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ヌーボーと新酒 このところの朝の冷え込みで霜が降りる日が多くなりました。霜月とはよくいったものです。新庄のぐるりを囲む山々もすそ野まで赤や黄色のパッチワークになりました。天気の良い日には玄関や庭木の雪囲いで大忙しです。 ところで先日、普段ほとんどワインを飲んでいないお客さんから「ボジョレーヌーボーがそろそろ出るんじゃなかったっけ」と聞かれました。「ええ、毎年11月の第3木曜日、今年は16日に販売です」と答えると「じゃ、3本予約しておいて」・・・とまあ、ワインの新酒はマスコミのおかげで認知度が高いんですが、一方、日本酒の新酒の方はっていうと、いまいちなんですよね。勤労感謝の日も来ることですし、今回の富田通信は新酒のはなしと参りましょう。 ボジョレーヌーボー 日本酒の新酒の話に入る前に、ボジョレーヌーボーについて少し書いてみたいと思います。 ボジョレーヌーボーとはフランスのボジョレー地区産の赤ワインの新酒で、ガメイ種という黒ブドウを使って造られます。普通、赤ワインは飲み頃になるまで熟成させなければならないんですが、このワインは独特の造り方をすることによってブドウの収穫から一カ月で出荷されます。 なぜ、独特の造り方をしてまで早く出荷するのでしょうか? それは、このワインがその年の収穫を感謝する飲み物だからです。ですから、フランスの人々はこの日を心待ちにして、お祭りのようにわいわいと楽しく、ガブガブとヌーボーを飲むのです。 勤労感謝の日 えっ、日本酒の新酒の話なのにどうして勤労感謝の日かって? それはこの日に米で造った酒、つまり日本酒の先祖が生まれたとされているからです。 日本で一番最初に米で酒を造ったのはコノハナサクヤ姫(別名カムアダカシツ姫)とされています。『日本書紀』に「狭名田(さなだ)」の「田の稲を以て、天甜酒を醸(か)みて嘗(にいなえ)す、又淳浪田(ぬなた)の稲を用て、飯(いい)を為(かし)きて嘗す」と記されています。 コノハナサクヤ姫と天甜酒については、富田通信第148号に書きましたのでここでは、嘗(にいなえ)について書いてみます。ニイナエとは、ニイ(新穀)のアエ(饗)の約言です。新嘗は、その年の新穀でつくった御飯と御酒とを神前にお供えした後で、神様と共に食べたり飲んだりする祭で、農耕儀礼のうちでもっとも重要視されていました。この神祭が、宮廷における新嘗会、さらには大嘗会として制度化され、後の新嘗(ニイナメ)祭となり、戦後、勤労感謝の日と名前を変えたのです。 もっとも、昔は11月23日じゃなく、陰暦11月の中の卯の日に行われていました。今年は12月11日に当たります。その頃になると、なるほど新酒ができますものね。 ですから、フランス人がボジョレーヌーボーでその年の収穫を祝うように、日本人である我々は、もともとの勤労感謝の日、つまり今年は12月11日に日本酒の新酒、それもできれば吟醸酒の新酒で収穫を祝ってこそ、世界に日本の文化の高さを示すことができるんじゃないかと思うんですがねえ。 酒林(さかばやし)とブッシュ 新酒について書いたついでに、酒林とブッシュについて書いてみましょう。日本酒の新酒ができたときに酒蔵では酒林と呼ばれる杉の葉でできた玉を軒先につるします。酒蔵を見学なされた方の中には実際にご覧になられた方もあるかと思います。 この酒林、日本だけのものかと思っていましたら、何とヨーロッパの方にもあるんですね。なんでも、ブッシュといって酒屋の看板なんだそうです。 古代ローマ人によって、イギリスやフランスなどのヨーロッパ各国へ伝えられたもので、常春藤(きづた)を用いて作られていました。 この常春藤はあの酒神バッカスの神木なんだそうです。日本の酒林が酒神を祭る三輪神社の神木である杉でできているのとそっくりですね。 もっともバッカスはワインの神様ですから、ビールの国のドイツやイギリスでは、やがて常春藤でなくても、常緑樹であればどんな木でもよいとされ、今ではいろんな材料が使われているそうです。 また、ブッシュの形態も、土地によっていろいろ違うようで、常春藤等を棒の先に環状にして下げているもの、束にして下げているもの、あるいは一枝のまま下げているものなど様々ですが、もともとは環状であることが原則だったようです。 それは、バッカスが頭に常に常春藤の環をかぶっていたところからきたようですが、この常春藤の環にはじつは、ワインの酔いを解く強い力があるとされていたんだそうです。ということは、バッカスは常に二日酔いだったんでしょうかね。・・・乾杯! |
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○『何を血迷ったのか、禁煙しました。いままで何度となく失敗に終わっていたのですが、今度は大丈夫そうです。』・・・と編集後記に書いたのが富田通信第133号でした。 |
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