第179号(2002.08.10)
お酒 あなたは大丈夫ですか
 残暑お見舞い申し上げます。毎日暑い日が続いていますが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか。私は連夜の新庄祭の山車作りによる睡眠不足と飲み疲れですっかりバテております。
 今回の富田通信は暑さもぶっ飛ぶ恐い話を篠田次郎さんが「幻の日本酒をのむ会ニュース」に載せていましたのでご紹介します。

お酒 あなたは大丈夫ですか       篠田次郎

食品関連の表示偽装続く
 
植 雪印食品の牛肉偽装が明らかになったとき、そこにはBSEに便乗した制度がらみの意図が感じられました。
 農水省が何かをやるとき、それに便乗すれば、有利な融資が受けられたり、交付金がもらえたり、生産したものが高く売れたりした例は枚挙にいとまがありません。
 BSEという恐ろしい事故が発生し、それに対して対策が施され、その隙間にもちゃんとおこぼれがある仕掛けができていたのでした。農政に限ったわけではありませんが、日本の政治というのはそういうものだと思っていました。
 誰も知っているのに文句を言わないものに、南魚沼産のコシヒカリがあります。たしかに、あそこではおいしいお米が取れているのです。それがどこかに運ばれて袋詰めされるとき、ドカチャカドカチャカとなり、小分けされて売られるときまたドカチャカドカチャカ。
 かくして、南魚沼郡で取れるコシヒカリの何倍ものニセ・コシヒカリが市場に流通することになります。消費者はそれを知っていてもどうすることもできません。
 これは日本だけのことではありません。昭和61年に持ち上がった「毒入りワイン事件」といわれたジエチレングリコール入りのワインは、ワインメーカーが少し入れ、瓶詰め会社がまた少し入れ、それで日本の検査に引っかかったのでした。この事件には日本もいささかの責任があります。国内のワインメーカーは、M社のワインにジエチレンが入っているのを分析で知っていたのに公表しなかった。武士の情けなのか武士は相身互いなのか。
 食品の偽装が続く中、協和香料化学の食品添加物の違反が出ました。ほんとにどこまで続く泥濘ぞです。

業界のいう情報公開
 国や公設機関、それに業界と取り巻きの団体がいろんな規定や規則を作りました。よく見ると、ザル法とはこういうものかと感心するほどよく抜けています。ほとんどはあってもなくてもいいようなものです。
 雪印食品の偽装のとき、農水省か業界の偉いさんが「JAS法に違反しまして」と謝っている画像がテレビに出ました。彼らの感覚では、ザル法に違反していなければいいと思っているのでしょう。
 私たちは、そんなレベルの情報を求めているのではありません。

吟醸酒の情報公開
 日本酒が市民の信用を失って衰退していったとき、吟醸酒は、日本酒業界の自主基準による表示基準をはるかに超えた情報を公開して消費者の信用を勝ち得たのでした。
 それまでの日本酒の中身は、戦中戦後の飢餓時代に作られたゴマカシ法がまかり通り、消費者の不信を買い、衰退の道をたどることになるのです。
 吟醸酒ファンなら、自分の好みの銘柄の、米の品種、使用酵母、もしかしたら杜氏の名前も知っているかもしれません。
 それらの知識は、つくり手が情報公開してくれたから消費者は知ることができたのです。情報公開が信用をもたらしたのです。

まだ続く日本酒の黒い影
 日本酒は、昭和40年代の表示の混乱を公取委に規制されるのを嫌って、昭和50年に製造方法と原材料表示の自主基準を作りました。これが平成4年の酒税法につながります。業界のおおむねは、この表示義務を守っていればそれで「すべてOK」と思っているらしい。
 でも、良心的な吟醸酒の表示になれた私たちには、パック入りの酒の表示からは、中身を想像することはとてもできません。
 農産物や食品の偽証以来、とくに協和香料の事件が出て、「トレイサビリティ」がいわれています。原材料などの出所由来を、どこまでたどれるかということです。これは「材料はあそこから仕入れている」という言葉のいいわけは許せないという考えです。

私も知らないこと
 吟醸酒には入っていませんが、多くの日本酒に使われているらしい「醸造用糖類」と「醸造用調味料」というはどういうものなのでしょうか。
 「糖類」というのだからお砂糖のようなものでしょうが、表示を読む限りお砂糖ではありませんね。では何なのでしょうか。お酒づくりは米のでんぷんを麹で糖化して・・・と習ったような気がするのですが、糖化されたものにどうしてわけのわからない「醸造用糖類」を入れるのでしょうか。そしてそのもともとの素材は?
 「醸造用調味料」というのは何なのでしょうか。日本酒は優れた調味料だといっています。それに加える「調味料」なら、鈴木梅太郎先生の発明した「味の素・グルタミン酸ソーダ」を凌駕する世紀の発明による調味料だと思うのですが。ぜひその中身を教えてもらいたいものです。
 それが「云えない」としたら、これは「ゴマカシ」か。

醸造用アルコールは?
 お酒に添加されている(吟醸酒にも)醸造用アルコールはほとんどが輸入されているそうです。そのアルコールでブラジルの車の6割が動いているそうです。同じアルコールで、日本では人間が動き、ブラジルでは自動車が動いている現実をあなたはどう見ますか。
 私は技術者として、日本でのアルコール製造の現場を見たことがあります。原料は乾燥芋で、その装置の排水が川を汚していました。もう40年も前のことです。河川法・水質汚濁防止法などの規制で日本ではアルコール発酵、蒸留ができなくなり、ほぼ100%輸入になっているらしいのですが・・・。
 一昨年のことです。「吟醸寺子屋・湯島酒堂」の勉強のため、大手アルコールメーカーに、醸造用アルコールの輸入先、原料を問い合わせました。返事は電話できました。「電話でお答えします。それは先生もお持ちの『アルコールハンドブック』に書いてあります」、「それはそれとして、最近の状況は?」、「お答えできません。『本』をごらんになって下さい」。
 その本は、1950年初版、1997年9版であります。

いえない理由は?
 それは私にはわかりません。何か脛に傷があるからいえないのでしょう。私が幻の日本酒を飲む会主催者だからいえないのか、何冊かの本を書いた人間だからいえないのか。こちらの質問はこのニュース送付の封筒で、こちらの立場を説明して問い合わせたからか。トレイサビリティがいわれる中、この醸造用アルコールの原産国と原料をご存じの酒蔵はあるのでしょうか。
 酒蔵は「あのアルコールを水で割ったのが焼酎(甲類)だから、なにも問題はないでしょう」と答えるだろうが、それは正しい答えになってはいません。

お酒よ 大丈夫ですか
 私が疑問を持つことに日本酒業界が答えられない。さらにお米に次ぐ原料である醸造用アルコールと醸造用糖類・調味料がどうもはっきりしない。そういえば、お酒の主原料である「お米」も怪しいところがあるではありませんか。
 こんなで、誰かに聞かれ、答えられずにそれが大騒ぎになりはせぬかと案じているのです。焼酎やワイン、ビールや発泡酒、中身がなんだか分からない缶入りのアルコール飲料よりマシだからと、トレイサビリティを怠ると、ドカンと雷が落ちますよ。



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