第204号(2004.09.10)
そばと酒
 いや〜、今年は台風の当たり年ですね。いま現在で上陸した台風が7個。これはなんでも、年間の上陸回数の記録だそうです。18号で7つの上陸ですから確率が3割8分9厘、イチロー並みですねぇ。
 加えて、9月1日の浅間山の噴火、5日の東南海地震と立て続けに来ると、それぞれに関係ない自然現象なんでしょうけど、何だか関連づけたくなりますね。
 さて、今回の富田通信は、前置きとはなんの関係もないんですけど、そばと酒について書いてみましょう。

そばについて
 そばの原産地は東アジア北部とか、中央アジアとか、中国の雲南地方とか言われていますが、最近の研究で栽培そばの原産地は中国の雲南地方ということがわかったそうです。
 日本へは、いつ頃伝わったのかは定かではありませんが、養老6年(722年)の文献に出てくるそうですので、遅くとも8世紀までには中国や朝鮮半島を経て伝わっていました。
 はじめの頃はおそらく表皮を取り除き粒状のままで他の食べ物に混ぜて食べていたものと思われます。やがて石臼の普及とともに挽いて粉にして、水で練って蒸した「そばだんご」や、熱湯で練った「そばがき」にして食べるようになりました。
 今のように麺にして食べるようになったのは江戸時代初期につなぎに小麦粉を使うようになってからといわれています。

そば屋
 江戸時代初期に今のようなそばができたといっても、すぐにそば屋ができたわけではありません。
 江戸の町は幕府成立のころはまだ前時代の形態をそのまま引きずっていました。江戸がいわゆる江戸らしくなるのは1657年の振りそで火事以降のことです。この火事により江戸の町は実にその55%が焦土と化したのですが、幕府はこれを機に大規模な町づくりを行い、18世紀前半までに人口100万という世界最大の町が出来上がるのです。
 そして、江戸に外食産業が現れるのはまさにこの振りそで火事のあった1657年なのです。それ以前にも、餅や煮物を大道で売る行商形態の食べ物の販売はありましたが、ここにきて店舗を持つ料飲店が現れます。料理屋の元祖である奈良茶の店が浅草に現れ、茶めし、豆腐汁、煮しめ、煮豆からなる12文の定食を出しました。奈良茶の店は、当時の町人文化をリードしていた関西から伝わったものです。また煮物を販売する煮売屋が続出し、席だけを貸し、仕出しで食べ物を売る茶屋なども繁盛しました。64年には菓子屋からそばが分かれ、二八そばの販売が始まりました。余談ですが、二八そばの二八はつなぎに使う小麦粉とそばの割合から来たものという説と、そばの値段が二×八=十六文から来たものだという説があります。
 こうした店の客は、商人はもちろん職人なども含んだと考えられます。この当時の大工などの職人は、町の復興政策にともない仕事が多く、賃金も高かったのです。振りそで火事により全国の職人の賃金は4倍にも高騰しました。十分に外食できるゆとりがあったのです。

そばと酒
 江戸時代は酒を実によく飲みました。ある資料によれば江戸100万の人口に対して、灘からの下り酒が年間100万樽あったそうです。ということは、一人平均年間一樽ということになります。一樽は、一升瓶で40本ですからすごいですよね。酒の飲めない子供や下戸の人たちを除けば、実際はもっとだったんでしょうね。
 参勤交代による武士の集中や、大火による職人の集中によって江戸の人口比率は圧倒的に男性が多く、従って独身男性の比率も非常に高いものでした。外食産業が流行り、酒が大量に消費されたのもうなずけますね。
 そんな中にあって、そば屋の酒は「そば前」と呼ばれていました。そばを注文して、そばができるまでの時間を軽く一杯やりながら待っていたのです。その酒はあくまで「そば前」であり、そばを美味しく食べるための酒だったのです。いま書いた江戸の人たちの大量飲酒の話からはちょっと想像ができませんよね。
 このギャップをどう考えたらいいのでしょうか。思うに江戸の人たちは、粋と野暮を使い分けていたのかもしれませんね。飲むときは野暮を承知で徹底して正体不明になるまで飲む。しかし、そば屋では美しく、粋に飲む。そんな心憎い飲み方をしてたんでしょうかね。
 たまの休みの昼下がり、そば屋にふらりと入ってひとり静かに「そば前」を軽くやって、そばをたぐってみてはどうでしょう。 ・・・乾杯!



商 品 紹 介 
出羽桜『桜花吟醸酒 山田錦』
 昨年に引き続き、今年も山田錦100%の特別バージョンの桜花吟醸酒が発売されます。
 桜花吟醸酒の華やかな香りに加え、山田錦由来の奥行きのある深い味わいが楽しめます。
 去年同様、今年もこの時期だけの出荷です。当店ではできるだけ皆さまのご要望にお応えすべく、十分な量を確保したつもりですが、万が一品切れの際はご容赦ください。
  入荷時期(予定) 9月中旬
  内容 日本酒度:+5  酸度:1.4  アルコール度:16度〜17度
     原料米:山田錦100%  精米歩合:50%  酵母:小川酵母
                             1.8L 3050円
                            720ml  1525円

※なお、昨年の『桜花吟醸酒 山田錦』の720mlの方はありませんが、1.8Lの方は、残り10本ほどですが、在庫がございます。当店の冷蔵庫で一年間熟成されて味わいはさらに丸くなっております。ご希望の方は、お申し出ください。価格は、3050円です。



……… 編 集 後 記 ………
○いま、『富田通信 第2巻』の校正に追われています。8月初めにゲラ刷りを受け取ったのですが、暑さと祭りの山車制作で校正をサボっていたのです。まだまだ夏の疲れがとれず、うっちゃっておきたい気分なのですが、そうもいかず・・・、ゲラ刷りの束を見るたび鬱になりそうな気分を奮い立たせて、ボチボチ取りかかっています。本になるまで、もう少しお待ちください。
○取らぬ狸の皮算用の話をひとつ。今年の6月、携帯に便利な小型デジカメを買いました。理由はクロダイがたくさん釣れたとき、食べるためには1匹あれば十分ですから、残りはカメラに納めてリリースしようと考えたからです。ところが、今年のヘチ釣りは今のところ最悪なんです。7月のシーズンに入ったとたん、記録的な大雨の連続で釣りに行けず、忙しい8月が終わってやっと釣りに行けると思ったら、今度は台風の連続襲来。いままでの釣果は31cmのほんとに小さなクロダイが2匹だけです。まったく欲をかくとろくなことになりませんね。あぁ〜、早くデジカメの有効活用がしたい・・・。



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