第233号(2007.2.10)
「いい酒だけでは売らない」???
 今年の1月の新庄はなんと真冬日が一日もありませんでした。それもそのはず、気象庁によると例年の新庄の1月の平均気温は−1.3度なのに対し、今年は+0.8度で観測を始めてからもっとも気温の高い1月だったそうです。
 積雪も1月15日の50cmが最高で1月末には14cmしかありませんでした。積雪が少ないことは、毎年数十人にも及ぶ雪による犠牲者が減ることや除雪の苦労から逃れられることなど、個人的には大いに喜ばしいことなのですが、除雪を仕事とする人々の収入が大幅に減ってしまい地域経済が冷え切ってしまう点をなどを考えると何とも複雑な思いです。
 毎年雪が少なければ、雪のためにできなかった仕事などが増え、地域も活性化するのでしょうが、ごく希に雪が少ないっていうことは、あまりいいことではないのかもしれませんね。
 さてと、そろそろ本題に入りましょう。今回の富田通信はある酒蔵とのやりとりを通して考えさせられたことです。

いい酒だけでは売らない
 先日、ある酒蔵の酒が気になって、問屋さんに問い合わせたところ「そこの酒蔵とは付き合いがあるから取れるんじゃないかな」との返事がありました。
 そこでとりあえず私の試飲用にその蔵のもっともポピュラーな純米吟醸酒を3本取ってくれるように注文しました。2〜3日して問屋さんから電話があり、「蔵元に聞いたところ、初めて取引する店にはいい酒だけの注文には応じられない」とのことでした。
 そこで私は酒蔵へ直接頼んでみることにしました。
私「もしもし、新庄の富田酒店と申します。じつは貴社の若い杜氏のAさんが素晴らしい吟醸酒をつくっているとの評判を聞き、ぜひお酒を飲んでみたくなってお電話しました。貴社の鑑評会出品酒は飲んだことがあるのですが、市販酒は飲んだことがなかったものですから、貴社のもっともポピュラーな純米吟醸酒を3本だけでいいので分けてもらえないでしょうか?」
社長「大変申し訳ありませんが、まったくお取引をしたことがないところへは、純米酒や吟醸酒のようないい酒だけの注文には応じられないんですよ。申し訳ありませんねぇ。」
私「・・・?!。わかりました。どうもすみませんでした。」
で、電話を切りました。

吟醸酒はおとり商材なのか
 その酒蔵は平成に入ってから何度も全国新酒鑑評会で金賞を取っていて、いい酒をつくることに情熱を傾け、本醸造酒以上の特定名称酒しかつくらない吟醸蔵との評判がある蔵でした。
 ショックでした。あまりのバカバカしさに腹が立つのを通り越して虚しさだけが残りました。
 それにしても、社長の「純米酒や吟醸酒のようないい酒だけの注文には応じられない」というのはどういうことなのでしょう。
 たしかに鑑評会出品酒のような非常に量の少ない貴重な酒を注文されたんだったら、量が少ない故にどこの馬の骨かもわからないやつにはやれないっていうのは、いくら図々しい私でも理解できます。
 しかし、私が注文したのはその蔵でもっとも一般的で、しかも量もたくさんある純米吟醸酒だったのです。なぜ断わられたんでしょう?
 いや、断わられてはいませんね。「いい酒だけ」ではダメだといわれたんでした。つまり、社長は「いい酒」を欲しければ「そうでない酒」をまず買わなければダメだ。といったんですよね。
 でもなぜ、「そうでない酒」をそうまでして買わせるんでしょうねぇ。あっ、そうか。「そうでない酒」は蔵にとってとてつもなく儲かる酒なんだ。
 あれ、でも、ここは本醸造酒以上の特定名称酒しかつくっていないはずなんですよね? 本醸造酒で消費者にバレずに儲けるには表示義務のいらない、安い米を使い、酒税法で定められている限度いっぱいのアルコール添加をすればいいのかな。ここの本醸造酒はそうやってつくってるんでしょうかね?
 この酒蔵にとって、全国新酒鑑評会で金賞を取ることや全国の有名地酒屋限定流通の酒なんかを販売していることは、それによって吟醸蔵としての地位を築き、集まってくる客に蔵にとって儲かる「そうでない酒」を売るための手段だったんでしょうね。
 この酒蔵にとって吟醸酒つまり「いい酒」は、「そうでない酒」を売るためのおとり商材に過ぎないんでしょう。
 このような酒蔵はほんとうにごく一部なんでしょうが、吟醸蔵として名が通っているところだっただけに虚しさが倍増します。
 話は変わりますが、いま私が吹いている篠笛は蘭情さんという笛師がつくったものですが、蘭情さんは精魂込めて作った笛を、「娘を嫁に出し、帰ってくるなという想い」で送るそうです。
 吟醸酒をつくる蔵に、この想いのあらんことを祈りつつ。・・・乾杯!



商  品  紹  介
麓井『純米吟醸 雄町 おりがらみ生酒』
 大変お待たせしました。やっと入荷しました。
 数量がわずかですので品切れの際はご容赦ください。
  内容 原料米:雄町 精米歩合:50% 度数:16.5度
     日本酒度:+2〜+4 酸度:1.4〜1.6
                     1.8L 3150円
お 知 ら せ
第19回「名酒を楽しむ集い」ご案内
 この2年ばかり続いた大雪がまるで嘘のように楽な冬を迎えていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 さて、第19回「名酒を楽しむ集い」を下記要領で開きます。今回もまた、私の独断と偏見で集めた美味しい酒を取りそろえて、つたや本店の素晴らしい懐石料理とともに楽しみたいと思っております。ぜひ、ご参加下さい。
 なお、定員になりしだい締め切らせて頂きますのでご了承下さい。

日時 平成19年2月17日(土)
       受付/午後6時  開宴/午後6時30分
会場 つたや本店
会費 10000円
定員 40名
主催 富田酒店
協賛 つたや本店

 出品酒:麓井「純米吟醸雄町おりがらみ生酒」
     出羽桜「純米吟醸無濾過生原酒低温熟成古酒」
     錦爛「大吟醸」
     栄光冨士「大吟醸雫本生」
     竹の露「全国新酒鑑評会出品酒」

※参加申し込みは富田酒店までお願いします。



……… 編 集 後 記 ………
○先日「世界最速のインディアン」という映画を観ました。夢の実現に向けて少しのてらいも、気負いもなく、ただひたすら純粋にひたむきに明るくたくましく進んでいく男の物語です。久々に観た映画ですが、感動しました。機会がありましたらぜひご覧になってください。

E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール