第155号(2000.08.10)
生貯蔵酒ってどんな酒?
 残暑お見舞い申し上げます。
 連日35度前後の最高気温が続いた去年ほどではないにしても、新庄は今年の夏も暑い毎日が続いています。
 クーラーなどという文明の利器とは縁のない生活を続けている身としては、つい最近、かすかに忍び込み始めた朝の冷気と、日暮れとともに聞こえ始めた虫の声にかろうじて一日分の活力を与えてもらっています。
 ところで、「幻の日本酒を飲む会ニュース」88号に篠田次郎さんが「生貯蔵酒ってどんなの?」と題して、大変ショッキングなことを書かれていました。以下にご紹介します。

「生貯蔵酒」ってどんなの?   篠田次郎
 さてお立ち会い。20年前から表示されている「生貯蔵酒」とはどんなものかご存じか?
 「生というのだから、何か生でなくなる処理をしない酒のことでしょう」。「では、『貯蔵』とあるのは?」と重ねて聞いてみる。
 「そうね、生のものを瓶詰めして貯蔵しておいたのかな」と答えるのが日本人の常識だろう。ところがこれが大はずれ。
 話は振り出しに戻る。本来「生」といえば「熱処理」をしないものをいうのだ。酒はできてから2度熱処理されてわれわれの口に入る。最初は酒ができた春、熱処理(60度加熱)して貯蔵タンクに密閉される。それから瓶詰めのとき、もう一度熱処理をする。
 生だと、フレッシュな香味があるが、変質しやすい。それで生で蔵の外へ出るのは新春から春にかけての時期と、秋以降に加熱処理してある酒をそのまま瓶詰めするものぐらいであった。小さい蔵で商品が近いところで出荷後すぐ飲まれるケースだけだった。ビールもそうだったのである。
 ビールの世界に高性能濾過技術ができ、それを「生」として売り出しヒットした。日本酒も「生」があるのだから、昭和50年の自主規制の表示基準に「生」を入れた。当然「熱処理をしないもの」とある。
 ところがどこからか「生貯蔵」という表示商品がまかり出た。なぜか「貯蔵」という活字が小さかった。これは明らかに表示違反である。だが、自主基準を作った勧進元の組合はそれを阻止するどころか黙認してしまった。
 聞いてみるとまぁ、落語みたいな話なのさ。
 商品を出す方は「生」という言葉にあやかりたい。だが商品の変質が心配だ。そこでこんな言い訳を言い出した。
 「酒には2度の熱処理があるのだから、その1度を省略したのも生だ。『生で貯蔵・熱処理瓶詰』と『熱処理貯蔵・生詰』だ」という。
 こういうのを「横車を押す」とか、「盗人にも三分の理」とかいうのじゃないかな。
 大量に出荷される酒は、瓶詰時に加熱処理すれば安心だ。そこで貯蔵に入るときの熱処理を省略できまいか。必要は発明の母である。要は貯蔵をしなければいいのである。冷房蔵で酒をつくり、これを熱処理瓶詰めする。これが「生貯蔵酒」と名付けられた。
 よーく工程を観察すれば、「貯蔵による熟成」などカケラもなく、「生」ではなく、「加熱瓶詰」にほかならない。消費者の常識をよそに、「生貯蔵」という表示がまかり通ってしまった。だれも文句を言わぬ。
 わからないから文句のつけようもない。文句を言う先は耳を持たない。その間に、この表示は中小蔵の一部まで広がってしまった。こういうのを、かのグレッシャム先生は「悪貨は良貨を駆逐する」とのたもうた。
 あぁ、この記事を書いている方が赤面してしまいそうだ。

 いや〜、驚きましたね。皆さん知ってましたか? ちなみに富田通信34号(平成2年7月)の「特集:生酒」で私は、生酒・生詰・生貯蔵酒について次のように説明しました。
○生酒── 生とか本生とかも書く。火入れを一切しない酒で、低温で管理しなければならない。本当の生。
○生詰── 新酒の時期に一度、火入れして貯蔵し、ビンに詰めるとき火入れをしない酒。一度、火入れした酒をなんで生と呼ぶのか、頭の悪い小生には、かいもく不明。常温で管理ができる。
○生貯蔵酒──  新酒の時期に火入れをしないで低温貯蔵し、ビンに詰めるとき、火入れをした酒。常温で管理ができる。
 このように、生と書いてあっても、生詰、生貯蔵酒は、本当の意味での生では、ありませんので、くれぐれも御用心!
とね。
これからは次のように説明しなければなりませんね。
○生貯蔵酒:できた新酒を直ちに加熱瓶詰めした酒。生での貯蔵期間がほとんどないのに、なぜか生貯蔵と呼ばれる不思議な酒。・・・とね。



頒布会のお知らせ 
『お燗で味わう山形の酒』
お燗をしても美味しい山形県産酒の頒布会です。
会費:3000円×3回(税別)
申込締切:平成12年9月20日
内容(各月720ml×2本)
 10月 出羽桜酒造(天童市)  「純米酒・一耕」
     後藤康太郎酒造(高畠町)「純米吟醸・錦爛」
 11月 冨士酒造(鶴岡市)   「純米酒・農の己々呂」
     月山酒造(寒河江市)  「純米吟醸・銀嶺月山」
 12月 米鶴酒造(高畠町)   「純米酒・米鶴」
     高橋酒造(遊佐町)   「純米吟醸・東北泉」



……… 編 集 後 記 ………
○防波堤でのクロダイのヘチ釣りを始めて早2年。今年の7月はじめまでの釣果は去年9月に釣った42センチのクロダイ一匹のみ。ただただ、クロダイを求めて堤防の際にエサのイガイを落とし込み続けました。
 ところが「石の上にも三年」とはよく言ったもので、先月の中頃から今までまったく分からなかったクロダイの当たりが突如として分かるようになったのです。その当たりとは、言葉で説明するのは大変難しいのですが、あえていえば、道糸と竿を通して手元に伝わる非常に感覚的でそして驚くべきことに非常に鮮明な当たりです。
 今回のことであらためて思ったのですが、人間の感覚というものは少しずつ育つんじゃなく、ジャンプのような気がします。こちら側とあちら側には歩いては渡れない大きな溝があって・・・みたいな。
 いったん当たりが分かるようになると私の想像以上にクロダイが堤防周りにいることが分かりました。ただし、今のところまだ合わせが下手くそでなかなか針掛かりさせることができず、バラしてばかりですが・・・。それでも、合わせは感覚と違って技術の問題ですから、こちらは練習を積めば何とかなりそうです。
 当たりが分かってからの釣果は、45センチと28センチのクロダイ2匹だけですが、そのうちヤマメ釣りのように「ちょっと今晩のおかずにクロダイを釣ってくる」と言えるようになるかもしれません。・・・乾杯!



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