第229号(2006.10.10)
飲酒運転について
 10月といえばお酒の月。本来なら楽しいお酒の話などを書くべきなのでしょうが、飲酒運転が後を絶ちません。そんな折、吟醸酒研究家の篠田次郎さんが書いておられる『幻の日本酒を飲む会ニュース』10月号で飲酒運転について取り上げていました。今回の富田通信はこのニュースをご紹介します。

飲酒運転について   篠田次郎
某県主催の酒造業界のシンポジウムでのこと
 7月12日、東京都内で地方某県の研究会総会が開かれた。この会の○○周年記念ということで、東京で開くと同時に、いくつかの県からパネラーを招き、「日本酒の将来」を論じるものであった。本号では、その中の発言の一つだけを取り上げる。それは「飲酒運転」についてである。
 パネラーの一人はこういわれた。「飲酒運転という言葉は困ります。報道では、『飲酒』というが、その多くは『酒』を飲んでいるのではない。『焼酎やほかの酒類』を飲んでいるのに、報道では『飲酒』というので、いかにも『日本酒』を飲んでいるように聞こえ、日本酒のイメージを落としているのではないか」というものだった。
 私はそこで、失礼を省みず言葉を挟んだ。「ちがう、いま、報道は、飲んだ酒類がわかれば、『ビールを何本、焼酎をどれだけ』と報じているよ」と。
 日本における「日本の酒」の座から日本酒が滑り落ち、十年ぐらいになるだろうか。そのことを、お酒を飲まない人はいざ知らず、マスコミはちゃんと知っている。だから、テレビ・ラジオ・新聞などは、飲酒運転を報じるとき、飲んだ酒類がわかれば「何をどれだけ」と内容を報じている。
 8月末の福岡市の海の中道大橋における酔っぱらい車輌の追突による、被害車輌の海中への転落、そして子供3人が死亡した事故。このとき、ラジオの第一報は「飲酒運転」であったが、継続報は「ビールと焼酎のハシゴ2軒」と報じている。
 だいたい概要を報じるときは「飲酒」といっているが、飲んだ酒類がわかれば、マスコミは詳報しているようだ。「飲酒運転」と報じられてそれが日本酒にとって「冤罪」だというのは、うぬぼれが強すぎませんか。30年前までは、飲酒運転といえば、そのあらかたは日本酒飲みだったのですし、最近でもマスコミが「日本酒をコップ何杯」と報じることもあるのです。どこかの公営バスの運転手の事故がこの例でした。9月14日の神奈川県のタクシー運転手は、助手席に空になったカップ酒が3本と報じています。

もし「冤罪」だと思うなら・・・
 残念ながら飲酒することで、本人だけでなく、社会にも被害を及ぼすことがあるのは事実です。酒類をつくり、それを商材としている業界は、「飲酒運転防止を具体的に提示し、積極的にキャンペーンをはる」なり、「社会に与えた損害の幾ばくかを強制的に、義務的に負担すべき」ではないでしょうか。
 もし、日本酒業界、メーカーが、「われわれが原因となる部分は、他酒類より小さい」というなら、それを証明すればいいのです。
 飲酒運転でそれが表に出ている部分については、当局が犯罪として立件するにあたって、どの酒類をどれだけ飲んだかを調べています。だから、マスコミはそれが分かった時点から、「何をどれだけ飲んだ」と報じているのです。ただ、当局はその酒類別のデータまでまとめているかです。たぶんまとめてはいないでしょう。
 もし、あなた(日本酒メーカーさん)が、「自分までも飲酒運転とくくられるのは冤罪だ」と思うなら、あなたなり、業界なり、それから第三者も入れて、「飲酒運転の原因酒類分析調査」のための、NGOなりNPOを立ち上げればいいのです。
 いまは情報が公開される時代です。報道された飲酒運転ニュースそれぞれを、担当警察、担当報道機関に「何をどれだけ、どのように飲んだか」を問い合わせれば、「どの酒類がより多く飲酒運転事故と相関しているか」がはっきり出てきます。
 アルコール分あたりの価格、飲まれ方、宣伝の方法、社会の認識など、われわれの想像以外の要因もあぶり出されるのではないでしょうか。それをもって、メーカーなり流通なりに責任を求めればいいのです。
 報道された飲酒運転と、飲んだ酒類のデータを客観的に収集すれば、社会やマスコミはそれを受け入れなければなりません。世の中の判断は、公正なデータに導かれていくものなのです。
 それらが、「いい日本酒の愛飲家」たちとは関係がないということが分かれば、「いい日本酒」を愛するわれわれとしてはとても嬉しいことです。

やり方は難しくない
 これは難しい事業ではありません。グループを作り、地区別、報道メディアなどに担当を定め、標準問い合わせカードと整理のコード番号の入ったものを往復便で、事件ごとの警察署と報道マスコミに送ればいいのです。すべてについて返事が来るわけでもないでしょうが、ある期間中のものを、返信率と事件別内容とその集計を公開するのです。知りたいデータはほとんど浮かび上がってくるでしょう。どのような酒がどのように飲まれてどのような飲酒運転を引き起こしているか分かることは、社会も求めているはずです。それほど費用のかかることではありませんよ。
 ただし、「藪をつついて蛇を出す」可能性もないではありません。水よりも安く、飲みやすく調合された日本酒もあるのですから。

9月9日正午のNHKラジオニュース
 この幻のニュースを書いている最中である。姫路市職員、青森市消防署員、京都市量販店員の飲酒運転事故。ニュースの一報は「飲酒運転」という言葉であった。しかし夕方の姫路市の続報は「ビールと焼酎を飲んだ」と伝えている。
 そして、この言葉も乾かぬ10日朝、神戸市山陽本線の線路に、酒酔い運転の乗用車がネットを破って転落し、電車に大破されたと報じられた。(夕方6時のニュースでは、「ビールと焼酎」を飲んだと報じられている)
 今、社会は飲酒運転をどう防止しなければならないかを、より真剣に具体的に、実行可能なものとして考え、実現しなければならない。

9月5日、東京新聞「こちら特報部」からの問い合わせに答えて
 時々私たちの幻の酒の会を取り上げてくれる東京新聞から、電話でインタビューがあったので答えた。それが記事になっている。
『「幻の日本酒を飲む会」篠田次郎会長は「私たちの会は31年目になるが、飲酒事故を起こした人はいない。飲みたい量を飲むために、お酌は禁止。酒ぐせの悪い人は除名処分」と、正しい関係を説明、そうしてこう指摘する。「メーカーも酒販業も飲食業も共犯意識を持たなくてはいけない。メーカーは安く大量に酒を飲ませることだけを考えてきた。安い焼酎やジュースみたいに飲めるお酒がブームになり、今後はもっと心配だ。もっと文化的に酒を考え、正しい飲み方をしていかないとそのうち嫌煙権ならぬ嫌酒権が出てくる。」』



……… 編 集 後 記 ………
 富田通信もいよいよ20年目に突入しました。来年の10月には二十歳になります。けど、それまでネタが持つかな・・・。(汗)



E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール