第278号(2010.11.10)
酒豪力士の雄
 この頃、かなり引っかかっていることがあります。一流のスポーツマン、あるいは運動選手は、人格的にも一流でなければならない、あるいは一流であるはずだという、あまりに短絡的なマスコミ報道です。この14日から大相撲が始まればいよいよもって、この類の報道は多くなるでしょう。
 この迷信はおそらく「健全なる精神は健全なる身体に宿る」というあまりに有名なキャッチフレーズに起因しているのでしょう。
 このキャッチフレーズは古代ローマ時代の詩人ユウェナリスの詩の一節「強健な身体に健全な魂があるよう願うべきなのだ」から取ったもので、本来ユウェナリスがその後に続く詩の中で意図したことは、金品や財産などの誘惑や人生の苦しみに打ち勝つ勇敢な精神を持ちなさいということでした。
 ところが近世に入って世界規模の戦争が始まるとナチス・ドイツをはじめ各国は、あたかも体を鍛えることによってのみ健全な精神が得られるかのようにユウェナリスの意図するところを故意にねじ曲げ、詩を改ざんし、軍国主義を推し進めたのです。
 その結果、本来の意味はすっかり忘れ去られ、戦後になっても間違った意味で使われつづけています。
 いやはや、話しがかなり固くなってしまいました。連勝記録を62まで伸ばしている白鳳。まわりの横綱=人格者という図式にあまり縛られず、相撲を取ってもらいたいものです。
 というわけで、今回の富田通信は昔の大酒飲みのお相撲さんについて、『酒が語る日本史』和歌森太郎著より書いてみましょう。

酒豪力士の雄
 力士は酒豪というのが通り相場であるが、明治の力士のような変わった傑物は、今では得がたい。皆が紳士的になり、ソツない処世術を身につけている。
 もっとも、昔の力士のほうが無茶飲みをしていても、十分に相撲を取れた。一年間に本場所が二回。しかも明治42年に国技館ができるまでは、幕内は一場所九日間、十両以下が五日ずつという呑気さにくらべ、今は関取衆が年間九十日の本場所相撲をつとめる。とうてい酒に酔い痴れるわけにはいかないのである。
 横綱玉錦や佐賀の花の師匠であった二所ノ関親方は、明治後期の名力士海山である。大豪常陸山が大関時代に二度かれに敗れたことで有名であるが、かれは稀代の酒豪をもって鳴った。二升や三升の酒は朝飯前、のべつ酒に浸っているといわれた。
 日清戦争のころ、入幕してまもなくだが、ある日、本場所の相撲場に姿が見えぬ。師匠の友綱取締(初代海山)が痛く心配して、心あたりを探させたところ、馴染みのある茶屋で前の晩から飲み続け、すっかりご機嫌のところを発見された。
 これを連れもどして、やっと取組に間に合わせた。たいへんな酔いようで、フラフラしながら締込みを締めて土俵に登った。ところが一旦仕切りに入ると、シャンとしてりっぱな立合いで、あっさり相手を投げとばした。そのまま悠々引きあげ、さっさと件の茶屋にもどり、また飲み続けて夜を徹した。
 その翌朝になって、「あっしまった。昨日場所に行くのを忘れた! こりゃたいへんだ」とばかり、大急ぎで部屋に帰り、友綱親方の前に膝まずいて、「昨日は場所を休んで申しわけありません」と、しょげた顔で平あやまりにあやまった。友綱は吹きだした。「何を言うんだ、お前は昨日もちゃんと相撲をつとめて、勝ったじゃないか」と言って聞かせたものだから、海山は大いに面くらい引き下がったが、昨日のことは、まったく酔眼朦朧、無意識的につとめたわけである。
 この海山について、さらによく知られた話がある。有名な大倉喜八郎が、向島の別邸に大男の外人をまじえて力士連を招待した。その西洋人は力自慢をすることしきりで、力士たちをも見くだしたようすで、しきりと力競べを挑んだ。けれども相手にしないでおとなしくして酒だけをたのしんでいた。大倉家にたいしても、ここでは遠慮しておくがよいと思ったからである。
 ところがこの外人がなかなかしつこく、力競べに応じないのは、弱味があるからだろうと、いよいよ不遜になる。それで海山がたまらなくなり、酒も十分に入っていることとて、矢庭に碁盤を一つ持ってきて、この上に立てと外人に示した。外人はそこにあがったところ、碁盤の裏側に海山は右手を突っこみ、一腰いれると、静々とこれを持ちあげ盤上の外人をよろめかすことなしに、高く突きあげたのである。この怪力には、当の外人も、並居る連中も、あっけに取られ驚嘆することしきりであったという。


 いやぁ、昔はゆとりというか、度量というか、大人というか、ほんとうになんというか、良い時代でしたねぇ。何からかにまで規則でがんじがらめにし、ギスギスして、失敗をけっして許さないせせこましい現代とは大違いですね。しばしの間、盃の中に心を遊ばせることにしましょう。・・・乾杯!



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