第245号(2008.2.10)
名酒を楽しむ集い
 節分も終わり、立春を過ぎても、新庄は相変わらず気温の上がらない日が続いていて、今日も低温注意報が出ています。積雪の方は約80cmと例年に比べれば少なく、今のところ比較的楽な冬を過ごしています。このまま荒れることなくなんとか春までいってくれるといいのですが。
 さて、『名酒を楽しむ集い』を開いてから20年の歳月が経ちました。そこで今回の富田通信はこの集いについて思いつくままに書いてみたいと思います。

昭和63年3月5日
 この日に『名酒を楽しむ集い』は産声をあげました。会の名前をなぜ、『吟醸酒を楽しむ会』にしなかったかというと、昭和63年当時でもまだ吟醸酒という言葉は一般化していなくて『名酒』の方が通りが良かったことと、会を組織できるほどには吟醸酒ファンがいなくて、それに何より一人でも多くの方に吟醸酒を知ってもらいたいと思って、誰でも参加自由の『集い』にしたのです。この基本的な考えは今でも変わっていません。
 第一回目の『集い』は『共和』という居酒屋で、会費3000円、定員20名で行ないましたが、参加者を集めるのが大変でした。学校の先生に声をかけたり、友達に声をかけたり・・・。この時飲んだ酒は出羽桜酒造の純米酒や吟醸酒の全種類です。結果は美味しい酒を使った大宴会というものでした。
 回を重ねる毎に、だんだんと吟醸酒ファンの割合が増えていったのですが、第三回目の『集い』の時、私にとって本当にショッキングな事がありました。
 当時、酒の情報誌『びくん』という雑誌が全国地酒ランキングなるものを発表してまして、そこで発表された吟醸酒部門の一位から五位までの吟醸酒を何とか買い求め『集い』にだしたのです。一升一万円クラスの大吟醸ばかりです。当然会費が高くなって5000円になりました。そのとき、参加を呼びかけた人の中から信じられない声が聞こえてきたのです。「富田は儲けている」というものでした。平成2年、今から18年前のことです。その当時はこの種の会は酒屋がファン感謝の一環として、格安で、あるいはタダでお酒を提供するというのが一般的でした。
 しかし、吟醸酒をつくっている蔵人たちの熱い想いを知っている私としては、この酒を格安であるいはタダで提供するなどということは、蔵人たちの想いを踏みにじることと同じ事でとうていできなかったのです。
 いっそのこと、『名酒を楽しむ集い』を止めてしまおうかと思っていたとき、ある吟醸酒ファンの「分からない奴もいるさ。そんな奴のために止めることはない。私は参加するから予約ね。」という言葉に救われました。
 と同時に、それまでの私は、吟醸酒というものを皆に知らせなければならないという思いが強すぎて、自分が楽しんでなかったことに気づいたのです。

篠田次郎先生
 『名酒を楽しむ集い』が今の形になったのは吟醸酒研究家の第一人者である篠田先生のお陰です。
  篠田先生には平成4年の第五回『名酒を楽しむ集い』に来ていただいたのですが、せっかくいらっしゃるのだからできるだけ多くの方に集まってもらおうということになって、会場探しが始まったのです。そのときの吟醸酒がうちで冷蔵貯蔵させた2年から6年ものの大吟醸ということもあって日本料理店がいいだろうということになりました。昔から懇意にしている老舗の割烹『つたや本店』に打診したところ、快く引き受けてくれました。
 そこで、『集い』に出す酒のうちで一番若い、大吟醸2年古酒を持っていって、「少なくてもこの酒に負けない料理を出してくれ」と渡辺料理長に掛け合ったのです。今考えると、冷や汗ものですが、幸いなことにこの渡辺料理長がまた無類の吟醸酒ファンだったのです。あとで聞いた話ですが、山形県の『現代の名工』に料理の世界で初めて選ばれた人だそうです。
 『集い』は大成功でした。篠田先生の絶妙の解説、渡辺料理長の素晴らしい懐石料理、それに5種類の大吟醸古酒。『集い』は、最初から最後まで静かに、和やかに、酒と料理と話を楽しみながら過ぎていきました。
 これが本当の吟醸酒の会なんだと、初めて知りました。おそらくそれは、私だけでなくそこに参加した人たち皆が等しく感じたことだろうと思います。それが証拠にそれ以後の『名酒を楽しむ集い』はそのときの雰囲気をそのまま伝えています。

『名酒を楽しむ集い』の今後
 吟醸酒というものを一人でも多くの方に知ってもらいたくて始めたこの『集い』、スーパーやコンビニにも吟醸酒が並ぶようになった今、もうその役割も終わったような気がしないでもないのですが、その一方で吟醸酒にかける蔵人たちの想いが忘れ去られてきているような気もしています。
 蔵人たちの想いの詰まった美味しい吟醸酒を探して、これからもぼちぼちと続けていきたいと思っています。



お 知 ら せ
第20回『名酒を楽しむ集い』ご案内
 昭和63年3月に産声を上げた『名酒を楽しむ集い』もどうやら20年目を迎えることができそうです。これもひとえに吟醸酒ファンの皆さまのおかげです。
 今回は20年という節目の年でもありますので、特別な趣向を考えました。
 まずは、毎年大変お世話になっている会場の「つたや本店」さんのご好意により、つたや本店秘蔵の『東海道五十三次のお膳』を使わせていただくことになりました。このお膳は二の膳つきで、漆職人がそれぞれに色漆を塗り重ねたものを彫って、安藤広重の東海道五十三次の名画を描き出したという、文化財的価値のある大変貴重なものです。
 次に、肝心要の酒ですが、前回の集いが終わってから何がいいかと色々と考えていました。たまたま夏に遊びに行った栄光冨士さんで、製造部の白幡さんが鍵の掛かった冷蔵貯蔵庫を「ここは加藤相談役が管理していて本当は誰も入れないんだけれど」と前置きして内緒で見せてくれました。中に入ると昭和50年代からの鑑評会出品酒が一升瓶に詰められて各年度ごとにきちんと管理してありました。すかさず、『名酒を楽しむ集い』が始まった昭和63年の酒、すなわち昭和62酒造年度の酒を探すと約10本ほど並んでいるではありませんか。しめた!ってなもので、図々しくも加藤相談役にその貴重な酒を分けてくれるように頼んだところ、快諾を得ました。
 というわけで、今回の『名酒を楽しむ集い』の目玉は贅沢にも文化財的価値のある『東海道五十三次』のお膳で『集い』が生まれた年の大吟醸を飲もうというものです。
日時 平成20年2月23日(土)
       受付/午後6時  開宴/午後6時30分
会場 つたや本店
会費 10000円
定員 53名
主催 富田酒店
協賛 つたや本店
 出品酒:最上川「純米無濾過生原酒」
     麓井「純米吟醸雄町おりがらみ生酒」
     栄光冨士「大吟醸雫生酒」(低温熟成2年古酒の特別バージョン)
     出羽桜「万禮大吟」
     栄光冨士「鑑評会出品酒低温熟成20年古酒」




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