第185号(2003.02.10)
ひれ酒
 今年の冬は雪は降るもののあまり長続きせず、積雪も50cm台をキープしていたので、ひょっとしたら雪下ろしをせずに済むんじゃないかなぁ〜んて心密かに思っていたら、やっぱり甘かった。
 1月末に積雪が90cmになり、天気予報はさらに24時間で60cmの新たな積雪があるなんて脅すものだから、吹雪の中、急きょ屋根の雪下ろし・・・。三日がかりで下ろし終わったんですが、もう身体はガクガク。
 これも、伝統技術を絶やさないためにも少なくとも年に一度は雪下ろしをさせてやろうという、天の神様のありがた〜いお心遣いなんでしょうかねぇ。
 ところで、2月9日は「ふくの日」なんだそうです。そこで今回の富田通信はフグのひれ酒について書いてみましょう。

ひれ酒

 去年、懇意にしている料亭の若旦那から「2月にトラフグのコース料理を出すから、ひれ酒にはどんな酒が合うだろう」と相談を持ち込まれました。
 自慢じゃありませんが、こちとらトラフグなんて食ったことがない。当然、トラフグのひれ酒なんて飲んだこともない。で、「どんな酒が合うか、実際にやってみなけりゃ分からない」というと、「じゃ、コース料理を食わせるから、酒を決めてくれ」っていうんですよ。しめた!っとばかりに喜んで、酒を数種類用意して、いざ料亭へ。着くと小部屋に案内されて、さっそく実験開始。
 こんがりあぶったトラフグのひれが入った厚めの陶器の茶碗に、持っていった酒をものすごく熱燗にして注ぎ入れる。茶碗にふたをして待つことしばし。頃合いを見計らってふたを取ると、何とも言えないかぐわしい香りが部屋中に立ちこめる。黄金色に輝く液体をふうふういいながら口に入れると何とも上品な旨味とコク。・・・あああ、これが噂に聞くフグのひれ酒か、と至福の一時でした。その後、鍋、刺身、白子と次々に料理が運ばれて、酒屋の役得、ここに極まれりでしたよ。
 おっと、実験結果の報告を忘れるところでした。試した酒はコクのある純米酒、あっさりした純米酒、高精米の本醸造、普通の本醸造(上撰)、の4種類です。で、結果は60%以下に精米した高精米の本醸造が一番ひれ酒の味を引き立たせました。
 フグのひれからかなりの旨味が出るため、純米酒だと、コクが出過ぎて味がくどくなり、普通の本醸造だと、アルコール添加が多いためか匂いが鼻について、これまたひれ酒の風味を損なってしまいます。高精米の本醸造だと、ひれから出る旨味を損なわず、口飽きもせず、クイクイいけるのですよ。
 皆さんも機会がありましたら、ぜひ、お試し下さい。

フグについて
 山口県を始め西日本ではフグのことをフクと呼ぶ地方が多いようです。私はてっきりこれはフクを福と掛けた洒落だろうと思っていたのですが、調べてみるとそうではないようなんですね。初めてフグが出てくる文献には「布久」と書いてあるんだそうです。本来、フグはフクと呼ばれていたんです。
 では、なぜ、フグになったのかというと、明治時代の標準語の統一という歴史がからんでくるのです。魚の名前は今でも地方によっていろんな呼び名がありますが、これを統一しようとしたとき、川の魚は琵琶湖の呼び名を、海の魚は東京の呼び名を基準にしたんだそうです。当時、東京ではフグと濁って発音していたことからフグという呼び名に統一されたんだそうです。
 また、フグのことを鉄砲とも言いますが、これは、当たると死ぬことから、そう呼ばれたんだそうです。でも、この話には落ちがあって、当時の鉄砲は火縄銃でしたから、当たれば死ぬがめったに当たらないということらしいです。
 さて、フグの毒はテトロドトキシンといいますが、これはフグの学名に由来します。フグの学名は「テトラオドン」といい、4つの歯という意味です。事実、フグの歯はほとんどが4本です。テトロドトキシンとはフグからとった毒という意味です。
 この前、友人の医者と飲んでいたとき聞いた話ですが、テトロドトキシンは神経毒で筋肉を麻痺させるんだそうです。だから、毒に当たると呼吸筋が働かなくなり死んでしまうんだそうです。昔、フグ毒に当たった人を首まで砂に埋めておくと助かることがあるというのは理由があるんだそうですよ。呼吸筋の中で最後まで動き続けるのは横隔膜で、横隔膜の上下による呼吸をもっとも効率的に行なわせるには、胸郭を固定するのがいいそうです。で、砂に埋めることによって胸郭が固定され、横隔膜による呼吸が効率的に行なわれ、そうしている内にフグ毒が解毒されて助かるんだそうです。もっとも今では早くに手当てすれば人工呼吸装置があるから大丈夫だそうですが。
 でも、このテトロドトキシン、ごく微量だと身体を温め、血行をよくするといわれています。フグは万病に効くといわれているのは、このごく微量のテトロドトキシンのせいなんですね。
 フグは万病に効く、酒は百薬の長、フグのひれ酒はそれこそですね。乾杯!



商品紹介 
『栄光冨士−春の10号−』予約開始
 去年、大好評だった『栄光冨士 春の10号』。今年もまた、発売されることとなりました。
 高精白米を使用し、協会10号酵母で仕込んだ酒です。この高精白米・協会10号酵母の酒は、特に淡麗で軽い味わいのため、しぼりたてで全く手を加えないフレッシュな状態でも大変おいしいものです。しかし、通常この状態の酒を蔵人以外が口にすることはめったにありません。
 今年も、この10号酵母のフレッシュな味をそのまま味わって頂きたいと考え、無濾過、生の雫酒(袋吊りの方法により圧力をかけないでとった酒)を本数限定で販売します。
商品
 ○大吟醸「古酒屋のひとりよがり(生)」  720ml 4000円(税別)
 ○純米吟醸「純米吟醸生酒 栄光冨士」  720ml 2200円(税別)
本数 各500本
予約期間 平成15年2月1日〜平成15年2月28日
   ※ただし、申込本数が500本に達した時点で終了
出荷日 平成15年3月初旬



お知らせ 
第15回「名酒を楽しむ集い」ご案内
 皆様いかがお過ごしでしょうか。
 さて、第15回「名酒を楽しむ集い」を下記要領で開きます。今回も普段口にすることが出来ない特別な酒などを取り混ぜながら、つたや本店の素晴らしい懐石料理とともに楽しみたいと思っております。ぜひ、ご参加下さい。
 なお、定員になりしだい締め切らせて頂きますのでご了承下さい

日時 平成15年2月22日(土)
       受付/午後6時  開宴/午後6時30分
会場 つたや本店
会費 10000円
定員 40名
主催 富田酒店
協賛 つたや本店
※参加申し込みは富田酒店までお願いします。



E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール