第234号(2007.3.10)
金魚酒とカストリ
 2月末、新庄郊外を車で走っていたら、もう田んぼのあちこちで土が顔をのぞかせはじめていました。暖かな陽ざしに誘われて窓を少し開けてみたらピーンと張りつめた清冽な雪の匂いの中に、温かく、気持ちをなごませる土の匂いがありました。そして、3月初めには、ついに積雪がゼロに! あぁ〜、もうじき春ですねぇ。・・・っと、昨日ここまで書いて今朝目覚めてみたら景色が一変していて見渡す限りの白、白、白。20cmほどの雪にすっぽりと覆われていました。やはり、いくら暖冬とはいえ、まだ3月上旬。いくらなんでもこのまま春になってしまうほど、新庄の冬は甘くはなかったですね。
 ところで先日、店のお客さんと吟醸酒談義に花を咲かせているとき、「いや〜、今でこそ米を贅沢に削ってつくる吟醸酒が当たり前のように飲めるけど、米が不足していた戦時中や敗戦直後はどんな酒を飲んでたんだろう」という話になりました。
 そこで今回の富田通信は金魚酒とカストリと題して、戦中、戦後の混乱期にあった酒を『酒おもしろ語典』坂倉又吉著より紹介しましょう。

金魚酒
 金魚酒とは戦争中に一種の風刺語として有名になったもので「金魚が酒の中で泳いでいることができる、それほど淡く水っぽい酒」ということです。いかに淡い酒でも、まさかそんなことはありっこないでしょうが、戦争中の酒の少ないとき、しかもまだ密造するほどの者もおらないという時代に、これもまた需要供給の自然の成り行きが、乏しい酒を少しでも分け合ってということから、正規の酒に水割り増量をする度合いが、だんだんひどくなり、ついに「金魚酒」といわれるようになったのです。
 もっとも当時は、今と酒税法が違っていて、今は市場に出るビン詰めの一本一本に酒税がかかるという、いわゆる「蔵出税(くらだしぜい)」という方式で、酒税法上定められた標準規格に従い、度数別、容量別によって酒税を納めるのですが、戦前、戦中の酒税法は「造石税(ぞうこくぜい)」というもので、清酒をつくり上げたときの醸造石数(キロリットル数)を入念に調べて、そのつくった石数により税金がかかるという方式でした。
 したがってつくってから蔵を出す前に水増しをしても、また問屋さんが買って卸す前に水増ししても、また小売屋さんがさらにそれに水増ししても、あるいはいろいろと蔵元の違う酒を調合しても、さらにまた料理屋さんが同じようなことをしても、それは税金がかかってから後のものですから自由であったわけです。しかし、いくら自由といっても、それはお客さまの「口」というものがありますから、そこにおのずから限度というものがあるのですが、極端な酒不足の時代になってきますと、どうしても「金魚酒」ということになりかねない事態になったのでしょう。

カストリ
 これは、終戦後の混乱期にまたたくうちに天下を風靡してしまった、敗戦日本の産んだ多くの奇妙なる傑作の中の代表的な一つとして、どぶろくと共に密造酒の代名詞ともなったことはもうご存じの方は少なくなりました。
 今ではもうほとんど影をひそめたこの密造酒「カストリ」は、今にしてみればむしろ滑稽なくらい原始的な醸法によっていたようです。当時酒が極端に不足していて飲みたくても飲めないという社会情勢のもとに、需要供給の関係から自然あちらこちらで密かにドブロクつくりが行なわれましたが、素人の不完全な醸法によるドブロクでは、酸っぱくてもアルコール分が少なく、腹はふくれてもなかなか酔うところまでは行きません。そこでそのヤミのドブロクを利用してつくった強い酒、すなわち一種の蒸留酒がカストリであります。
 その製法はいたって簡単で、ドブロクを鍋に入れ沸騰させる。その鍋の上に、もう一つ空の鍋を吊るしておきます。すると沸騰したドブロクの蒸気が、吊るした鍋の上に溜まって、雫となってポタポタ落ちる。ちょうど、風呂場の天井から、ポタポタと雫が落ちるのと同じ理屈です。この落ちる雫を、じょうろに受けて、竹の樋に流しながら自然冷却していき、ビンにためればそれで粗悪で安価で強烈な「カストリ」の出来上がり。
 なお、このカストリの語源となったものは「粕取焼酎(かすとりしょうちゅう)」ですが、こちらの方は酒粕に蒸気を通して酒粕に含まれているアルコールを回収したもので大変に香りが高く、今でもあちこちの酒蔵でつくられています。もちろん、「カストリ」と「粕取焼酎」はまったくの別物です。
 余談ですが、戦後の混乱期、巷には「カストリ雑誌」なるものがありました。これは、戦後の出版自由化を機に発行された、粗悪で安価でエロ、グロで特徴づけられる大衆娯楽雑誌の総称ですが、その語源はこのカストリにあります。
 これら大衆娯楽雑誌の多くがたいてい3号で廃刊になりました。そこで「3合飲めばつぶれてしまう」といわれた「カストリ」に掛けたのです。
 富田通信も今月で234号、内容はともかくとして、号数の多さだけでいえば、どうやらカストリ雑誌と呼ばれずにすみそうですね。・・・乾杯!



商  品  紹  介
最上川『純米吟醸 出羽の里』
 山形県の酒造好適米「出羽の里」を使った純米吟醸です。スッキリとまとまりの良い味に仕上がっています。
  内容 原料米:出羽の里 精米歩合:55% アルコール度:16度
                     1.8L 2700円
上喜元『純米 出羽の里』
 程よい酸味が食欲をそそります。常温〜ぬる燗でお楽しみください。
 まさに、毎日の晩酌に最適のお酒です。
  内容 原料米:出羽の里 精米歩合:80% アルコール度:16.2度
     日本酒度:+0.5 酸度:1.6
                     1.8L 1995円
お 知 ら せ
山 形 県 新 酒 「 歓 評 会 」
山形県新酒「歓評会」
 山形県酒造組合は全国に先駆け、全国180蔵余りの蔵元からご協力をいただき、全国新酒鑑評会の前哨戦を行ないます。夜はそのお酒を囲みパーティを開催します。
 全国180蔵の真剣勝負、ぜひこの機会にご参加くださいますよう、ご案内申し上げます。
 平成19年3月23日(金)
  ○一般公開きき酒 ホテルメトロポリタン山形3F(出羽の間)
    午後4時〜午後6時
    大吟醸出品酒およびDEWA33新酒発表会
  ○「歓評会」 ホテルメトロポリタン山形4F(霞城の間)
    午後6時15分開場
    午後6時30分開宴〜午後8時30分
    大吟醸出品酒飲み比べ(立食パーティー)
      出品予定蔵/山形県内全蔵元、東北・新潟蔵元、
            北海道から九州までの友情出品蔵元
  <入場券> 5,000円(先着500名様限定)
 お問い合せ先
  山形県酒造組合 TEL 023(641)4050


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