第174号(2002.03.10)
空前絶後の大正餐
 いや〜、ついに3月。一面のただただ真っ平らだった田圃の雪も、かすかに畦の凹凸をその表面に現わすようになりました。日を追うごとに伸びる日脚や柔らかな土の匂いが春の近さを教えてくれます。
 去る2月23日に開いた「第14回名酒を楽しむ集い」にご参加下さった篠田次郎先生がご自身のHP(吟醸の窓http://isweb22.infoseek.co.jp/area/ginmado/)に掲載する原稿を送って下さいましたのでご紹介しましょう。

空前絶後の大正餐    
篠田次郎
 この夜の酒席は私の体験したことのないスゴイものでありました。自分で「日本一吟醸酒を飲んだ男、すなわち世界一、すなわちギネスブック級」といってきましたから、私が経験していないということで「空前」と書きました。「絶後」もしばらくの間は保証できると思います。
 なにが空前、何が絶後なのだと全国の吟醸酒ファンは眉をひそめることでしょうが、話はぼちぼち進めますから固唾を呑んで読んでください。
 その夜のテーマは、
「落語・盗み見酒を聞きながら、登場する五つの吟醸酒を賞味する」というもの。

 日時・2月23日
 会場・割烹つたや本店
 賞味したお酒
  1.浦霞大吟醸  2.越乃寒梅大吟醸超特撰  3.真澄大吟醸夢殿
  4.梅錦純米大吟醸  5.香露大吟醸  その他
 主催・山形県新庄市富田酒店

 この話を知ったとき、何が何でも行こうと決めた。考えてみると「盗み見酒」の好圓さん(間もなく大看板三遊亭円馬を襲名する)の録音テープは私が提供したものなのです。だからこの話は私の所に最優先できたはずで、出席申し込みのトップは私なはずです。実際の申し込みトップはこの催しの仕掛け人富田富男さん、次いでつたやのご主人という順だったそうです。お二人ともこの夜は「飲めて食える」ことに専念しようと心に決めたといいました。
 落語・盗み見酒は、多くの酒が出てくる落語が酒がまずくなるような情景を描いているので、落語を聞いたら喉がごろごろ上下するようなのを作ろうとした結果なのです。
 だから、作品中にうまそうな酒銘が出てくるわ、登場人物がうまいうまいを連発してがぶがぶ飲むわという内容です。それらの酒はこの吟醸酒時代を作った名品を選びました。
 考えるまでもなく飲んべえの作者が飲みたいナァと常々思っているのを並べました。が、作品中に並べるのは簡単ですが、瓶を林立させグラスに注がれたのを並べることは容易ではありません。いくら私が図々しくてもそれはできない。
 それを山形の図々しい男がやったのです。落語の原作者としてその恩恵を第一番に預からねば。
 つたやの大座敷は50人の席で埋まりました。お膳に前付けがあって、その手前に優雅な形をした(かなり高価なものと見たが)グラスが五つ並んでいます。
 落語が流れたら、その登場順に右からグラスの酒を賞味しようという趣向。
 落語が始まりました。自分の作品を聞くというのは実にアンバイの悪いもの。「テメエの欠点をいい連ねられている」ようなもので、とても落ち着かない。マクラで座敷の客とテープの笑いが重複して何度か沸き立つ。そろそろ浦霞の話になるなと思ったら柄にもなく堅くなってしまいました。テープを聴いて、浦霞のところの原作にミスがあるのに気付いたからますます堅くなっちゃって。
 グラスの酒、そう多くはないのを少しずつ賞味する。上がっているから味がわからない。そのくせ、噺が進むのに合わせて、浦霞、越の寒梅、真澄と飲み進めると、作中の主人公のように酔ってくる。なんとも奇妙な感じです。
 落語が拍手の中で終わってホッとしました。それから改めてグラスの酒を一つ一つ味わう。うまいねぇ、新幹線を駆ってやってきた甲斐ありです。
 香りは奇数のものが高く、偶数のが落ち着いていて、配列がうまくいったと思いました。味はイメージしてたのより乗っていたと感じました。それぞれが見事な香味の調和を繰り広げてくれました。なんともいい気分です。
 料理が次々に出てきて、初春の「走り」がほろ苦く香り高く味蕾と鼻孔をくすぐります。山野と水辺の風景をきままにトレッキングしているようなゴージャスな気分に浸りました。
 会場はお座敷、(大きい声ではいえませんが)私の所に酒瓶が集まります。これも運がいいとしかいえません。座が沸き立ってくると、交わされる会話も酒の味を深めていきます。
「あぁ、酒の会は主催するものではない」と実感しました。



 
商 品 紹 介
最上川・特別純米原酒「最上川」
 地元新庄の最上川酒造さんがファン感謝の一環として特別純米原酒「最上川」を発売します。表示は純米となっておりますが、中身は純米吟醸です。試飲をさせていただきましたが、香味ともに素晴らしい出来です。絶対のおすすめ商品です。
 ただし、出荷量が1.8L詰めで300本と少なく、当店の仕入れは36本のみです。品切れの際はご容赦下さい。ただいま予約受付中です。
  原料米:出羽燦々100%  精米歩合:50%以下
  度数:16.8%
  入荷予定日:3月下旬
                1.8L  2800円(税別)
 



山形県内生酒飲みくらべ頒布会

 山形県内の18の蔵元の生酒が楽しめる絶好の機会です!
キーンと冷やした生酒のおいしい5月から頒布開始です。

 頒布品:各月300ml×6本

5月
(霞城寿・あら玉・菊勇・栄光冨士・錦爛・桜川)
6月
(銀嶺月山・六歌仙・初孫・上喜元・弁天・加茂川)
7月
(男山・千代寿・奥羽自慢・最上川・東の麓・米鶴)

 会  費:1回 2,860円×3回

※価格は外税です。代金は毎月商品お届け時に頂きます。

 申込締切:平成14年4月19日

 申込方法:富田酒店までお申し込みください。

※商品は保冷箱に収納してお届けします。
※生酒ですので到着後は必ず冷蔵庫に入れて保存してください。
※発送の場合は、別途送料がかかりますのでご了承ください。




……… 編 集 後 記 ………
○今回の「名酒を楽しむ集い」は、落語のテープを聴きながら試飲をするという初めての試みで、どうなることかと案じておりましたが、ご案内と同時に申し込みが殺到し、つたや本店さんにお願いして懐石料理を出せるぎりぎりの50名まで定員を増やしてもらいました。「集い」の中身は篠田先生のご紹介のようにほんとに素晴らしいものでした。これもひとえに篠田先生始めご参加いただいた皆さん、会場のつたや本店さん、それに無理なお願いにもかかわらず快くお酒をお分け下さいました浦霞・越乃寒梅・真澄・梅錦・香露の各蔵元さんのお陰です。紙面を借りてお礼申し上げます。本当に有り難うございました。
 最後に一言だけわがままを言わせてもらえば、「あああ、誰か私に代わって名酒を楽しむ集いを開いてくれないかなぁ・・・」



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