第284号(2011.5.10)
酒泉の伝説
 5月7日現在、冬の間の除雪の雪溜になっていた箇所の雪がまだ市内の所々に残っています。桜は八分咲きといったところでしょうか。
 先日、軽やかに飛ぶツバメを見つけました。あの震災以来、心がすっかり沈み込んでしまっていますが、季節に励まされてそろそろ浮上させねばと思っています。
 さてさて、今回の富田通信は坂倉又吉氏の『酒おもしろ語典』より、酒にまつわる伝説をご紹介しましょう。

酒泉の伝説
 水が酒になったという話は養老の滝の話が有名ですが、その他にもこの類の伝説は少なくありません。
 岩代国白川郡泉崎に十一面観音の祭ってある観音堂があって、そのそばに「酒清水」と呼ばれる泉があります。これは昔その土地の地主が一人の農夫をしもべとして養っていましたが、その農夫が毎日野良から帰ってくるときには、いつも上機嫌に酔っています。不思議でならない主人が、ある日つけて行って見ると、この観音堂のそばの泉を飲んでいます。そこで調べてみるとそれは酒でしたので、主人はその清水を汲んで酒屋を始め、家は大いに富みました。それからこの泉を「酒清水」と言われるようになったといいます(『白河風土記』より)。
 越前国大野郡薬師神谷の百姓某は、薬師如来の夢のお告げによって、牛に乗って近江国加茂の里に行きました。そして目的地に着くと、牛がある一つの井戸のそばに立ち止まって動きません。水が欲しいのだろうと思ってその井戸の水をやりますと、喜んで飲みましたがなかなか動こうとしません。まだ飲みたいのだろうとまた水をやると、ことごとく飲み尽くしてしまって、しかも何時までも立ち去ろうとしません。不思議に思ったので自らもその水を試みに飲んでみますと、意外やそれが酒でありました。驚くと共に観音の夢のお告げと、この所に留まって酒屋商売を始め富を得て、加茂の長者といわれるようになりました(『越前国名蹟考』より)。
 今から三百年余の昔、薩摩国の西南にそびえたつ猩々ヶ獄の麓に、小さな部落があって、その村人の一人がある日、谷川を渡ろうとすると川淵に大きな猩々がいて水を飲んでいるのを見つけびっくり驚天して逃げ帰りました。それがしばらくたって、その男は恐いもの見たさに、恐る恐るその淵のそばを通ると、例の大猩々が、同じ所でまた水を飲んでいます。
 そこでこれは何か? と考えて、その夕方大猩々が水を飲んでいた場所へ行って、水をすくって飲んでみたところ、それは酒でありました。それからというものは、この男毎日毎日柴刈りや畑作りの帰りに、まことにご機嫌に酔っぱらって帰ってきます。
 それを知った村人たちが、手桶、ひょうたんなどを持ってくだんの淵にかけつけたところ、もはやそれは、ただの水でしかありませんでした。
 それから、村人はこの淵を「猩々ヶ淵」そして村の名を「猩々」と呼ぶようになりました。(加藤美希雄著『酒の風俗誌』より)

猿酒
 猩々が出たついでに猿酒についても書いてみましょう。
  猿酒や何の木の実の種一つ   滴泉
と俳句にもあるように、猿が酒を好むということは定評があります。もっとも人間のようにそんなにしょっちゅう飲む機会があるわけでもありませんから、あの赤ら顔から来る連想が多分に手伝っているのかもしれませんが。
『皇都午睡』 木曽の深山にある猿酒は、木の股、節穴などへ、猿が秋の木の実を拾い集めておいたものが、雨露の雫で熟して酒になったもので、木こりが見つけて持ち帰り、麻の袋に入れてしぼると、黒く、濃く、渋く、甘味もあって、正に仙薬のようだとのこと。
『俚諺集覧』 奥州南部の辺りにも猿酒があったといい、猿が木のうつろに木の実を入れておいてつくったもので、やはりこれも人間が見つけて失敬するという。
『嬉遊笑覧』 忠州の山中で黒猿が酒をつくるとの話。
 ところが、『蓬莱夜話』になりますと、猿酒のために人間がひどい目にあってしまいます。すなわち、黄山には猿が数多く住んでいて、春夏に、花果を採ってきて、石の窪中で酒をつくるが、その香気はあたり四方に漂うので、木こりがこれを嗅ぎつけて、喜んで盗飲し、大酔してしまうと、猿どもが大勢集まって来て、なぶり殺しにしてしまうとの話であります。これこそ敵もさるもの、ひっかくもの。
 しかし果たして、猿が自分からその気で酒をつくるかどうかは、猿ならぬ身の知る由もありませんが、ただ理屈から申しまして果実を集め蓄えて置くと、自然に醗酵して酒になり得ることは間違いありませんから、その偶然できた酒を好んで飲んだであろうことは、容易に想像されます。



商  品  紹  介
出羽桜 微発泡にごり酒
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 乾杯の酒、脂っこい食事と相性の良い酒、出羽桜がそんな要望にお応えするのが吟醸にごり酒の『微発泡 とび六』です。
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 入荷予定日 5月中旬
  原料米:山形県産米 精米歩合:50% 度数:15〜16度
  日本酒度:−3 酸度:1.5 酵母:小川酵母
  ※取り扱い注意点
  ・必ず冷蔵庫で保管してください。
  ・開封の際は噴き出す恐れがありますので、冷たいまま、ビンを振らずに、王冠を少し開けたり締めたりを繰り返し、ビン内部のガスを十分抜いてから開封してください。
  ・沈んだ「オリ」は、開封後、王冠を締め直した後に、軽くゆすって混ぜてください。
                     300ml 630円



……… 編 集 後 記 ………
○沈み込んでしまった心をなんとか浮上させようと4月上旬の穏やかな日、酒田の堤防に行ってきました。狙いは、わかめ。毎年、釣りをしているとき、堤防にわかめがたくさん生えていて落とし込み釣りの邪魔になるんですが、まだ魚の釣れない春先、あの邪魔なわかめが美味しいんじゃないかと思ったのです。
 タモ網の代わりにタモの柄に鎌をつけて堤防に生えているわかめを刈り、海に漂うわかめを別に用意したタモ網ですくいます。なにせ堤防一面わかめが生えていますから、採り放題です。家に持ち帰って熱湯にくぐらせると、褐色のわかめが一瞬にして鮮やかな緑に変わります。それをざく切りにして、サラダや酢の物にして食べてみたら、なんと今まで食べていたわかめがなんだったのだろうというほど美味しい。まるで初めて吟醸酒を飲んだときのような衝撃でした。さてと、また採りに行こうっと。・・・乾杯!

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