第194号(2003.11.10)
清酒の製法品質表示基準の一部改正について
 赤く色づいた桜の葉が風に散り始め、家々では雪囲いの作業に取りかかっています。もうすぐ冬ですねぇ。
 さて、10月31日に国税庁が「清酒の製法品質表示基準」の一部改正を告示しました。施行は平成16年1月1日からで、3カ月から半年の猶予期間があります。以下に簡単な説明と私の独断と偏見の感想を混ぜてお知らせします。

1.純米酒の定義の中から「精米歩合70%以下」が削除になりました。
 従来、純米酒は精米歩合70%以下でなければならなかったのですが、改正によって精米歩合の制限が無くたったのです。
 確かに、70%を超える酒であっても、蔵元がしっかりした酒質設計の元で計画的に造った酒の中には非常に旨い酒もあります。このような酒が純米酒を名乗るのことには何の異存もありません。
 しかしながら、製造コストを安くするためだけに精白を悪くして純米酒を名乗る酒が増えるんじゃないかと心配しています。杞憂であることを祈るしか有りません。

2.吟醸酒・純米酒・本醸造酒は、こうじ米の使用割合が15%以上のものに限られました。
 「一、麹 二、酒母 三、造り」と酒造りの中で麹はもっとも大事なものとされています。なぜなら酒の出来そのものに大きな影響を及ぼすからです。
 いうまでもなく、麹の役割は米のデンプンを糖化することにあるのですが、その他にも、酵母をアルコールから守ったり、酵母がアルコールや香気成分を作るための材料を提供したり、また麹菌が繁殖するときに生産した様々な成分は酒の風味を作るのにも役立っています。だからこそ、蔵人は麹作りに神経をすり減らすのです。
 ふつう、酒造りにおいては、掛け米に対するこうじ米の割合は25%前後あります。15%というのは、酒ができるギリギリのこうじ米の割合です。
 ではなぜ敢えて、こうじ米の使用割合を規定しなければならなかったのでしょうか。
 それは、こうじ米の使用割合を少なくして、麹に代わる糖化酵素剤を使っている蔵が一部にあるからです。麹を使う量が少なくなれば、それだけ手間が省け、結果的に安い酒ができますものね。その代償として、風味の少ない平板な味の酒ができるのですが・・・。
 聞くところによると、今回の告示の発表が大幅に遅れたのも、このこうじ米の使用割合の規定に反対した一部の酒蔵のせいだということです。いままで、吟醸酒や純米酒、本醸造酒などの特定名称酒として売っていたものが売られなくなるのですから反対するのは当然かもしれませんが、自業自得ですよね。

3.吟醸酒・純米酒・本醸造酒については、原材料名の表示の近接する場所に精米歩合を併せて表示しなければならなくなりました。
 精米歩合の表示はそのままの数字を載せることが決まりました。つまり60〜70%という幅を持った表示ではなく、63%精米なら精米歩合63%という具合です。
 精米歩合の違う原料米を使っている場合、たとえば麹米50%精米、掛け米55%精米などの場合は、精米歩合が悪い方の数字を書かなければなりません。この場合でしたら、精米歩合55%ということになります。ただし、麹米:精米歩合50%、掛け米:精米歩合55%、と分けて書いても差し支えないことになりました。
 純米酒の定義の中から精米歩合の制限が廃止されたのですから、精米歩合の表示は当然のことですし、1%刻みで表示することにしたのは、真精米歩合と見掛け精米歩合の問題が残るにしても、大いに歓迎すべきことだと思います。

4.特定名称(吟醸酒・純米酒・本醸造酒)以外の清酒について特定名称に類似する用語を使用できなくなりました。ただし、特定名称に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合は類似用語が使用できます。
 具体的にいうと「純米酒」と誤認されるおそれがある(あるいは誤認されることを期待して?)「米だけの酒」「米100%の酒」「全米酒」「米・米酒」「オール・ライス酒」「ライス・オンリーの酒」などの用語が使えなくなりました。
 私はいままで、これらの酒は純米酒の規定であった「精米歩合70%以下」を超えているために純米酒と名乗れないのだと思っていました。
 ところが違うんですね。なぜって、今回純米酒に限っては精米歩合の規定が取り払われるわけですから、これらの酒も純米酒になり、なにも問題はないはずですものね。
 では、なぜあえてこのような規定を設けたのか。それは、これらの酒は、こうじ米の使用割合が15%未満か、あるいは特定名称酒に義務づけられている「原料米は3等米以上でなければならない」という規定を満たしていないか、あるいはその両方だからなのでしょう。
 手持ちの資料によると『くず米や米粉等を使用した「純米酒と誤認されるおそれのある“米だけの酒”類似表示」は禁止する』とあります。
 米粉とは玄米を精米するときに出る白糠(しろぬか)のことです。飯米の精米機から出る糠は皆さんご存じのように色が付いていますよね。これを赤糠といいます。さらに精米を進めていくと真っ白い糠になります。これを白糠といいます。そして、現在の酒税法上では白糠も残念ながら米なのです。
 しかし、考えてもみてください。精米という作業は美味しい酒を造るためにするんですよ。ということは、白糠は美味しい酒造りに邪魔な成分が大量に含まれているのです。よくもまあ、こんなもので酒を造るものですね。
 えっ、白糠からでも酒ができるのかですって? できるんですよ、これが。あくまで私の考えですが、参考までに。まず、白糠を液化酵素剤で液体にします。次に糖化酵素剤と、原料表示に米・米こうじと書くためにごくわずかのこうじ米を入れて糖化します。そして酵母を加えて発酵させて「米だけの酒」のできあがりです。
 もはや、精米歩合云々の以前の問題です。糠には精米歩合なんてありゃしませんものね。
 でも、これらの類似用語の使用が禁止されたといっても、安心はできません。但し書きに「特定名称に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合は類似用語が使用できます」とあります。
 この、説明表示の活字の大きさが8ポイント以上となっているのです。8ポイントの活字の大きさとは、酒のラベルに米、米こうじとかの原材料名が書いてありますよね。あの大きさです。うっかりすると見過ごしてしまう大きさです。というより、意識しないと見えない大きさです。
 その小さな字で「純米酒ではありません」などと書いてあれば、「米だけの酒」などの純米酒の類似用語は今後も使ってもいいことになっているのです。
 いったいいつになったら酒蔵は「この酒はどういう原料を使って、どういう造りをしているかということが、一目で分かる情報公開」をしてくれるのでしょうか。それとも、最先端の科学技術を使って造っているから、製法は企業秘密だとでも言い張るつもりなんでしょうか。
 安酒がダメだというつもりはありませんが、お客さんが自分の判断できちんと選べる、そんな時代が来ることを夢見て・・・乾杯!




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