第184号(2003.1.10)
羊年、よう年、酔う年???
 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 去年の12月は平均気温は平年よりも低かったものの、割と雪が少なく楽な年越しでしたが新年早々、新春寒波とやらで1日には−9.7℃、3日には−13.5℃の最低気温を記録しました。屋根の上には60cmを超える雪が積もっています。
 ところで皆さんはお正月をどのように過ごされましたか? 私は1日、町内の気の合う仲間と吟醸酒の新酒を囲みながらワイワイとやっておりました。年末の疲れもあってか、4時間ほどで酔いつぶれてしまいました。今年は羊年、酔う年ということで今回の富田通信は「酔い」について、あれこれ書いてみましょう。

酔いとはなんなのか
 お酒を飲むと酔いますよね。まあ、この酔い心地を楽しむために酒を飲むとも言えますが。
 でも、どうして酒を飲むと酔うのでしょうかね。その原因は酒の主成分であるアルコールの性質にあります。アルコールは私たちの体を作っている細胞の膜を通過できるという性質を持っているのです。
 お酒を飲むとアルコールの一部は胃の粘膜の細胞を通過して毛細血管に入り込み、残りは小腸で完全に吸収されてこれも血管に入ります。血液に乗ったアルコールは肝臓に運ばれて分解されるのですが、肝臓の分解能力には限度がありますから、分解されなかったアルコールは再び血液に乗り身体中を駆けめぐります。そうしている内にアルコールは血管のそとへどんどんとしみ出していくのです。特に血流の激しい脳には苦もなくアルコールがしみ込んでいきます。
 脳が他の臓器と違う点は、他から送られてきた信号を受け取る一方で、特定の場所に信号を確実にしかも速やかに送る能力のある細胞が、互いにつながり合って存在していることです。そして、脳細胞のこの能力は、細胞と細胞がきわめて微少な区域でのみ接触し合っているという結合様式、それから、脳細胞の膜(興奮膜)が信号をきわめて速やかに伝える性質を備えていることに由来します。
 アルコールはこの脳細胞の膜の働きを抑制するのです。つまり、信号の送受信が鈍くなるんですね。これが酔いの正体です。昔、うちのお客さんに一升飲んでも二升飲んでもぜんぜん酔った素振りが見えない人がいましたが、このような人は肝臓のアルコール分解能力が高いだけでなく、脳細胞の膜がアルコールに対して鈍感なのかもしれません。

酒癖
 さて、酔いの正体が分かったところで、どうして酒を飲むと泣き上戸だの、笑い上戸だのといろんな酒癖が出るのでしょうか。
 それは、すべての脳細胞が等しく同時にアルコールの影響を受けるからでは無いためです。場所によって影響を受ける時間差があるのです。最も早く影響を受け、その働きを抑制されるのが脳幹網様体といわれる部分です。ここは大脳新皮質の活動をコントロールしている部分で大脳新皮質に活力を与えています。ですから、網様体が眠ってしまうと新皮質も眠ってしまうのです。新皮質は我々の理性を司っている場所ですから、ここが眠るということは取りも直さず、コントロールを解かれた本能や欲望が活発に活動することになります。本能や欲望は人によって違いますから、その違いが酒癖となって現われるのでしょう。
 もっとも、さらにアルコールが入るとやがては本能や欲望を司る辺縁皮質も眠り、さらにアルコールによる抑制が働けば呼吸中枢も眠りにつき、それこそ、永眠ということになります。
 ところで、酒癖にはいろんな種類がありますが、英国エリザベス時代(1558〜1603)の戯曲作家トーマス・ナッシュという人がその著『悪魔への哀願』の中で酒癖を8種類に区別しました。その中で「羊酔」というのがありましたので、紹介しましょう。
 
羊酔・・・酔うほどに口がさえ無暗に名論卓説らしいものをはくが、その実トンチンカンなことばかりいっている者
 まるで、甘い汁ばかり吸っているために頭の中がすっかり発酵しちまった、どこかの国のお偉いさんのようですね。酔い覚ましの吟醸酒でも飲ませてあげましょうか。・・・乾杯!
              (参考文献:「酒と健康」高須俊明著 岩波新書)



……… 編 集 後 記 ………
○「もし私がサボらなければ、今年中になんとか富田通信100号までが本になりそうです」と書いたのが一年前。校正は終わっているのですが、さきだつものが・・・。200号を書く前に何とかしなくっちゃ!



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