第248号(2008.5.10)
ちょっといい話
 4月16日に桜の開花宣言がでた新庄ですが、その後も気温が20度を超える日が続いてあっという間に満開になってしまい、かど焼き大会の始まった29日にはほぼ散っていました。
 ところで先月、暖かくなって釣りシーズンも近づいてきたことだし、シーズンオフの冬の間に手入れに出していた竹竿を送り返してもらおうと竿師の島田天明さんに電話したんですが、そこで、とっても感銘を受ける出来事がありました。
 昨今、暗い事件や嫌なニュース、とても聞くに堪えない恥知らずな言い訳やウソ、開き直ったような発言が連日のように新聞やテレビで流れていますが、そんな中で天明さんの言葉はまさに薫風のような一服の清涼剤でした。
 今回の富田通信は「ちょっといい話」と題して、天明さんのこと、そして先の出来事を書いてみたいと思います。

竿師・島田天明
 天明さんの竿師としての経歴はちょっと変わっています。竿師になる前の天明さんの職業はタクシーの運転手でした。それも無類の釣り好きでしかもクロダイのヘチ釣りの名人でした。
 ヘチ釣りという釣り方が比較的新しい釣りということもあって、おそらく天明さんの満足のいく釣り竿がなかったのでしょう。彼は鯉釣り用の竿を改良したり、釣具屋で延べ竿を買ってトップの部分をグラスの穂先に付け替えたりして、自作の竿をつくりました。そして自分がつくった竿でクロダイを釣ったときの面白さにのめり込んでいったのです。
 彼自身「出来た竿を持って黒鯛を釣りに行き、釣れた時の喜び。自分で作った竿で釣り上げたと言う事が、何ものにも代えがたい喜びでした。この頃が、私の竿作りの原点になったと思います」と語っています。
 そんなわけで天明さんは竿をつくっては釣りに行き、問題点を見つけ出しては竿を改良しと、まったくの独学で独自のヘチ竿を完成させていったのです。
 天明さんの釣りや竿に対する人並み外れた探求心の強さと、その気さくな人柄から自然に彼の回りには多くのヘチ釣りファンが集まり始め、やがて竿つくりを頼まれるようになり、竿師の道を歩むことになったのです。
 ここでちょっと、天明さんのつくった竿、いわゆる天明竿の際立った特徴を紹介しましょう。一番大きな特徴はその形にあります。普通の竿は水平に構えると自重で少し垂れ下がります。ところが天明竿は美しい曲線を描いて上向きに反っているのです。その形はまるで日本刀を思わせます。
 これは、天明さん独自の竿つくりの考えによります。自然に生えている竹は多かれ少なかれ曲がりがあります。竿をつくる場合はこの曲がりを火入れという作業でまっすぐに直すのですが、天明さんはこの曲がりをそのまま竿に利用するのです。なぜならば、その方が出来上がった竿が強いからです。
 多くの竹竿は使っているうちに下向きに曲がり癖がついてしまうのですが、天明竿は自然の竹の性質をうまく利用しているためにこの曲がり癖がほとんどつかないのです。これはとりもなおさず、魚をかけたときにいつでも竿の性能が完全に発揮できるということです。
 その他にも天明竿は実釣から生まれた竿だけあって、細やかな工夫が凝らされていて実に使いやすくできています。

天明さんとの会話
 さて、肝心の天明さんとの電話のやりとりを紹介しましょう。実は去年、かなりの大物とのやりとりがあって、竿の手元が少し下向きに曲がってしまったのでした。その時は結局、釣り針が折れてしまって釣り上げることができなかったのですが、想像以上に大きな力が竿に掛かったのでしょう。
 去年の暮れ、竿を手入れに出したとき、天明さんに竿の手元の曲がりについて説明し、火入れで直してくれるように頼んでおいたのです。
私「そろそろシーズンなんで、竿を送ってもらえますか?」
天明さん「あのね、富田さんに了解を取らなくて悪かったんだけど、つくり直しているからもう少し待ってて。」
私「・・・えっ、つくり直している?」
天「あの曲がりは、火入れで直してもまた曲がっちゃうと思うのよ。だから別につくり直しているのよ。」
私「えっ、本当ですか。・・・で、費用の方は?」
天「費用? こっちの責任だから、お金は一切いらないよ。気にしないで。第一、曲がり癖がつくなんて、自分で納得できないからね。」
私「いいんですか? ありがとうございます。何だか申し訳ないですね。」
天「いいの。いいの。できるだけ早く仕上げるから、もう少し待っててね。」
ってんで、その後しばしの間、釣り談義に花を咲かせて電話を切ったのですが、ものをつくる人間の誇りと心意気に実に清々しい気持ちになりました。
 島田天明さんと天明竿に乾杯!



商  品  紹  介
出羽桜 微発泡にごり酒
       『とび六』吟醸生酒
 乾杯の酒、脂っこい食事と相性の良い酒、出羽桜がそんな要望にお応えするのが吟醸にごり酒の『微発泡 とび六』です。
 これまでの発泡性日本酒は、低アルコールの甘口が主流でした。『微発泡 とび六』は吟醸生酒の奥深くも優しい味わいに加え、微発泡の爽やかなのど越し、甘すぎない風味が絶妙です。
 吟醸にごり酒『とび六』をキーンと冷やして、炭酸の刺激とともに味わえば暑い夏の日に最適です。
 入荷予定日 6月上旬
  原料米:麹米・美山錦 掛米・雪化粧 精米歩合:50%
  度数:15〜16度 日本酒度:−3 酸度:1.5 酵母:小川酵母
  ※取り扱い注意点
  ・必ず冷蔵庫で保管してください。
  ・開封の際は噴き出す恐れがありますので、冷たいまま、ビンを
   振らずに、王冠を少し開けたり締めたりを繰り返し、ビン内部の
   ガスを十分抜いてから開封してください。
  ・沈んだ「オリ」は、開封後、王冠を締め直した後に、軽くゆすって
   混ぜてください。
                     300ml 630円
最上川 純米酒『出羽の里』
 やや辛口で、食中酒として最適のお酒です。
  内容 原料米:出羽の里100% 精米歩合:80% 度数:15.6度
     日本酒度:+3 酸度:1.6
                    1.8L 2100円



……… 編 集 後 記 ………
○4月20日、当店のお客さん主催の酒の会で篠笛の演奏をしてきました。音を出し始める前までは緊張しましたが、どうやらその緊張がいい方に働いたらしく、自分でも驚くほど澄んだきれいな音が流れ始めました。演奏は大好評でなんかやみつきになってしまいそう・・・。エヘヘ。

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