第162号(2001.03.10)
曲水の宴
 3月。・・・やっと、3月。今年ほど、3月になってホッとした年はありません。たとえ、最大瞬間風速が29メートルを超える吹雪の日があっても、もはや3月なんです! もう2月に戻ることはないんです! まだ積雪は1メートルを超えていても毎日の雪解けが実感できるんです!
 ・・・2月が終わった安堵感におもわぬ書き出しになってしまいましたが、それほど今年の冬は厳しかったのです。3月3日付けの読売新聞に「雪の死傷者本県突出」の見出しが踊っていました。記事を紹介しましょう。
 「この冬の豪雪による山形県内の死傷者数(1月末現在)は全国の約28%を占め、突出して多かったことが総務省消防庁のまとめでわかった。
 集計数字は、除雪中の屋根からの転落や落雪、雪崩による被害者数をまとめたもので、歩行中の転倒などは含まれない。それによると、全国の総死傷者数は558人(死者38人)で、このうち山形県は158人(同6人)。次いで多かったのは、新潟県の94人(同8人)、福井県の52人(同5人)など。
 山形県消防防災課によると、県内の死傷者数は2月以降も増え続けており、3月2日午後4時までで210人(同10人)となっており、・・・中略・・・
 同課は「東北でも特に山形県が集中的な雪に見舞われたことが数字に表われた。融雪期に入り、今後は雪崩への警戒が必要。山間部の斜面に雪の割れ目を見つけたら、連絡してほしい」と話している。」
 ・・・ほんと、今年の冬はすごかった。それだけに、ようやく春めいてきた陽の光に、雪解けの水音に、心が浮き立ちます。
 今回の富田通信は、まだまだ雪の中ではありますが、3月3日に行なわれていた「曲水の宴」について、「酒おもしろ語典」坂倉又吉著より書いてみましょう。

曲水の宴
 この曲水の宴は中国から渡ってきたものですから、日本語ではどう読もうとどうでもよさそうなものですが、古い書物によると「ゴクスイのエン」と読むのが正しいのだそうです。
 「曲水の宴」のおこりは、重陽の宴よりもずっと古く、周の武王(前1122〜1115)の時代からはじまったとされています。もっともその頃は「流れに酒(盃)を浮かべた」とあるだけですから、今に伝えられる「曲水の宴」であったかどうかはわかりません。
 のち、日本に伝わり行なわれるようになった「曲水の宴」とは、奈良平安時代に、3月3日桃の日または3月上巳の日に朝廷や公家などの間に行なわれた年中行事の一つで、流れ曲がる水のほとりにすわり、上流より盃を流してその盃が自分の前を通り過ぎぬ前に、詩を作って盃をとって飲み、そして盃をさらに下へ流すという方法で、酒を飲み、詩を作るというまことに風雅な宴遊の会でありました。
 日本におけるそのはじまりは、顕宗天皇の元年(485)3月上巳の日とのことでありますが、ご本家中国においてこのような曲水の宴が行なわれたという最初の記録は、実に秦の昭王(前306〜)のときであるとのことですから、さすが文字の国、詩の国だけあって、ずいぶんと古くから、こんな風流な遊びをしたものだと感心させられます。
 ところで盃を流すというのですから、どんな方法で流したものなんだろうかと考えていましたところ、それは盃自体が問題であって、もとは羽觴(はしょく)を使っていたもののようです。羽觴とはその字のごとく羽の盃ですから、軽くてまた流れ去ることもないわけです。
 また曲水の宴は、重陽の宴が9月菊花の頃に行なわれるのに対して、「曲水桃花の宴」ともいわれているように3月桃花の頃に行なわれるのでありますが、そのいわれはと申しますと、西晋の武帝太康年間(280〜289)における故事に、山民建山(人名か?)が武陵というところに来て、桃の花が水に流れているのを飲んでから、気力がさかんになって三百余歳までも長生きをしたという言い伝えから来たもので、不老長寿を願う意味なのでしょうが、季節の花を酒に浮かべて飲むことにより縁起を祝う意味に解するむきもあります。

 ところで今、3月3日といえば、雛祭りですよね。曲水の宴とは本来関係がないのですが、雛祭りについてもちょっと書いてみましょう。
 日本では、平安朝の頃から3月3日を巳日祓といって人形を作ってこれをなでさすり、唇にあてて、身心の汚れを落とし、水に流すということが行なわれていました。このお祓いの人形が雛祭りの源になったといわれています。
 また、白酒は桃の節句につきものですが、この風習は奈良時代から始まったということです。そして、白酒とともに雛祭りになくてはならない桃の花については、3月の花であるばかりでなく、桃は邪気を払う長寿の霊木とされています。ももは百歳(もも)にも通じるということなのでしょう。
 蛇足ながら、お雛様に添えられる赤・白・緑の三つ重ねの菱餅は、桃の花と葉を表わしたものといわれています。



 
商 品 紹 介
栄光冨士・大吟醸本生「雫(しずく)」
 先月の当店の「名酒を楽しむ集い」で特別にお分けいただいた栄光冨士さんの大吟醸本生の評判があまりに良かったので、蔵元がその酒に「雫」のラベルを貼って出荷してくださることになりました。
 押しつけがましくなく、料理の味を引き立て、それでいて凛とした味わいは、まるで栄光冨士さんの蔵人たちの性格をそのまま表わしているようで、ほんとうにお薦めです。ぜひ一度お試し下さい。
                1.8L  8738円(税別)

栄光冨士・純米吟醸生「DEWA33」
 栄光冨士さんのDEWA33の1.8L詰めが値下げになりました。仕込み内容は昨年までと同じ出羽燦々の50%精米です。
                1.8L  3000円(税別)
 



……… 編 集 後 記 ………
○先日、酒を配達にいったところ、お客さんから「もうこれ処分しようと思っているんだけどいらないか?」と、文庫本をいただいてきました。
 その数ざっと200冊。その中で目を引く本がありました。スチュアート ヘンリ著『はばかりながら「トイレと文化」考』っていう本です。
 ・・・え? だれです「どうしてあんたは下ネタばかりに関心があるんだろうねえ」なんていっている人は。あたしゃ、下ネタの中にこそ人間の真実があると思っているんですよ。それにこの富田通信のキャッチフレーズが「酒と文化と語り合い」なんですから、読まないわけにはいかない。・・・エヘへ。
 で、書いてあることは、男や女、それに民族ごとのうんちやおしっこの仕方、排泄物の処理の仕方など、とにかく排泄行為、排泄物に対する考え方の違いを通して、文化とは何かをわかりやすく説いているんですよ。どんな人でも必ずする、うんちやおしっこを通して文化を論じているわけですから、実に納得できる本です。

○雪が解けて屋根から落ちる雨垂れの音が日増しに大きくなり、降る雪の中にも春の気配がかすかに混じるようになりました。冬の間しまっておいた釣り竿を取り出してその感触を楽しみ、部屋の中で伸ばしては、夢の中で魚と遊んでいます。さあ、雪解けを待って、魚たちに会いに行こう。・・・乾杯!



E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール