第180号(2002.09.10)
かつろく昔語り
 新庄祭も終わり、9月4日まで続いた猛暑も治まり、やっと静かで透明な秋の入り口になりました。稲穂はすでに頭を垂れ、今月中頃からの刈り取りを待つばかりになっています。
 さて、新庄の東にこの地に生を受けたものの原風景としての山があります。その名を木蔵山(もくぞうやま)といい、生活に深く関わってきました。たとえばこの山の雪渓の形を見て田植えの時期を知ったり、「木蔵山が三度白くなると里にも雪が降る」などと冬の到来を教えてもらったり、また小学校6年の遠足は今でも木蔵山です。
 この木蔵山、別名を木葛山(もくずやま)といいます。かつろく(葛麓)とはこの山の麓、つまり葛の麓の意味で、新庄盆地の総称です。
 前置きが長くなってしまいましたが、今回の富田通信はこのかつろくの地に語り継がれている物語を笹喜四郎著「かつろく風土記」よりご紹介しましょう。笹先生は私が中学生のときの校長で、もう故人になられましたが、優れた郷土史研究家でした。

酒好き

 ある村に大へん酒好きな人がいて毎日晩酌が五合ずつであった。その妻は五合徳利をもって毎日店に買いに行った。
 月日のたつのは早くて、12月の末になった。昔は、店借りの借金は「つめ払い」といって12月30日に支払う習慣であった。この家でも店借りがあって催促にこられたが、さて支払う米も金もなかった。おやじは困ってしまった。その時妻は仏壇の引出しから木箱を取り出し開くと、思いがけないたくさんのお金が出て、これで借金を支払う。
 おやじさんは驚いて、「これはどうした金だ。」と聞くと、妻は、「実は毎日五合ずつ買う酒を四合ずつ買い、一合分の金を買ったつもりでこの箱に入れておいたのです」という。おやじさんはびっくりして、「一合分の金も貯めれば大きくなるものだ。よしおれも明日から酒は止めた。」といって決意堅く晩酌を取り止めてしまった。
 やがて一年たってつめになった。店借りの催促を受けたおやじさんは、「さあ貯めておいた金を出してくれ。」といわれた妻は「あなた貯金なんかありませんよ。」という。「なに、今年は晩酌は一合も飲まないのだぞ。その分はあるだろう。」というと、「いや、去年は五合ずつ飲んだつもりで一合分を貯めたのだが、今年は飲まないから貯金されなかった。」という。おやじさんは、「なんだ、飲めば貯金でき、飲まないと貯金されないのなら飲んだ方が得だ。」といって再び晩酌をするようになったとか。こうした酒好きの人の唄ったものと思われる新庄節に、
  
好きな酒なら飲んだ方が得だ 酒は飲まねぇでも溜りゃせぬ

ずくれん地蔵
 昔ある村に、貧乏な百姓が住んでいた。もう二つ寝ると正月がくるという時に、借りたお金を返さなければならないと思って、知っている人を頼ってお金を借りに行ったけれども誰も貸してくれる人もなく、思案に余ってとぼとぼと家に帰ってくるほかはなかった。雪ははげしく降っているので肩も頭も雪にまぶれて道も見えない山道を帰ってくると、道端に立っている地蔵さんの丸い頭にも、手にも、いつも優しい目まで雪がかかって、見ただけでも寒そうに見えた。その百姓は、「ああ地蔵さんはお気の毒だな、おれは家に帰れば、火をたいて暖かくすることもできるんだが、地蔵さんはこの山道で一晩中この寒さの中で、お気の毒だ、もったいないことだ。」と独り言をいって、自分の頭巾をとって、雪をはたき、地蔵さんの頭の雪を取ってかぶせてやった。そして、「地蔵さん、おれが金持ちになったらな、雪や雨にあたらないように屋根をかけてあげっからな。」といって、ていねいにお参りして、手拭いでほほかむりをして家に帰った。やっと家に着いて火を焚いて暖まったが、食べるものがないので空腹のままいろりのそばで眠ってしまった。それから何時間たったか。
 「ずくれん、もくれん、じゃんからりん、てんのそらはの、は一つ、おやどは、どこだべな。」という声が聞こえ、「あ、ここだった」といって戸を開けて入ってきたのは、山道の地蔵さんであった。「さっきは寒いのに自分の頭巾を取ってかけてくれた親切、おまえさんは本当にやさしい神様のような人だ。こんな正しいよい人を苦しませてはおけない。これでよい正月を迎えなさいよ。」といってどっしりとお金を枕元に置いて出て行った。その百姓は夢を見ているようではっきりしなかったが、いつか火も消えて寒さのために目を覚ましてみると、いろり端にどっしりとしたお金の包みが置かれていた。「あっ、夢ではなかった。夢ではなかった。地蔵さんが、恵んで下さったんだ。」と飛び上がって喜んだ。
 その百姓は、こうしていられない、お礼を申し上げなければといって提灯をつけて雪を踏み踏み山道を登って行った。やがて地蔵さんの立っていた場所に来てみると、地蔵さんの姿はなく、頭巾だけが木の枝にかかっていたという。



 
お 知 ら せ
日本酒学校公開講座
 去年は私と篠田次郎先生が講師を務めましたが、今年は篠田先生の独演会です。講演の演題は「だれでもお酒の先生になれます」です。さてさてどんな話が飛び出すか、楽しみですね。
 と き:9月20日(金)
 開 場:PM 5時30分          受付開始
       PM 6時〜6時15分      開会
       PM 6時15分〜7時45分  講演
       PM 7時45分〜8時      セレモニー
       PM 8時              閉会
 場 所:文翔館(旧県庁)
 会 費:2000円
 定 員:70名(定員になり次第の締切です)
 申 込:山形県酒造組合
     TEL023−641−4050
 



お 詫 び と 訂 正

 富田通信178号「テキーラの伝説」でテキーラの原料となる竜舌蘭を蘭の仲間と書きましたが、中米コスタリカ在住の石井さんという方からメールを頂き、蘭の仲間ではないことが分かりました。竜舌蘭はAgave科Agave属の植物でいわゆるランはOrchidacea科に属するそうです。ここにお詫びして訂正いたします。また、石井さんには竜舌蘭の農園のことやテキーラ製造工場のことなどたいへん親切に教えていただきました。紙面を借りてお礼申し上げます。本当に有り難うございました。




……… 編 集 後 記 ………
○「かつろく風土記」という本は、笹先生と親交のあった親父が直接先生から昭和47年に頂いたものですが、この前初めて読んでみてその面白さに引き込まれてしまいました。特に新庄人気質を作り上げたであろう昔語りには感銘を受けます。百姓がお礼を言いに行ったときにはもういなかったという「ずくれん地蔵」のなんという奥ゆかしさ! その奥ゆかしさに乾杯!



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