第149号(2000.02.10)
つるしと斗びん取り

 今年の新庄は異様なほどの暖冬です。今までにも雪の少ない年は何回もありましたが、今年はなんといっても暖かいのです。例年だったら最低気温が氷点下10度を下回る日も珍しくなく真冬日の続く今の時期、なんと最低気温がプラスの温度を示す日もあるのです。まあ、毎日の雪かきから解放されて、私としては嬉しいかぎりなんですが、妙なもので、有るものが無いとなんだか落ち着かないのも事実です。去年の12月に新幹線が開通して東京が近くなった、いわゆる新幹線効果?だろうかなどと馬鹿なことを密かに思っています。
 ところで、いくら暖かい冬とはいっても、酒蔵では今、大吟醸の仕込みの真っ最中です。そこで、今回の富田通信は鑑評会出品用大吟醸の搾りについて書いてみましょう。


つるしって何?

 つるしを説明する前に、酒の搾りについてちょっと説明しておきましょう。発酵が終わったもろみは、搾られ、清酒と酒粕に分けられます。現在、ほとんどの酒は、もろみタンクから自動圧搾機という蛇腹のオバケのような機械に送られ、圧力をかけて短時間に搾られます。これは、清酒製造の労力と時間の両方の軽減という点で大変優れた方法です。

 しかし、吟醸酒、特に鑑評会出品用の大吟醸ともなれば話は違ってきます。鑑評会出品用の大吟醸は、もともと仕込みの量が少ない上、圧力をかけないで搾った方が遙かに品質がいいからです。

 そこで登場するのが「つるし」という方法です。発酵が終わったもろみを幅45センチ、長さ1.2メートルほどの酒袋に入れ、それを小さなタンクの上に渡した棒に結んであった紐につるしていくのです。

 酒袋は昔は木綿でできていましたが、現在では目の粗い化繊の袋です。何枚もつるされた酒袋から、最初はかなり白濁した酒が流れ落ちますが酒袋の目がだんだん詰まるに従って、濁りが少なくなってきます。
 酒袋をつるしたタンクには底の方に酒を出すための注ぎ口があり、酒袋から出た酒はそこから「斗びん(とびん)」といわれる18リットルのガラス容器に詰められていきます。最初の一本はもろみ成分があまりに多いため、もろみタンクに戻され、二本目から順次、斗びんに取り分けていきます。

 このように、「つるし」は少量の仕込みの大吟醸を全く圧力をかけないで取るのに最適な方法なのです。

 話は余談になりますが、「つるし」は別名「首つり」法とも呼ばれます。紐につるす姿からそう呼ばれるのでしょうが、あまりいい呼び名ではありませんね。

斗びん取り

 さて、次は斗びん取りの話です。今述べたように「つるし」で搾られた大吟醸は順次「斗びん」に取り分けていくのですが、なぜ、搾られた酒を一緒にしないで斗びんに小分けにして取っていくのでしょうか。
 結論から先に言ってしまうと、酒袋から流れ出た大吟醸を順番に斗びんに小分けにしていくのは、鑑評会で上位の成績をねらう最高品質の酒を得るために欠かせない技術だからです。

 先ほど、つるされた酒袋からしたたり落ちる大吟醸は、最初はかなり白濁しているがだんだん濁りが薄らいでくるといいましたね。これはもろみの中に含まれる、溶けきらない蒸し米、その他の固形物が酒袋の粗い目を徐々にふさぎ、自然にろ過層を作るためです。

 ということは、はじめに流れ出た酒はほとんどろ過を受けないのに対して、最後の方に流れ出た酒はかなりろ過の影響を受けるということです。
 つまり、酒袋から流れ出る酒は、徐々にその成分割合を変化させるということになります。この成分割合の違いは、その後の酒の熟成、すなわち香りと味に微妙な変化をもたらすのです。成分割合の違いごとに斗びんに小分けするというやり方は最高品質の酒を選ぶ上でとても優れた方法なのです。

 大吟醸を入れた斗びんは、詰められた順番ごとに1・2・3・・・と番号がつけられます。それを冷暗所に一週間ほど静置しておきますと、オリと上澄み部分に分かれます。当然、一番目の斗びんのオリが一番多く、順次少なくなっていくのですが、その上澄み部分だけを管で別の斗びんに移し替えます。オリの分だけ酒が少なくなりますから、その分を次の斗びんから順次補充して満杯にしておきます。このようにして上澄み部分だけにした大吟醸の中からもっとも最高品質のものを鑑評会に出品するのです。

 とまあ、口で言うのはたやすいのですが、いくら鑑評会用の大吟醸の仕込みが小さいからといっても、斗びんの数は数十本にもなります。その中から最高品質の酒を選ぶとなると・・・、杜氏と蔵元の腕の、いや口の見せどころとはいっても、なかなか難しいものなのです。なにせ、鑑評会に出品する日と、審査日に開きがありますので、その間に酒がどう変化するかまで予測しなければならないんですからね。ウーン、あたしにゃ無理だ。・・・乾杯!



お知らせ・・・
第12回「名酒を楽しむ集い」ご案内
 皆さまのおかげで、昭和63年に第1回目を開いた「名酒を楽しむ集い」も12回を迎えることになりました。有り難うございます。
 さて、今年も下記要領で「名酒を楽しむ集い」を開きます。今回は普段口にすることが出来ない特別な酒などを取り混ぜながら、つたや本店の素晴らしい懐石料理とともに楽しみたいと思っております。ぜひ、ご参加下さい。
 なお、定員になりしだい締め切らせていただきますのでご了承下さい。



 
 ─────────────  記 ─────────────
 日 時:平成12年2月19日(土)
      受付/午後6時  開宴/午後6時30分
 会 場:つたや本店 市内常葉町3−25 TEL22−0434
 会 費:10,000円
 定 員:40名
 主 催:富田酒店
 協 賛:つたや本店
 出品酒:出羽桜「大吟醸・オリ酒」
      (今年の鑑評会出品用の大吟のオリ酒)
     出羽桜「万礼大吟」
     栄光冨士「大吟醸・雫」
     上喜元「純米大吟醸・青帽子」
     米鶴「大吟醸・F1」
 ※参加申し込みは富田酒店までお願いします。
 



編 集 後 記

○1月26日朝、バイクで配達していたら私を追い越していったバイクが雪でタイヤを取られて目の前で転倒。ブレーキが間に合わず私も路肩の雪に転倒。その日の夕方、車で右折しようと信号待ちしていたら、脇の駐車場から出てきた車が私の運転席のドアに衝突。幸いどちらも大したことはなかったんですが。それにしても、一日に二回もとは。・・・ウーン、今年はあたり年かなあ。
○この前、天気が良かったので、海に釣りに行ってきました。釣り人は私の他は誰も無し。釣果も・・・無し。やっぱり今年は、はずれ年?



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