第211号(2005.4.10)
酒よもやま話
 3〜4日前から、屋根の雪が解けて流れ落ちるひっきりなしの雨だれの音が止んで、スズメのさえずりが大きくなりました。8日現在でまだ田んぼには45cmの雪が積もってますが、畦の形がはっきりと分かるようになりました。雪で閉じこめられていた心と体が、芽吹きとともに解放されていくような感じです。
 ああ、春ですねぇ〜。あまりの安堵感に富田通信を書く気力も失せ、このまま春眠をむさぼりたい誘惑に駆られています。
 さてさて、この強烈な誘惑にあらがって富田通信と参りましょう。今回は酒よもやま話と題して、思いつくままに酒のあれこれを書いてみます。

緑酒(りょくしゅ)
 ♪ああ玉杯に花うけてぇ〜 緑酒に月の影やどしぃ〜♪ は、あまりにも有名な旧一高の寮歌ですが、ここに歌われている緑酒ってのはいったいどんな酒なんでしょうか。
 日本には美しい女の人を形容する言葉として「緑の黒髪」というのがあります。つやつやとした美しい黒髪という意味です。そこから類推すると緑酒は素晴らしい酒という意味でしょうか。
 もっとも、実際の日本酒も素晴らしい純米酒や吟醸酒の槽口の酒(ふなぐちのさけ・搾ったばかりの酒)の色は青冴え(あおざえ)といって、若竹色というか青みがかった黄色い色をしています。
 そう考えると玉杯に桜の花を浮かべて飲んだ緑酒は、実際に青冴えのした緑がかった素晴らしい造りの新酒だったかもしれません。
 蛇足ながらこの旧一高寮歌はこの後
「治安の夢に耽(ふけ)りたる 栄華(えいが)の巷(ちまた)低く見て 向ケ岡(むこうがおか)にそそり立つ 五寮の健児(けんじ)意気高し」
と続きます。
 先頃、どこかの国会の先生が酔っぱらって通りがかりの女の人の胸を触って逮捕されましたが、その時飲んでいた酒がワイン、焼酎、ビールだとか。
 もしこの時、この先生が吟醸酒を飲んでいたら、こんな低俗で恥さらしなことをしないですんだかもしれませんね。

養老 (『酒おもしろ語典』坂倉又吉著より)
 昔、美濃の国(いまの岐阜県)に、源丞内という男が住んでいました。
 彼は年老いた父親に孝養をつくしていましたが、家が貧乏なので父親の大好物であるお酒を買ってきて、飲ませてあげることができません。毎日山奥へ入って薪を取っておりましたが、なんとかして父親に好きなお酒を飲ませたい、そして喜ぶ顔が見たい・・・そればかりを考え仕事をしていました。
 あるとき、いつものように薪をとるため山に行ったところ、苔深い石にすべって転びました。
 起き上がってみると、どこからかぷうんと匂ってくるのは、おいしそうな酒の香り。はてどこにお酒が? 不思議に思ってあたりを探してみますと、石の間から流れ出る水が酒であることをみつけました。もとを辿って行きますと、落ちている滝の水がすべてお酒。親思いの源丞内、もっていたひょうたんにそのお酒を汲みとり家へ持って帰りました。
 父親は「これはうまいお酒だ」と大喜び。丞内は毎日滝のところへやってきては、お酒を汲んで帰ります。
 このことが、たちまち評判になり、「丞内は偉い奴だ」「丞内は親孝行だ」と、それからそれへと伝わってゆきました。
 この噂をお聞きになった時の天皇(元正天皇)は美濃に行幸されて、丞内の親孝行を褒め、美濃守に取り立てこの不思議な滝を“養老の滝”と名付け、年号も霊亀から“養老”と改めました。
 以上の話が“養老”のいわれとして一般的ですが、もっと古い文献、養老五年と奥書した『養老寺縁起』によりますと、話が違ってきます。
 主人公は同じ源丞内ですが、こちらは妻と母親がおります。こっちの丞内は親孝行どころか、悪いことをして捕らえられて三年間の役務に服することになりました。
 あとに残された丞内の妻は、酒好きの老母のため夫に代わり孝養をつくし、夫の帰る日を一日千秋の思いで待っていました。
 するとある夜、夢の中へ神様が現れて「明日の朝早く、滝へ行ってみなさい」とのお告げがあったのです。
 早速、妻は山中の滝の近くの泉を汲んでみると、不思議なことに酒になっているではありませんか。妻はひょうたんに詰めて持ち帰り、老母に勧めました。
 そして、それ以来二人でこの泉の酒を常用していると、二人ともすっかり若返り、丞内が帰ったときには30と20歳の美女に間違えられるほどになりました。
 この話を伝え聞いた、時の雄略天皇(457〜479)は、早速勅使を下され、その泉に菊水と名付けられた。・・・ということになっています。



商  品  紹  介
米 鶴 『盗 み 吟 醸 あらばしり』
 米鶴は高畠町にあり、昭和44年、『米鶴エフワン』という名で、山形県で最初に吟醸酒の市販に踏み切った酒蔵です。
 『盗み吟醸あらばしり』は、もろみを搾ったときに最初に出る白いオリがからんだ酒を瓶詰めした、にごり酒です。
 吟醸香があり炭酸ガスを含んだ味わいは、上品な甘さと相まって絶品です。
  内容 原料米:美山錦100% 精米歩合:55%
     日本酒度:0〜+3 酸度:1.2〜1.5 アルコール度:15度
                           720ml 1260円
【注意】開栓の際、吹きこぼれる恐れがありますので十分注意してください。
    また、保管の際は必ず冷蔵保管してください。
出 羽 桜 『桜 花 吟 醸 酒 さらさらにごり』
 毎年、この季節に発売される「桜花吟醸酒さらさらにごり」。にごり酒には珍しくしっかりと吟醸香があって、口に入れると炭酸が舌の上で楽しそうに踊っています。さらに後口には炭酸の刺激とともに何とも魅力的で美味しい酸が爽やかに残り、思わずまた飲みたくなります。これだったら、味の濃い料理や油を使った料理にも合いそうです。
  内容 麹米:美山錦 掛米:雪化粧 精米歩合:50%
     日本酒度:+5 酸度:1.2 アルコール度:16度〜17度
                          720ml 1550円
【注意】開栓の際、吹きこぼれる恐れがありますので十分注意してください。
    また、保管の際は必ず冷蔵保管してください。



……… 編 集 後 記 ………
○富田通信209号にも書きましたが、101号から200号までをまとめた『富田通信 第2巻』が出来ました。価格は1冊800円、送料込みで1070円です。ご注文をお待ちしております。また、1号から100号までをまとめた『富田通信 第1巻』(1冊500円、送料込みで770円)も在庫がありますので、よろしければこちらもお買い求め下さい。
○例年だったら、もう釣りを始めているころなのに、今年は雪解けによる河川の大増水で竿が出せません。あああ、早く釣りに行きたい・・・。



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