第150号(2000.03.10)
「米だけの酒」という酒はどんな酒?
 今年の冬は雪が少なく暖かいと喜んでいたら、2月中旬過ぎから毎日のようにこれでもかというほどの雪・雪・雪。2月29日には1m10cmを超えていました。1月末の1m10cmには驚きませんが、2月末にこの積雪量とは! いくら豪雪地帯の新庄でも少々うんざりです。
 でも、なんだかんだいってもやはり3月ですね。日射しがどことなく春めいてきて、まだまわりが雪だらけだというのに、天気の良い日は長靴を履くのがちょっとためらわれます。
 さて、今回の富田通信は吟醸酒研究家の篠田次郎さんが「幻の日本酒を飲む会 ニュース」で、表題の大変興味ある記事を書いていましたのでご紹介します。


「米だけの酒」という酒はどんな酒?
  表示基準ですら、このようにごまかされる        篠田 次郎


 ちかごろ「米だけの酒」という表示、そして宣伝が目立つ。だれもが「純米酒」のことだと思うだろうが、あれは法律で定められた「純米酒」ではない「純米酒」なのだ。こういったら、人々は益々混乱する。だが、私のいう前条の説明は正しいのだ。
 「清酒の製造方法と自主基準」というのがある。昭和50年に酒造組合が決めた。日本の酒類は、戦中戦後の食料枯渇時代に伝統も歴史も定義も良心もズタズタになった。それでは消費者が混乱するということで、「自主基準」を作った。「純米酒」とは、「米・米麹・水」だけで造られるものとした。詳しくいえば、この規定にも抜け穴があったのだが・・・。

 それが平成2年に「酒税法付則」となり、原料である米は「精米歩合70%以下」とより厳しくなった。これで品質はグッとよくなったのは皆さんご承知の通り。
 だが、「米だけの酒」は違う。どこが違うか。「精米歩合70%以上」なのである。つまり、常識的に見て「純米酒」より劣悪といっては失礼か、グレードが低いのだ。
 さてお立ち会い。「米だけの酒」が「純米酒」よりグレードが低いことを大衆はご存じか? 香具師の口上ではないが、おもしろテレビで「米だけの酒」を連呼すれば、「純米酒」がナニモノかすら知らぬ大衆は、テレビ魔術で「米だけの酒」が「純米酒」のことと思い、あるいはもっとグレードの高いものと誤認する可能性の方が高い。
 これは宣伝媒体の権威(これを信用する大衆が多いことはご存じの通り)を利用したペテンである。

 ペテンであるなら、その方の規定はないのか。前にあげた自主規制や酒税法で網をかぶせたはずだが、抜け穴くぐりができなければ、あれほど大手を振って厚顔にもペテンはやるまいし、網に引っかかっていれば組合や当局がなんとかしているはずだ。話を「抜け穴をくぐれた」として進める。

抜け穴の一つに「米だけの酒」の宣伝文句で「精米歩合73%」というのがあるという。つまり法律でいう「純米酒」には触れていないと堂々と発言している。法律ではこれをなんというか知らないが社会では「盗人猛々しい」という。
 法律にも盲点があり、それをくぐり抜けたものは、社会が罰してこそ自浄作用というものだが、われわれがそれをいえば、「法に反していないものを、余計なことをいって、営業妨害で訴えるぞ」といわれかねない。確信犯はそのぐらいの覚悟をしているのだろう。

 いい酒を求める者の一人としてこのいきさつを記した。
 会員(幻の日本酒を飲む会々員)諸氏はとうにこれらを理解しているだろうが、「それでもあんまりだ」と思うだろう。だが、われわれはこれ以上のことはいえない。この文を当事者に訴えても、「おっしゃる通りです。われわれの酒は純米酒ではないとも広告(精米歩合70%以上)しています。それを逆誤認して余計なことをいうな!」と恫喝されるだろう。

 では、だれがやるのか。ここでこそ業界の自浄作用を期待するのだが、なにせ確信犯は「大手」である。組合費の大口拠出者だ。組合は顔を見ただけですくんでしまう。期待できるのは「純米酒こそ日本酒だ」と標榜してきた蔵である。彼らが「われわれのいう『純米酒』と『米だけの酒』とはカクカクシカジカ違うのだ」という意見をいうことは、何ら差し支えのないことだ。「米だけの酒」の宣伝費の百分の一、千分の一でもいい。日本酒業界に「良心あり」という心意気を見せてもらいたい。

・・・いやはやなんとも、びっくりですね。かつては吟醸酒を毛嫌いして力で品評会を潰し、数年前の米不足の折りには市場に溢れかえった外米で密かに酒を造り、「ユウマイ」とか「バイショウ」とかどううまく造ってみても味が薄っぺらにしかならない酒を淡麗辛口と言い換えて堂々とテレビコマーシャル。そしてこんどは「米だけの酒」ですか! まったく「大手」の厚顔無恥ぶりには呆れかえって言葉も出ません。




 
商 品 紹 介
栄光冨士「純米吟醸生酒原酒」(限定品)
 
 栄光冨士さんより、数量限定で「純米吟醸」の生酒原酒が出荷されました。飲むほどにふくよかな味わいが口中に広がります。
 なお、数量がわずかなため、品切れの際はご容赦願います。当店30本のみの入荷です。

  原料米:山田錦  精米歩合:50%  アルコール度:17.7%
  日本酒度:+2.0  酸度:1.5cc
         1.8L 3,980円(税別)
 



質問コーナー
Q:
日本酒の原酒のアルコール度数は世界一高いって本当ですか?
A:
 はい、本当です。などど書くと「焼酎やウイスキーの方が高いじゃないの」と反論が来そうですね。確かに焼酎やウイスキーの方がはるかに高いのですが、それらの酒は日本酒やビール、ワインのような醸造酒を蒸留して造ったもので蒸留酒と呼ばれます。
 果実や穀類などを発酵させて造った醸造酒の中では、断然日本酒が世界一で、18〜20%、場合によっては22%にもなるものがあります。普通は、その原酒を水で割って15〜16%で出荷します。
 では、なぜ日本酒がこのように高いアルコール度数を出せるのかといいますと、大きく分けてふたつの製造法上の秘密があります。
 そのひとつは、日本酒を仕込むとき、原料である米、米麹、水を3〜4回に分けて仕込みタンクに入れていくわけですが、これによって糖化と発酵が並行して行なわれ、理想的にアルコールの生成が行なわれるのです。つまり、米のデンプンを麹が糖分に変え、それを出来たそばから酵母が食べ、アルコールを作り出していくのです。これにより、酵母が高い糖度にさらされることなく健全にアルコールを作り出していきます。このように糖化と発酵が並んで進んでいく仕込みを並行複発酵といいます。ちなみにワインのように初めからある糖分を発酵させる方法を単醗酵、ビールのようにデンプンを麦芽によってあらかじめ完全に糖分(麦芽糖)に変え、それから発酵させる方法を単行複発酵といいます。
 もうひとつは、麹を使うことにより、麹カビの生成した特殊な微量物質(プロテオリピッド等)が、アルコール発酵を行なう酵母を守り、20%ものアルコールに耐える活力を酵母に与えているからなのです。


E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール