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今年の全国新酒鑑評会は、酒の審査方法が変わり、より優れた酒を選べるようになりました。そんな中で山形県の金賞受賞数が日本一を占めたことは大変意味深いものでした。 篠田次郎さんが書いている『幻の日本酒を飲む会ニュース』7月号に今回から採用された酒の審査方法について書いてありましたのでご紹介します。 専門家のきき酒 一歩前進したプロのきき酒法 篠田次郎 「お酒はうまいし、大好きなんだが、きき酒はできないんだ」という人がいます。そのことでなにか引き目を感じているのではありませんか。 きき酒というのは、酒のプロの人たちがやることであって、お酒の好きな人はやる必要はないものなのです。ただ、酒飲みの中で、「きき酒」を自慢する人がいますが、それは酒を愛することとはそう関係ないことだと思ってください。 プロのきき酒 プロのきき酒には、「鑑定」と「評価」という二つの方向があります。鑑定というのは、ものの真偽を見分け、傷の有無を見つけることです。 お酒は国にとって大事な税源でした。だから、酒のでき具合を鑑定し、欠点を見つけその原因を探り、次にいい酒がつくれるように指導する役所を設けました。ここで用いられる言葉は、酒の傷を表現し、その原因をただすためのもので、酒を楽しむ側とは関係がありません。 もう一つの評価の方は、「このお酒はいくらで売れるか」という見分け方です。お酒を売る専門家に必要なきき酒技術です。 アマのきき酒 われわれ飲み手のきき酒は、鑑定や評価ではなく、味を愛でる「賞味」だったり、それに浸る「鑑賞」、楽しく飲む「楽酔」であればいいわけです。 飲む側がやらなければならないきき酒の勉強は、ばか高いものを買わされたり、まずいものをつかまされたりすることのないように学習することです。 そのためにつねにいい酒にいそしみましょう。 専門家のきき酒の動向 酒造技術指導を職業としている人たちがいます。そのほとんどは公務員です。 かれらは、「いい酒」を業者につくらせる指導をしているのですが、できた酒を集めて、どれが優れているかの品評会も開きます。全国的な規模のもの(全国新酒鑑評会)は、明治以来100回近く続いています。世界でもめずらしい催事のようです。今年は5月27日に開かれました。 この催事から、吟醸品質が生まれました。1000点を超す出品になります。それを、われわれが納得する基準で優劣を分け、範を示さねばならないのです。われわれのように「賞味・鑑賞・楽酔」というわけにはいきません。 香り、味、調和、そして総合評価をするのですが、現在ですら科学的分析では不完全で、人の官能、つまり、視覚、嗅覚、味覚、舌ざわりと判断力によらねばなりません。 人の官能による評価には、偏差があったり、客観性がぐらついたりするので、審査法もいろいろやられてきました。 昨年まで改良された方法は、「酒のうまみ」別にグループ化して審査する方法でした。「うまみ」成分の濃淡がいろいろ混じって並んでいると、有利不利がでるのを避ける方法でした。それでも、「香味成分」の多少が、審査の客観性をぐらつかせたようです。 今年の審査方法では、「香味成分」の少ないものから多いものへと並べて審査をやったそうです。これによって、香りのうんと高いものが突然に出てきて、審査する人の感覚を乱すようなことはなくなります。「それらしい香りとそれにふさわしい味わい。その調和」が冷静に判断できそうです。 酒というものは、決して香りが高いものがいいとは言えません。香水ではないのです。だからといって、うまみの濃いものがいいとも限りません。ダシや化学調味料ではないのです。気持ちよく飲めて、程よい陶酔に導いてくれる飲み物であるべきなのです。 今年の全国大会である「全国新酒鑑評会」の結果をきき酒して、「おいしく飲める酒の選び方」が一歩、前進したなと感じました。 反省すべき点もある 総体的にみて、「まとまり」のある酒が選ばれたのは間違いありません。その中で、とくに「まとまりのいいもの」が金賞を得たようでした。 その反面、個性的なものが減った感じがします。「好ましい強い香りのあるもの」、「独自の味わいのあるもの」などが見当たりませんでした。 日本の食卓には、四季折々の山、野、海の幸が並びます。この変化、抑揚、強弱を満喫させるべきお酒は「調和」だけが取り柄の一品あればいいというのではありませんね。お酒の方にも変化、抑揚、強弱が求められるのです。いま、われわれの前にあるさまざまな吟醸酒がそれに応えてくれてきたのでした。 新しい「プロのきき酒法」は、このような現実のニーズにどう応えてくれるでしょうか。 たしかに「オンブとダッコ」は同時にはできないのです。調和と個性は共存しないのです。今年の鑑評会審査法だと、調和は追うことができましたが。 この上に「個性」を乗せようとすると、「好ましい個性」とはどんなものかという「審査基準」を新たに定義づけなければなりません。難しいことですが、主催者はそれもやらねばならないのでしょうか。 しかし、見方を別にすれば、解決法はあるのです。 個性を「評価」できるプロ われわれに、お酒をすすめてくれる酒販店、飲食店というプロがいます。この人たちは、製造技術を指導して業者に「いい酒」のつくり方を教えるのではなく、私たちの酒卓がどうあれば楽しいかを導いてくれる人たちであるべきなのです。 幸いに、私たちの周囲には、こういうプロがいて、われわれのニーズに応えてくれています。でも多くは、「安かろう、まずかろう。そして儲かりさえすればいい」というプロがあまりにも多いようです。 さて、それに対して、われわれアマは「賞味・鑑賞・楽酔」の能力を上げ、つくり手の努力、勧め手の研究に少しは応えねばならないのでしょうね。 |
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○山形県の杜氏はそのほとんどが地元の人々です。そのため山形県にはお互いの情報交換や技術研鑽のために研醸会という技術者の組織があります。山形酒が全国新酒鑑評会で一位になることができたのは、研醸会という組織があったればこそといっても過言ではありません。 |
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