第217号(2005.10.10)
純米吟醸酒は吟醸酒じゃない!?
 9月半ばまで続いた暑さもようやく収まり、最低気温が10℃を下回る日も出てきました。真っ赤に色づいた裏庭のザクロの実がやわらかな陽の光を浴びて輝いています。秋ですねぇ。
 今年の夏、お客様から『決定版 日本酒がわかる本』蝶谷初男著 ちくま文庫という本を頂いていたのですが、夏の疲れが取れた今、読んでみました。そうしたらとんでも無いことが書いてありました。
 他人の書いたものを批判するのはあまり好きじゃないんですが、内容が無視できないものでしたので敢えて書くことにしました。以下にその内容の一部を抜粋します。

『純米吟醸酒の大誤解 (『決定版 日本酒がわかる本』より)
 皆様方の(たぶん)ほとんどの方は、純米吟醸酒の方が良い酒と思っていると推察しますが。実は逆で、吟醸酒のジャンルの中では醸造アルコールを添加した吟醸酒の方が格ははるかに上なんです。逆にいえば、“純米吟醸酒は吟醸酒ではない”のです。
Q:なぜなの?
A:吟醸酒の気品の高い味わいと、そのえもいえぬ味のバランス、そして吟醸酒の特徴を際立たせる要素の一つである吟醸香は、アル添(醸造アルコールを添加すること)によって初めて生き生きと引き出されるからで、造りもアル添を前提としています。
 −中略− 言い方をかえれば、「吟醸酒は、アル添してこそ吟醸酒」なのです。
 よって、アル添をしない(できない)純米吟醸酒は香味が薄く、それだけ吟醸酒としての価値が低いということになり、品格がまったく違うものなのです。つまり、吟醸酒のレベルで物を語れる酒質ではないということなんですネ。
 −中略− ちなみに、造り手側は皆、純米吟醸酒は吟醸に非ずということを知っているのです(知らない蔵はモグリ)。 −後略−』


いやぁ〜、驚きました。昭和55年、今から25年前に初めて吟醸酒に出会い、それ以来ずっと吟醸酒にかかわってきましたが、「純米吟醸酒が吟醸酒ではない」なんてことも、「アル添吟醸酒の方が格が上」なんてことも、まして吟醸酒に「格」があるなんてことも初めて聞きました。
 こりゃ、私が知らないだけでみんなが知っていることなのか、今まで富田通信で言ってきたことはみんなウソだったのか、もし、蝶谷さんの言っていることが本当だとしたら頭を丸めて謝罪した上で酒屋を廃業しなくちゃならなくなると思って、初めて吟醸づくりを行なった故・花岡正庸氏の論文『吟醸清酒の醸造』(醗酵工学雑誌第30巻第10号 昭和27年10月)を読み返しました。
 その中の「アルコール添加」の項には「吟醸醪でも、最初から、総米の一割位の30%酒精を搾揚前に添加する事を計画して造る場合もあるが、之も差支無いと思う。此方が醪造としては容易である。 −中略− 吟味は此程度ならば十分表われる。」とありました。
 つまり、花岡氏はどこにも吟醸酒はアル添でなければダメだなどとは書いていないのです。むしろ純米吟醸の造りの方に主点を置いていて、アル添に関しては、しても差し支えないよと言っているのです。読み返してみて、まずは一安心です。
 蝶谷さんが言っているように「ちなみに、造り手側は皆、純米吟醸酒は吟醸に非ずということを知っているのです(知らない蔵はモグリ)。」だとしたら、山形県の酒蔵はみんなモグリということになります。なぜなら、山形県は酒造組合の方針で原材料すべて山形づくしの純米吟醸酒「DEWA33」を展開しているのですからね。
 ご丁寧にも、『決定版 日本酒がわかる本』の巻末にお薦め吟醸酒・銘柄一覧があり、山形県の銘柄では上喜元、米鶴、出羽桜が紹介されていました。彼らとは(彼らばかりじゃなく、山形県の酒蔵とは)親しくお付き合いさせて頂いていますが、彼らの口から一度たりとも「純米吟醸酒は吟醸酒じゃない」なんて言葉は聞いた事がありません。それどころか、彼らは誇りを持って素晴らしい純米吟醸酒をつくりだしています。
 また、当然のことですが純米吟醸酒とアル添吟醸酒の間には蝶谷さんの言われるような「格」なんてものは存在しません。だいたい「格」なんて概念がなんで必要なんでしょう。どういう発想をしたら「格」なんて言葉を思いつくのでしょう。私にはまったく理解できません。
 まあ、この『決定版 日本酒がわかる本』がアル添吟醸酒の熱狂的・狂信的著者による、アル添吟醸酒の熱狂的・狂信的マニアのための本で、しかも彼らの間だけで読まれるのなら目くじら立てる必要はないのかもしれませんが、一般書店で売られている本でしたので敢えて書きました。
 一日も早く、蝶谷さんが本当に素晴らしい純米吟醸酒とめぐり逢い、そしてお酒の世界が広がることを切に願って。・・・乾杯!



商  品  紹  介
出羽桜 純米大吟醸 『愛 山』
 酒造好適米「愛山(あいやま)」は1949年に兵庫県で生まれました。「山田錦」と「雄町」の血統が受け継がれ、大粒で心白の出現率も高く、非常に優良な酒米です。
 日本一の酒米生産地である兵庫県でのみ栽培されていて、作付け面積はわずか約35ヘクタール。現存する酒米の中で収穫量が最も少ない酒米の一つです。
 この希少なロマンの米「愛山」は、五味(甘辛酸苦渋)が絶妙に調和した味わいをもたらします。
 少量生産ですので、品切れの際はご容赦ください。

  内容 原料米:愛山100%使用 精米歩合:45% 度数:17〜18%
     日本酒度:+3 酸度:1.5 使用酵母:山形酵母KA
                    1.8L 4935円
出羽桜 三年低温熟成 『枯 山 水』
 今年も本醸造三年低温熟成古酒『枯山水』の季節になりました。古来、旧暦の9月9日重陽(ちょうよう)の節句から、お燗が始まったそうです。上品に枯れた味わいはお燗をするとますますその本領を発揮します。
 従来は1.8L詰めだけでしたが、今年から720ml詰めが発売されました。

  内容 麹米:美山錦 掛米:雪化粧 精米歩合:55% 度数:15.5%
     日本酒度:+5 酸度:1.3 使用酵母:小川酵母
                    1.8L 3100円
                     720ml 1550円



……… 編 集 後 記 ………
○長年だましだまし使ってきたパソコンの動作がいよいよ怪しくなってきて、新しいパソコンを買いました。メーカー品は高くて手が出なかったのでOSだけインストールされたBTOパソコンです。届いたやつを見たらなんと追加してもらった内蔵ハードディスクがまだ箱に入ったまま。仕方なく新品のパソコンのふたを開けてハードディスクを取り付け、パーテーションを作成して、OSをカスタマイズして、それから・・・、使いやすい環境をつくるのに一週間ほどもかかってしまいました。今回の富田通信は新しいパソコンで打っています。まあ、内容はパソコンの性能が上がったようにはいきませんが・・・。(汗)



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