第274号(2010.7.10)
酒おもしろ話
 6月の中旬以降、例年に比べて気温の高い日が続き、7月に入ってからはさらに蒸し暑さが加わり、本格的な夏を迎える前からもうすでに夏バテ状態。
 川に胸まで浸かって、掛かった鮎の引きを竿でためている7月のがまかつ(釣具メーカー)のカレンダー写真を眺めながら、何をする気力も起きず、ただボーッとパソコンの前に座っています。
 さてと、気を取り直して、富田通信と参りましょう。今回は『酒雑学事典』毎日新聞社編より、酒にまつわるおもしろ話を紹介します。

酒造りの上手な天女の哀しい伝説
 『丹後国風土記』には、酒のかかわった羽衣伝説が載せられている。
 丹波の国、比治(ひじ)の里に真奈井(まない)という泉があった。この泉に天女が八人降りてきて、水浴をした。この時、和奈佐老夫(わなさおきな)、和奈佐老婦(わなさおみな)という老夫婦が居合わせ、こっそり天女の一人の衣装を隠してしまった。
 衣装のある天女たちは、やがて天に帰ったが、衣装のない一人の娘だけは、泉から上がることもならず、水に身を隠して、羞恥と困惑に、泣かんばかり。
 老夫婦は頃を見計らい、「私には子がいないので、ぜひ私の子になってほしい」と頼む。「衣装を返してくれれば」という天女に、だますのか、いや、天人はそういうことはしない、等々のやりとりがあり、結局、その天女は十余年の間、老夫婦の娘として暮らすことになった。
 ところで、この天女は酒を造るのが上手であった。それを一杯飲むと、どんな病気でも治ったので、人々は、たくさんの財貨を贈ったという。当然、老夫婦は富豪となるわけだが、豊かになると、邪険にも、「お前は私の子じゃない。しばらくの間、仮に住んでいただけにすぎない。もう用はないから、一刻も早く出て行け」と、追い出してしまった。
 天女は泣き、哀願して、留まることを頼むが、聞き入れてもらえない。
 この天女は、人間の世界にいすぎたために、結局、天へは帰れず、傷心のまま、村々を辿り歩き、竹野の郡、舟木の里の奈具(なぐ)の村に到って、そこにとどまり住んだという。それが奈具の社であり、祭神の豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)だというのである。ただし、旧社地は流出して不明である。

 いやぁ、近頃の若い者は・・・、なんて言葉をよく聞きますが、日本じゃ昔からお年寄りもなかなかどうして・・・。では、引き続き、振袖火事のお話。

酒の醸造を禁止させた振袖火事
 明暦三年(1657)1月、江戸には俗に「振袖火事」と呼ばれる大火が発生した。江戸市中はその大半を焼失し、江戸城も本丸、二の丸が焼け落ちるという、江戸開府以来の大災害に見舞われた。現代ならさしずめ災害救助法の適用ということになるが、幕府も慌てて大阪、駿府などから銀二万貫を江戸に送らせ被災者に分け与えた。
 しかし、この大火の結果、全国で米価が異常な高騰をした。幕府は米価対策、米使用量規制対策の一つの方法として、全国での酒の醸造を一時禁止した。ほどなく米価は安定したが、幕府はこれを機に、酒造家のこれまでの実績に応じた米の使用高を明記した「酒株」(酒造権)という許可証を発行した。
 そして、これがなければ酒を醸造することはできないという定めにした。
 また、凶作などで米の収穫が少なかった時は「株高何分造り」、米の豊作の時には「勝手造り」など、米の使用量のコントロールも、すべてこの酒株をめどにして行なわれた。しかし、酒の需要の年々の増加に、酒株に規定された米の使用石数ではとても応じきれなくなり、しばしば密造酒が発見されるなどの事件が発覚した。
 そこで、元禄十年(1697)に全国の酒造高を調査した。これを元禄の「株改め」といい、「元禄調高」の株を発行した。
 さらにこの時から酒価の五割に当たる運上金を賦課することになった。さらに、天明五年(1785)に再び株改めを行ない、調査結果に応じて酒株を改定、これは「稼高」と呼ばれた。
 しかし、天保年間(1830〜1844)になると、灘などに大醸造場が出現し、酒株の公認醸造高と実質醸造高とに大きな食い違いが生じ、ついには酒株十石で千石以上の実績を持つ醸造場の出現も見るに至った。この結果として、幕末になると、御家人株などと同様に倍々の対象ともなり、酒株は大醸造家の手に集まるようになった。
 しかし、酒株制度は、明治四年7月、明治新政府の太政官布告によって廃止され、営業免許制度に代わるまで、約二百年以上もの長い間、日本の酒の醸造を支配してきた。

 恋に取り憑かれて死んだ若い娘の情念のこもった振袖が、200年以上もの間、酒の醸造を支配してきたとは。若い娘の一念は凄いですねぇ。



商  品  紹  介
上喜元 発泡性清酒 『涼夏(すずか)』
 夏本番を直前に控え、暑い夏にぴったりなスパークリング日本酒です。
 山形県で開発した特許酵母「TY−24」を使用し、発泡性清酒に最適なにがみと甘さ、そしてコクをバランス良く仕上げた一本です。
 発泡性というとにごり酒を連想しますが、この酒はスッキリと澄んでいて、にごりではありません。
 夏に涼を運んでくれたらとの願いを込めて、商品名は涼夏(すずか)。そんなわけで、発売時期も6月〜9月までの限定出荷です。
 キンキンに冷やしてお召し上がり下さい!!
  内容 原料米:出羽の里 精米歩合:60% アルコール度:9%
     日本酒度:−15 酸度:1.5 酵母:TY−24
                     330ml 567円
出羽桜 発泡性清酒 『咲(さく)』
 「咲」は「にごり酒」ではない、クリアで透明なスパークリング日本酒で、山形県が開発し特許も取得した「TY−24」という、酒に旨みとコクをもたらす「チロソール」を多く生成する酵母を使ったお酒です。そのため、低アルコール酒でも、旨みとコクが十分に味わえます。
 蒸し暑い夏の夜、キンキンに冷やしてお召し上がりください。
 なお、仕込みタンクの大きさの関係で仕込量が非常に少ないため、品切れの際はご容赦ください。(入荷予定日:7月下旬)
  内容 原料米:出羽の里 精米歩合:65% アルコール度:9%
     日本酒度:−9 酸度:1.2 酵母:TY−24
                     250ml 483円
麓井 純米吟醸 『フモトヰ 夏純吟』
 細身でスマート、かつ、やわらかさを併せ持つ味わいが得られる山形の酒米「出羽燦々」の特質を生かした、夏向けのすっきりと味わえる純米吟醸酒です。
 軽く冷やしてお召し上がりになると、みずみずしい吟醸香がお楽しみいただけます。
  内容 原料米:出羽燦々 精米歩合:55% アルコール度:16度
     日本酒度:+2〜+4 酸度:1.5〜1.7 酵母:山形酵母
                     1.8L 2730円




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