第254号(2008.11.10)
女人禁制
 10月の下旬からもう十日ほども傘の手放せない日が続いています。あと四日ほどはこの状態とのこと。里山はすそ野まで紅葉し、街中も赤や黄色に染まった葉が木枯らしに舞っています。白い便りが届くのもそんなに先のことではないでしょう。新庄はいま、晩秋のさなかにあります。
 11月、あちらこちらの酒蔵では酒の仕込みが始まっています。酒づくりが科学的に解明されてきた現在では信じられないような話ですが、酒蔵には昔から伝わっているいろいろな禁忌がありました。
 今回の富田通信はその中の女人禁制について坂倉又吉氏の『酒おもしろ語典』より書いてみましょう。
 なお、この本の出版はいまから20年ほど前ですのでその分を差し引いて読んでください。

女人禁制
 禅寺の女人禁制がだんだん解かれてきたように、酒倉の禁制をいまだに守っている倉は数少なくなりましたが──。
 そもそも、大昔にはコノハナサクヤヒメの伝説により皆さまもご存じのように酒づくりの仕事は今とは反対に女の務めであり、その酒造の長を、昔は刀自(とじ)と呼んでいました。
 それがやがて酒造はまったく男の専売となり、この刀自の名は杜氏と変わり、その名残が知名婦人の呼称○○刀自となったのです。そして酒づくりはまったくの男仕事となったのですが、それと共に酒倉内より女を閉め出し、絶対女人禁制とまでなったそのわけは──
 まず、その第一説は、誠にご婦人方には失礼千万なお話ですが、清浄無垢でなければならない酒倉に不浄なもの(?)が入ると酒がけがれるという考え方から──
 その第二は、そもそも酒をつくる人々は百余日の間、可愛い妻子と遠く離れて、一切禁欲主義で酒造に専念するものですから、その酒造倉に女性が出入りしたのでは、ぼん悩からせっかくの腕もにぶり、駄酒しか出来ないであろうから──
 その第三は、これはまた学理的な論拠がありまして、女性の月のものが酵母の繁殖にとって有害であるとの理由であります。
 このことは、芝田晩成氏の『酒道』によりますと、今から数十余年前のドイツのある微生物研究所における珍しい発見により裏付けられております。というのは、この研究所で酵母の移植法をやっていましたが、時々酵母がうまく繁殖しないことがあることに気がつきまして、その原因についていろいろ調べてみると、どうやら女性の植えつけた酵母の繁殖が弱いらしい。どういうわけだろうとさらに調べてみると、それは月に一度ということが分かり、しかもその一度は、彼女たちの生理の時に限られている、ということで突きとめることができたのであります。そして生理時に女体から一種の酵母に有害なレー(眼に見えぬレントゲン線のようなもの)を発散するということを発見しました。さてそうだとすると、我々が何百年も前から女人禁制を通していたということは、これは大したことだと申せましょう。

 と、坂倉又吉氏は女の人が酒づくりの場に立ち入ることが酒倉の禁忌になった理由を紹介しています。坂倉氏は第三の説、つまり生理中の女性が酵母に有害なレーなるものを発散するという学説にいたく興味を示されていますが、これも今となってみれば、かなりいかがわしい説ですよね。
 何年か前、ある酒蔵に遊びに行ったときのこと、机に南部杜氏協会が出版元だと思ったんですが南部杜氏全員の履歴が紹介された本が載っていました。何気なしにパラパラとページをめくっていたのですが、ふと面白いことに気がつきました。それは杜氏の生まれ月です。早生まれが多いような気がしたのです。あらためてじっくりと見てみると、やはり1〜3月生まれが一番多くて、次が7〜8月生まれ。10月〜12月生まれはほとんどいませんでした。
 稲の刈り入れ始末がついてから酒蔵に入り、仕込みが終わる早春まで家を離れての禁欲生活。・・・思わずなるほどと感心してしまいました。
 まあ、今では酒づくりの労働環境も昔に比べればはるかに良くなって、蔵人も土日は休めるようになったり、年末年始の休暇も取れるようになってきていますので、次世代の杜氏には生まれ月の偏りはあまりないかもしれません。
・・・乾杯!



商 品 紹 介
出羽桜 『出羽燦々 無濾過生原酒』
 「搾りたて」の槽口を、手を加えずにそのままビン詰めにした純米吟醸原酒です。
 出羽桜らしい北国の女性を想わせる繊細で美しい味わいの中に原酒が持つ重厚な旨みが加わった香味が楽しめます。
  内容 原料米:出羽燦々 精米歩合:50% 度数:17〜18度
     日本酒度:+4 酸度:1.4 酵母:山形酵母
  入荷予定:12月上旬          1.8L 3150円
                        720ml 1575円
出羽桜 『桜花吟醸酒 さらさらにごり』
 「さらさらにごり」の季節がやってきました。桜花吟醸酒らしい香りと、繊細な味わいが楽しめる、芳醇な「にごり酒」です。口に含むと新酒らしいフレッシュな口当たり、深い余韻が流れます。
桜花の“しぼりたて新酒”をぜひお試しください。
  内容 麹米:美山錦 掛米:雪化粧 精米歩合:50%
     日本酒度:+5 酸度:1.2 度数:16度〜17度
     酵母:小川酵母
  入荷予定:11月下旬          720ml 1550円
最上川 雪室熟成酒 『純米吟醸 山田錦』
 新酒を雪室に入れてじっくりと熟成させました。香りが高く、味も豊かにのっています。
 内容 原料米:山田錦100% 精米歩合:50% アルコール度:16度
    日本酒度:+3〜+5 酸度:1.4〜1.6
                     1.8L 2800円
最上川 雪室熟成酒 『特別本醸造』
 こちらも上と同じく「雪室熟成酒」。香味のバランスがよく、軽めの味わいで、冷やに向いています。
 内容 原料米:はなの舞 精米歩合:60% アルコール度:16度
    日本酒度:+3〜+5 酸度:1.2〜1.4
                    1.8L 2100円



……… 編 集 後 記 ………
○先月発売された出羽桜純米大吟醸『一路』は、リニューアル前の純米吟醸一路がIWC2008「SAKE部門」最高賞チャンピオン・サケを獲得したことも相まって、入荷直後に売り切れてしまいました。大勢のお客さまにご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした。来年1月中旬には「しぼりたて生原酒 一路』が入荷しますので、もうしばらくお待ちください。

E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール