第192号(2003.09.10)
酒は『できる』のか『つくる』のか
 8月初めの梅雨明け後も天気が悪く、新庄の8月の日照時間は70.8時間と観測史上最短を記録しました。梅雨前線が居座り続けそのまま秋雨前線になってしまったようです。
 この変化のない季節の移ろいに裏庭のザクロがすっかりだまされ、直径4〜5cmほどに育った実と朱色の鮮やかな花を同時につけています。やはり異常気象なんでしょうか。
 さてと、本題に入りましょう。今回の富田通信は、子供はできるのかつくるのか・・・じゃなかった、酒は『できる』のか『つくる』のかということについて書いてみましょう。

酒は『できる』のか『つくる』のか
 なにを訳の分からないことを言っているのだとお思いでしょうが、『できる』と『つくる』とではまったく違うのです。
 話を分かりやすくするため、私の大好きな釣りの話をさせてください。魚は『釣れる』のでしょうか『釣る』のでしょうか。
 ヤマメ釣りを例にとって説明しましょう。釣りを始めたばかりの初心者にもヤマメは釣れます。しかし、それは偶然の占める割合がとても大きいのです。釣れない日が何日も続くと釣り人は考え始めます。なぜ、この前は釣れて今日は釣れないんだろうと。
 やがて、ヤマメの生態を研究し始め、水温何度の時にはこの速さの流れにヤマメがつくとか、流れてきたエサをこの場所で食うとか分かるようになります。 そして、ヤマメの口元にエサが自然に流れるような竿さばきや、エサをくわえた瞬間の合わせなどの技術の向上と相まって釣果が増えてきます。
 つまり、ヤマメが釣れてしまったという偶然性の割合が減って、こうすればヤマメが釣れるという必然性の割合が増してくるのです。これが『釣る』ということです。魚を『釣る』ためには大いなる情熱(ただ単に好きともいう)と不断の探求が必要なのです。

 酒は『できる』のか『つくる』のかということもこの釣りの話によく似ています。蔵人に「今年の酒はどう?」と聞くと「今年は良くできた」とか「思ったようにはできなかった」と『できる』という言葉を使いますが、これは、『できてしまった』という意味では、ありません。『つくった』結果の『できた』なのです。
 特に鑑評会出品酒において、この傾向が強くなります。鑑評会の金賞受賞酒のタイプは毎年異なります。その年の受賞酒のタイプの予想を立ててそれに合わせて吟醸酒を仕込んでゆくのです。
 もちろん、原料米のできも、仕込み最中の気候も毎年違います。それでも優秀な蔵人たちは様々な技術、秘術を尽くして計画した酒質に限りなく近づけていくのです。逆を言えば、鑑評会という競争の場が蔵人たちの技術を磨き、酒を造らせたのかもしれません。
 何はともあれ、受賞酒のタイプに合わせて吟醸酒をつくるという技術と絶え間ざる努力は、結果としていろいろなタイプの吟醸酒を世に出すことになりました。
 蔵人たちが「今年の酒は良くできた」と謙虚に言うのは、今持っている力の限りを知っているからでしょう。でも、だからこそ、蔵人が胸に抱いている理想の酒質に少しでも近づこうと毎年情熱を傾けることができるのでしょうね。
 素晴らしい酒を造り続ける蔵人たちに乾杯!



『東光』特別頒布会のお知らせ 
 山形県米沢市の酒蔵、東光(とうこう)の頒布会です。2コースありますのでお好きな方をお申し込み下さい。もちろん両方でも結構です。
 この頒布会の特典として、頒布会セットに添付のアンケートハガキを抽選券として、毎月市販していない酒を10本、プレゼントがあります。
○吟醸酒コース(720ml詰2本セット)
 頒布品(すべてタイプの違う吟醸酒です)
  10月 純米吟醸(原料米:美山錦 さわやかでソフトなタッチの酒)
     純米大吟醸「ひやおろし」(原料米:山田錦 ふくらみあり)
  11月 純米吟醸(原料米:出羽燦々 柔らかく巾がある)
     純米吟醸(原料米:山田錦 味がありまろやか)
  12月 吟醸(すっきりとした辛口吟醸酒)
     純米大吟醸(原料米:出羽燦々)
   1月 しぼりたて純米吟醸生酒(原料米:出羽燦々 フレッシュ)
     純米吟醸(辛口純米吟醸酒、インパクトのある味わい)
 会  費:各月3000円(税別)
○特別酒コース(1.8L詰2本セット)
 頒布品
  10月 はえぬき100%純米酒(すっきりとした飲み口、冷や良し、燗良し)
     特別本醸造ひやおろし(通好みの酒)
  11月 餅米四段仕込み純米酒(甘口純米酒)
     特別本醸造からくち(すっきりしたのどごし)
  12月 はえぬき100%純米(冷やが旨い純米酒)
     特別本醸造辛口(お燗におすすめ)
   1月 うすにごり純米酒生酒(初しぼりの純米酒)
     本醸造鬼ころし(日本酒度+8、超辛口)
 会  費:各月3800円(税別)

※申込締切:各コースとも平成15年9月30日
※発送の場合は別途に送料が加算されます。ご了承ください。
※頒布品は予約制ですので店頭小売は致しません。また、ご希望の品だけや、4カ月分一括お届けはできません。



……… 編 集 後 記 ………
○ネタ切れの苦しさに負けて、先月号と先々月号で左足骨折ということまでネタにしてしまいました。多くの方にいらぬご心配を掛けてしまい申し訳ございませんでした。お陰様で9月初めには堤防上を釣り竿を片手に4時間も歩き続けられるほどに回復しました。さらなる完全復帰を目指して、今週末にはまたクロダイ釣りに行こうと思っております。・・・エヘヘ。
○『富田通信第1巻』が読売新聞、毎日新聞、河北新報の3紙に取り上げられました。思い起こせば富田通信を書き始めたのが昭和62年10月でしたから、かれこれ16年にもなります。出会いや別れ、楽しいこと悲しいこと、いろんなことがありました。
 取材を受けていて、改めて思ったことは、富田通信をこれまで続けてこられたのは、私の力というよりは周りの人たちの力によるものだということでした。私自身はただ好きなことをやっているだけなのに、要所要所で素晴らしい出会いがありその人たちに導かれここまで来ることができました。ほんとうにありがとうございました。
 たぶんこれからも、行き当たりばったりに好き勝手なことを書き続けると思いますが、よろしくお願いいたします。



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