第280号(2011.1.10)
酒色のはなし
 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 今年の幕開けは、猛吹雪だった去年とは違い、実に穏やかな三が日でした。積雪量は6日現在で約70cmです。まあ、いまの時期としてはちょっと多いような気もしますが、なんとか春まであまり降らないことを祈るのみです。
 さて、各酒蔵では今、寒づくりのまっ最中。仕込み上がった純米酒や吟醸酒などの酒が槽口(ふなぐち)からキラキラと輝きながら滴り落ちています。
 今回の富田通信は、その酒の色について『酒おもしろ語典』より書いてみましょう。

酒色
 「酒色におぼれる」とかいうときの酒色とはご存じのように「酒と女色」という意味で、あまり評判がよい言葉ではありません。
またもうひとつには酒色とは酒を飲んで顔に出ることを意味する場合もあります。
 しかし、ここで言おうとする酒色とは「酒色風前緑」(『欧陽略』)等という場合の、酒の色のことです。
 さて最近の酒の色は非常に薄く、また透明になってきました。それは一般に原料米をよく精白するようになったのと、今ひとつには出来た酒をさらにお化粧するようになったからです。
 酒のお化粧の方法は、ご婦人の壁塗り式と違って、内服薬によるものであり、その薬は炭素であります。つまり黒い炭を使って酒の色を白くするのですが、炭素は単に漂白剤であるばかりでなく、酒の味をも端麗に致します。もっとも厚化粧は個性を殺すから好ましいものではありません。まことに失礼ながら、お顔に自信のないご婦人に限りやむを得ずなさるものです。酒もまた同じことがいえます。
 ところがこの炭を使うということは、別に近年になってからの発見ではありません。今なお宮中で祭事に用いられる「白酒黒酒(しろきくろき)」の黒酒は本来濁酒(どぶろく)に灰を入れたものなのですが、その灰を入れるというのは味をやわらかくするためなのであります。
 また、清酒誕生の俗説に、蔵人が濁酒中に灰を入れ帰ったところ、数カ月後その酒を使おうとしたとき、きれいに上澄みしていて味も良くなっていたところからヒントを得たとありますが、灰すなわち炭素は入れて長く放っておきますと、今のように濾過しなくても、沈殿して上澄みすることは確かであります。
 そのように昔でも灰を使ったことはありますが、しかし酒の色は今のような無色透明に近いものではありませんでした。そこで美味しそうな酒の色の形容を、昔は山吹色、黄金色、あるいは琥珀の酒などと言って、ある程度赤味をおびた酒が珍重がられていたのですが、今どきそんな色の酒が出たとしたら、番茶色とか、馬の小便とかいって、誠に評判がよろしくありません。

 とまあ、ここまでが『酒おもしろ語典』よりの抜き出しです。この本は今から25年ほど前に出版されたもので、現在の状況とはちょっと違うかもしれません。
 当時は淡麗な酒がいい酒だとする風潮が強く、したがって酒を濾過する炭素の使用量も随分と多かったのです。ところが炭素を使うということは色ばかりでなく香りや旨み成分も取ってしまうため、味が平板になる傾向がありました。
 その反省から、特に山形県では、いい酒をつくれば炭素を使う必要はないとの理念から、長年酒造技術の研鑽を重ね、全国的に見ても炭素使用量のほんとに少ない、旨い酒をつくり続けて今日に至っています。山形酒の評判の高さはここにも一因があるのかもしれません。
 さて、そのようにしてつくられた旨い酒の色とはどんなものでしょう。今搾られた酒が槽口から流れ落ち、タンクにたまったその色は、これが本当に米から出たものかと思うような、青みがかった黄色、いわゆる若竹色をしています。
 いま、まさに酒蔵は仕込みのまっ最中。もし機会がありましたらぜひ酒蔵に行って槽口のタンクの中を覗いてみてください。きっと感動なさると思いますよ。



商 品 紹 介
       栄光冨士 超特別限定酒
         純米吟醸 『朝顔ラベル 無濾過生原酒』
 昨年、栄光冨士の副杜氏・白幡君から「今週末に純米吟醸朝顔ラベルの濾過をするんだけれど、酒の出来がすごく良かったもので、ごく一部を無濾過生原酒のまま瓶詰めして出荷することにしたんだけど、富田さん、いらない?」っていう電話をもらい仕入れた酒。自慢するだけあって大好評でした。
 その純米吟醸朝顔ラベルの無濾過生原酒が去年と同様に超限定(300本)で発売されました。当店30本の入荷です。
 その味わいは柔らかく、ふくらみがあり、まさにこれぞ栄光冨士! と言っても過言ではない、私の大好きな酒です。
 入荷数量がごくわずかですので品切れの際はご容赦下さい。
  内容 原料米:麹米・山田錦 掛米・美山錦 精米歩合:50%
     度数:16〜17度 酵母:協会10号系
                     1.8L 3460円
出羽桜 『出羽燦々 無濾過生原酒』
 「搾りたて」の槽口を、手を加えずにそのままビン詰めにした純米吟醸原酒です。
 出羽桜らしい北国の女性を想わせる繊細で美しい味わいの中に原酒が持つ重厚な旨みが加わった香味が楽しめます。
  内容 原料米:出羽燦々 精米歩合:50% 度数:17〜18%
     日本酒度:+4 酸度:1.4 酵母:山形酵母
                     1.8L 3150円
                    720ml 1575円
上喜元 『純米にごり酒』
 今年もまた、大好評の搾りたて純米にごり酒が入荷しました。
 注意:酵母が生きていますので栓を開けるときには強く振らないでください。お酒が噴きこぼれます。また、必ず冷蔵庫で保管してください。
  内容 原料米:出羽燦々 精米歩合:55% 度数:16.2度
     日本酒度:+1.5 酸度:1.3 使用酵母:山形酵母
                     1.8L 2625円
                     720ml 1313円



……… 編 集 後 記 ………
○「どういう風の吹き回しか自分でもよく分からないのですが、このところ映画鑑賞にすっかりハマっています。」と書いたのが去年10月の富田通信。最初、邦画ばかり観ていたのですが、そのうち洋画も観るようになりました。観ているうちに邦画と洋画とでは主題というか目の付け所が違うような気がして、この違いはおそらく言葉にあるのではないかと勝手に思い込み、洋画を原語で観てみようと、英語の勉強を始めました。といっても苦手だった英語。12月いっぱいかかってやっと中学英語をさらい終わりました。この分だといつまでかかるか分かりませんが、とにかくやってみます。・・・乾杯!

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