第272号(2010.5.10)
杯のいろいろ
 新庄は4月の中ごろ、数日にわたって雪が降り、また積もったりして・・・。その後も寒い日が続き、桜の開花も大分遅れて28日になりました。
 幸い、5月に入ってからは好天続きで桜もあっという間に満開になり、そして、ゴールデンウイーク最終日には早々と散り始めました。今年の春はなんとも慌ただしい春です。
 そんな慌ただしい春の最中に、町内の仲間たちとお花見をしてきました。満開の桜の下で杯を酌み交わす・・・、まさに至福の一時でした。
 そこでというわけではないんですが、今回の富田通信はこの杯について『日本酒おもしろ雑学事典』より書いてみます。

杯のいろいろ
 杯・・・さかずきとルビをふるが、昔は、さかづきとふった。酒に付いているものだから。
 この“さかづき”という字、いくつご存じだろうか。盃、盞(さん)、觴(しょう)、白、巵(し)、觚(こ)、?(か)、爵(しゃく)も、訓読みはさかずき。爵は一升入る大杯で、飾りがついており、三本の足で支えられている。中国から伝わったという。爵を賜う・・・公、伯などの爵位も、この盃を賜うからきたという。
 浮も、大杯のことで、爵と同じ。昔、罰杯(とがめのさかずき)といって約束を違えた罰として、この大杯で酒を飲ませたが、それを「浮白」といった。白も杯のこと。鐘も中国では杯のことを指した。“千鐘百斛”とは千百の杯を重ねという意味。
 大原杯、武蔵野杯は大杯のこと。酒宴の最後に、この大杯を傾けてお開きとする慣わしがあった。武蔵野の月をかたどったとも、夕立の空より広き、といわれた武蔵野からつけたともいう。
 織部杯は、小杯。織部型という型までできて、一時は、織部といえば杯を指した時期もあった。
 蟹の杯は、蟹の甲羅を杯にして、その中のミソを溶かして飲むのをいうが、もともとは遊女吉野が愛用した杯で、蟹をかたどって、そこに杯をのせながら、酒席を横歩きするからくりがしてあったという。
 烏杯は、鎌倉時代、黒漆塗りの杯が出て来て、それをいった。藤原道隆は、この杯を愛用したと『酒茶問答』に出ているが、そこには、この烏杯のほかに、金杯、銀杯、薬玉船、玳瑁(たいまい)瑪瑙の器、荷葉杯、猩々杯、蓬莱山、海山螺、金蕉葉、匏子巵、慢巻荷など中国で愛用された杯が記されている。わが国のものとしては、先にあげた、吉野の蟹杯、烏杯、おうむ杯、浮瀬の鮑などが記されている。
 おうむ杯とは、鳴き声でもしたのだろうか。浮瀬の鮑は、鮑貝の殻を杯に造ったものだろう。
 引杯は、饗膳のとき配る杯。床杯は初夜を迎える新婚男女が、寝室で、差し向かいで杯を交わすこと。戦前までは残っていた婚姻風習。
 ところで、杯を猪口というようになったのは、いつごろからかわからないが、その形が猪の口に似ているところからいわれるようになったというから、杯より、少し深いものに対していわれたのではないだろうか。鹿児島地方では、杯より少し深いものを“のぞき”といっていた。

日本の杯はなぜ平たいのか
 酒に限らず水溶液状のものを飲むには、世界どこの国をみても、底が深いもの、つまりコップと限られている。
 ところが日本酒に限っては、底の浅いもの・・・杯である。これはどういうわけだろう。
 これは、騎馬民族と農耕民族の違い。
 中国、オリエントなどで発掘される有史以前の酒の器は、ある程度の深さがあって、ほとんどが底が尖っていたり、丸くなったりしていて座りの悪いもの・・・尖底土器。これは、騎馬民族文化圏において、有史以前の液体を入れる器としては、牛とか山羊などの角が利用されたことから発達したもの。
 動物の角は、一番手近にある食器だった。だから、中国、中東、ヨーロッパなどの酒の器には、動物をかたどったものが多い。また、ヨーロッパの北辺の海洋民族も、この尖底の酒器を使っているのは、地続きによる文化交流があったため。が、日本は違う。
 かの有名な『魏志倭人伝』の「東夷伝」には“無牛馬虎豹鵲”と、その当時の日本には、牛や馬、虎、豹、さらに鵲(かささぎ)がいなかった、と記されている。であれば、当然、動物の角なんて、我々の先祖様には関係のないこと。
 農耕民族であるが、海に囲まれていることで、海辺に親しんで暮らしてきた民族が、貝殻を食器、酒器として用いるのは、当然の成りゆき。
 そして、土器を用いるようになっても、貝殻からの発想で、酒器は底の浅いものとなったのである。



商  品  紹  介
出羽桜 微発泡にごり酒
       『とび六』 吟醸生酒
 乾杯の酒、脂っこい食事と相性の良い酒、出羽桜がそんな要望にお応えするのが吟醸にごり酒の『微発泡 とび六』です。
 これまでの発泡性日本酒は、低アルコールの甘口が主流でした。『微発泡 とび六』は吟醸生酒の奥深くも優しい味わいに加え、微発泡の爽やかなのど越し、甘すぎない風味が絶妙です。
 吟醸にごり酒『とび六』をキーンと冷やして、炭酸の刺激とともに爽やかなのど越しをぜひご賞味ください。
 入荷予定日 5月中旬
  原料米:山形県産米 精米歩合:50% 度数:15〜16度
  日本酒度:−3 酸度:1.5 酵母:小川酵母
  ※取り扱い注意点
  ・必ず冷蔵庫で保管してください。
  ・開封の際は噴き出す恐れがありますので、冷たいまま、ビンを振らずに、王冠を少し開けたり締めたりを繰り返し、ビン内部のガスを十分抜いてから開封してください。
  ・沈んだ「オリ」は、開封後、王冠を締め直した後に、軽くゆすって混ぜてください。
                     300ml 630円



……… 編 集 後 記 ………
○5月に入り、やっと春を心から実感できるようになりましたが、それでもまだ山々には雪が多く残り、季節は10日から半月ほども遅れているような感じです。
 この時期になると決まって動き出すのが釣りの虫。もう少し冬眠してくれていてもよさそうなものですが、半年近くも雪と寒さに閉じこめられていたせいか、抑えても抑えてももぞもぞと頭をもたげてきます。
 裏庭で竿を伸ばしては、釣りのイメージトレーニングでなんとかごまかしてはいるのですが、もうそれも限界に近いようです。
 さてさて来週あたりにでも釣りの虫をあやしに、竿をかついで釣りに行ってくることにいたしましょう。エヘヘ。

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