い求めさせる。
 初めて見る秋刀魚をおっかなびっくりに口にすると、その美味に思わず、舌鼓を打って喜ぶ。目黒にてかような下魚を食したことは、口外なさらぬようにと、口止めをされたが、一度味わったそのおいしさを今一度食したく、親戚の屋敷に、招かれた折り、本日のお好みの食事をと、聞かれ、思わず秋刀魚と答えた。
 料理番が驚いて魚河岸に人を走らせ、買ってきたが、脂が乗っているので、食あたりでも起こされては、大変だと脂を抜いて、つみれにして、お椀に入れ、差し出した。
 前回の物と形状や入っているものが違うので、臭いを、確かめると、秋刀魚の香りがしたので、一箸つけたが、味が違うので、秋刀魚か?と訪ねたら、家来が、「魚河岸にて求めた房州から取り寄せた本場もの」と答えた。
 それを聞いた殿様は、「何、?魚河岸、それではいかん、秋刀魚は目黒に限る」】

なぜサンマは目黒にかぎるのか
 もちろん「サンマは目黒にかぎる」といった殿様は、落語の世界の住人ですが、現実の殿様も、こと食生活に関しては、落語の殿様と変わりがなかったようです。
 徳川の台所、江戸城の大奥では食事要員だけでも150人いたといわれます。その他に給仕の小姓、女中がいましたから、将軍の食事にも相当な出費がかさんだようです。
 将軍用の食事は、毎食それぞれ10人前ずつつくられました。このうち二人前が毒味役にまわり、残った八人前が将軍用になるわけです。
 なぜ八人前も食事を用意したのかというと、将軍は料理に一箸つけて口に運ぶと、そのお膳はさげ、別のお膳に取り替える作法になっていたからです。しかも三膳まで、という作法になっていたというからたまりません。他にも細かい作法がいっぱいあって、ご飯は三杯までなどというのもありました。不自由もいいところです。
 目黒でジュウジュウ脂ののっている、アツアツのサンマを食べた殿様が、飛び上がって「ウマイ」と叫んだ気持ちがよくわかります。
 余った食事はというと、みんな給仕や女中たちで食べました。食事の余りだけでなく、料理の素材にしても、将軍用は最高のものをちょっぴり選んで使用しましたが、その他の部分は、家来たちで分けました。
 たとえば、魚なら100匹いるうちの一匹を選び、その魚から切り身を一切れか二切れをとって、残りの99匹は家来で分けあったというわけです。
 幕府の将軍用の食費のうち、本人の口に入るのは、ほんの0.01パーセントに満たなかったのです。

 いや〜、殿様も大変ですね。旨い肴と旨い酒に乾杯!



商  品  紹  介
出羽桜 『純米吟醸 雄町』
 「雄町」は優れた酒米の特性を持つため、各地で新品種開発の交配種として使用され、「山田錦」「出羽燦々」など現存する酒米の半数以上にその血統が流れています。まさに、現代の日本酒を築き上げた酒米の原種です。
 米の栽培、酒の仕込みは共に困難を極めますが、できあがる酒は独特の優しい味わいに満ちています。冬までゆっくりと大切に熟成させてきた、まろやかな「雄町」独特の味わいをぜひお試しください。
 なお、出羽桜『純米吟醸 雄町』は、今年、インターナショナルワインチャレンジにて「純米吟醸酒、純米大吟醸酒の部」でトロフィーを獲得しました。
  内容 原料米:雄町100%  精米歩合:50%
     日本酒度:+5  酸度:1.6  アルコール度:16〜17%
                     1.8L 3500円
                     720ml 1750円
出羽桜 三年低温熟成 『枯山水』
 今年も本醸造三年低温熟成古酒『枯山水』の季節になりました。古来、旧暦の9月9日重陽(ちょうよう)の節句から、お燗で飲み始めたそうです。上品に枯れた味わいはお燗をするとますますその本領を発揮します。
 ぬるめのお燗(40度〜45度)がお勧めですが、ぜひいろんな温度をお試しください。
  内容 麹米:美山錦 掛米:雪化粧 精米歩合:55% 度数:15.5%
     日本酒度:+5 酸度:1.3 使用酵母:小川酵母
                    1.8L 3093円
                    720ml 1544円
初孫 『出羽の里 純米原酒』
 出荷数量ごくわずかの山形県オリジナル酒米「出羽の里」100%使用の純米無濾過原酒です。熟成したしっかりとした旨さと、生もとつくりの深みのある味わいが特徴です。
  内容 原料米:出羽の里100%  精米歩合:55%
     日本酒度:+3  酸度:1.7  アルコール度:17.5%
                    1.8L 2490円
                    720ml 1250円



……… 編 集 後 記 ………
○若い頃から題名は聞いていて一度は読んでみたいと思っていたアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』(岩波文庫)をこの前から読み始めました。400頁ほどの文庫本で全7冊。
 字が細かく、この歳にして読むのはかなり骨が折れるだろうと思っていたのですが、読み始めたら物語にぐんぐん引き込まれていきます。現在2冊目。残り5冊。秋の夜長に打って付けです。

E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール