第166号(2001.07.10)
七夕と酒
 梅雨・・・、雨に濡れた色とりどりの花々は、この季節特有の湿度と相まって、その美しさと質感を増しながら見る者を幻想の世界へと誘っているようです。
 ・・・なぁ〜んちゃって、まったく蒸し暑くていやになりますね。幻想の世界に誘われてしまいそうなのは、この蒸し暑さでこちらの脳みそにカビが生えかけているせいかもしれません。
 閑話休題。7月7日といえば七夕ですね。それにしても1月1日の正月、3月3日の桃の節句、5月5日の端午の節句、9月9日の重陽の節句とどれも酒と縁があるのに、七夕だけは酒の話はあまり聞いたことがありませんね。
 そこで調べてみたらやはりあったんですよ。今回の富田通信は「七夕と酒」と題して、芝田晩成著「酒鑑(さけかがみ)」から、書いてみましょう。

たなばたのあま酒
 七夕は五節句のひとつで、七月七日の夜、天の川の西岸にある織女星と東岸の牽牛星とが、年に一度デートするというので、下界の人々は若き二人を祝福して色々の供物をし、また自分たちも二星に願いごとをします。この行事は中国伝来のもので、周の初期(約3000年前)ごろから行なわれていました。東洋最古の歌集「詩経」に、「天の河にかかりてうち見れば光わたり やるせなき織女星は ひねもす七やどりする かがやける彼のひこ星は・・・」と美しく歌われています。
 わが国には、800年ころに伝来したようで、万葉集に、

 棚機(たなばた)の今夜あひなばつねのごと あすをへだてて年はながけむ

 の句が見えます。現代の七夕祭りは、仙台、平塚などが盛大ですが、これは商魂たくましき商店街の客寄せの手で、お色気や神秘性などは少しもうかがわれません。
 五節句には酒がつきものですが、七夕ばかりはあまり酒宴がみられません。ですが中国では昔から盛んに飲んでいるようです。

 半輪の月に酒壺かかえ
 友とてもなく独り酌む
 月とわが影のただ三人
 月は酒など解さぬが
 三人だけで楽しさ一ぱい
 わたしが歌えば月はさまよい
 わたしが踊れば影もおどる
 正気のうちは仲よいが
 酩酊するとばらばら
 月と影とわたしは
 人間ばなれの遊び仲間
 互いに永久に誓い合う
 落ち合うとこは天の川

 わが国では、「古今要覧稿」(屋代弘賢編、江戸末期)に「七月七日、七遊といふ事は南北両朝の頃より初りけん・・・七日は七百首の歌・・・七献の御酒云々」と見えています。これは風流の公達(きんだち)が詠み、かつ盃をかわし合った光景です。それが時代が下がると脚本「廊(くるわ)の花見時」に「正月は屠蘇の酒、弥生は雛の白酒に女中(おとめ)の顔も麗しく、桃の媚(こび)ある桃の酒、端午の節句は菖蒲酒、七夕は一夜酒(あま酒)、重陽は菊の酒・・・」とあるように、七夕には婦女子向きの甘酒を飲んでいました。
 「倭訓栞」(谷川士清、幕末)に「あまざけとは、一夜酒なり。日中行事に六月一日より七月晦日まで一夜酒を供すとみゆ」とあります。昔は、甘酒は夏の飲み物だったようです。
 落語にも、往来を売り歩いている甘酒売りに、意地の悪い客が、「おーい、あついか?」と呼びかけると、甘酒売りは、しめたとばかりに「あついですよ、旦那!」と答えると、客は笑いながら「じゃ、日陰を歩け!」というのがあります。そもそも、夏は気温が高いので、甘酒を造るのには好都合だったのでしょう(甘酒を造るときの糖化最適温度は55〜60度)。

 ひげづらであま酒を飲むみともなさ(寛政)


 この落語には続きがあって、それを見ていた与太郎が“うまいこと言やアがンなア。えッ、甘酒屋、アツいかい? アツウござんす、日陰を通ンねえ・・・か。こいつアうめえなあ。よし、おれもやってみようかナ、ひとつ・・・”ッてンで通りかかった甘酒売りに「アツいかい?」と呼びかけると甘酒売りは「飲み頃ですよ!」、与太郎「じゃァ・・・一ぱいくれやい」と甘酒を買うハメになってしまうんです。
 現代に生きる私としましては、南北両朝の風流の公達とまではいかないにしても、七夕の晩は織り姫と彦星に思いをはせながら、よく冷えた吟醸酒に天の川を映して飲みたいものです。・・・乾杯!




 
商 品 紹 介
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……… 編 集 後 記 ………
○梅雨後半の暑くてジメジメして何とも不快な時期ですが、この2〜3年前から心浮き立つ季節になりました。そう、待ちに待った、堤防でのクロダイのヘチ釣りがやっと始まるのです! 2m50cmほどの短竿を使い、50cm前後のクロダイとのやりとり・・・、パソコンの前にすわっている今でさえ、心はすでに堤防の上です。「釣りは恋愛に似ている」と誰かが言ってましたっけ。
 うまくいけば次回の富田通信で釣果が報告できるかもしれません。乾杯!



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