第140号(99.5.10)

酒に“さかな”

 冬から春への爆発的なエネルギーの前に戸惑いを感じる季節が去り、そして騒々しいゴールデンウィークも終わって、爽やかで穏やかな風薫る5月になりました。  空には鯉のぼりが泳ぎ、そして私の頭の中では魚が泳ぎ回っています。あああ、富田通信をほっぽって釣りに行きたい! てなわけにもいきませんので、せめて今回の富田通信は「酒おもしろ語典」より“さかな”の話をしましょう。

さかな(肴)

 今では、魚屋と書いて「さかなや」と読み、「さかな」とは魚のことのようにされていますが、これは語源から言うと正確ではありません。
 「さかな」とは本来はさけ、すなわち「酒菜」で酒に添えるものの意味でありますが、その「菜」は酒菜ともに通ずるのであって、魚鳥類のことを真菜(まな)、菜藻類のことを疏菜(そな)というのであります。

 また「さかな」とは必ずしも食品のみとは限らず、平安朝時代から鎌倉時代を経て室町時代まで(8〜16世紀)は、長上の者がその部下の者を酒宴に招くときの「さかな」は、衣類や武器などのいわゆる引き出物でありました。

 その後、歌謡舞踊の発達に伴い、その招かれた者などが報謝の気持で演技するのが、長上の者への「さかな」でもありました。
 さらに主従こもごも歌舞をする風習も起こりましたが、そのような「さかな」、すなわち酒の肴に踊り舞うことを、また「さかなまい(肴舞)」ともいいます。

『古今夷曲集』の寛文の項に
  肴舞の 扇子の風もいやで候
    今を盛りの 花見酒には云々

とあり、また歌舞伎でもご存じの狂言「棒縛り」では
  「肴に、何ぞ小舞を舞へ
と言っています。
 食物としての肴は、何も山海の珍味に限ったことではありません。それどころか江戸時代までは、むしろ簡素な添え物の方が多かったようです。『大和物語』にも
  「堅い塩、肴にして酒を飲ませて」
とあります。

 その後、江戸中期頃より社交的な宴会が盛んになるに従って、芸能方面の「さかな」はもっぱら専門の歌妓(かぎ)、幇間(ほうかん)の受持になり、それが今日の芸者となり、宴席の最初にする肴舞がいわゆる「お座付き」となりました。そして客へ贈る「さかな」は引き出物として存続され、また宴席に出るお料理の「さかな」はだんだん贅沢になって魚貝類が主用されるようになったのでありますが、これがすなわち、さかなといえばいつとなく魚類のことになってしまったゆえんであります。

 また、そのほか面白い話を「さかな」にすることがよくあります。皆さま方の中で、他人のうわさ話などを肴にして、「あいつ今頃くしゃみをしているだろうなあ。ワッハッハッ」などと話しがはずみ、酌み交わす酒もまたはずむというようなご経験がおありではありませんか?

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「さかな」と「魚」

「さかな」とは今述べたようにいろいろありますが、狭義のさかなはやはり食物でしょう。そのなかでも特に日本では代表的なさかなとして“魚”が用いられたので、自然、魚をさかなと呼ぶようになり、「魚屋」と書いて、昔は例えば「魚屋(うおや)宗五郎」であったのが、この頃では「さかなや」と読ませ、ついには「魚釣り」までもが「さかなつり」とまでいうようになってしまいました。

 しかし、これは本当は変な話しで、魚を「さかな」というのは、今となってはあながち間違いとばかりは決めつけられませんけれども、しかしそれは食前に供せられ、それこそ「酒の肴」になる魚のことですから、それは魚は魚でも加工された魚でなければなりません。
  ですから、小売の魚屋は、包丁などで加工しますから「さかなや」といってもよいかもしれませんが、魚河岸を「さかなかし」といったのでは、威勢のよい「鮮魚」を扱っている若衆に対しても失礼な言葉ともいえます。

 まして、元気よく生きて泳いでいる魚を釣るのを「さかなつり」というのは、間違っているということになります。

 もっとも麻雀で夜明かしする人たちが、「こうなったらかしわの鳴くまでやろう」などといっているのが洒落ならば、魚釣りを、「さかなつり」というのも、洒落からきた言葉なのかもしれません。

・・・そうかぁ、いままで「さかな釣り」といっていたから、なかなか釣れなかったんだ!

 よし、富田通信を書き上げたら「うお釣り」に行くぞ!! でも私の場合、釣った魚は酒の肴になるからやっぱり「さかな釣り」かな???

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平成11年東北新酒鑑評会優等賞受賞蔵

 4月16日、平成11年東北新酒鑑評会の優等賞受賞蔵が仙台国税局で発表されました。
 東北6県の230場の清酒製造場から675点の吟醸酒と純米酒が出品され、その中から、吟醸酒の部で98場151点、純米酒の部で8場9点が優等賞を受賞しました。
 本当は、全部をご紹介したいのですが、紙面の都合で山形県のみの紹介といたします。ご了承下さい。
 なお、各県の吟醸酒の部、純米酒の部の優等賞受賞数は以下の通りです。

【青森県】
  吟醸酒の部 9場 純米酒の部 1場
【秋田県】
  吟醸酒の部 22場 純米酒の部 0場
【岩手県】
  吟醸酒の部 11場 純米酒の部 2場
【宮城県】
  吟醸酒の部 6場 純米酒の部 0場
【福島県】
  吟醸酒の部 26場 純米酒の部 3場

【山形県】

 吟醸酒の部 24場

 男山・出羽桜(本社・山形工場)・誉の山形・千代寿・銀嶺月山・朝日川・一声・十四代・六歌仙・最上川・花羽陽・初孫(本社・本町蔵)・上喜元・奥羽自慢・竹の露・大山・栄光冨士・くどき上手・羽陽錦爛・白銀蔵王・米鶴・東の麓

 純米酒の部 2場
 羽陽錦爛・白銀蔵王

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編 集 後 記

○いま、竹内久美子さんの本にすっかりはまっています。1956年生まれの竹内さんは京都大学理学部、同大学院で動物行動学を専攻し、博士課程を経て著述業になられた方ですが、リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」に基づく理論は、まさに目からウロコです。

 女はシワができるのを、男はハゲになるのをなぜ恐れるのか。ダイエットの本当の理由は何か。男はなぜ自分のものの大きさと形にこだわるのか。姑はなぜ嫁に辛く当たるのか。などなど、人間の本質的な疑問に実に明快な答えを出しています。まあ、中には眉をひそめる人もいるでしょうが、だからこそ面白いのです。毒のない本ほどつまらないものはありませんものね。興味のある人にはぜひ一読をお勧めします。・・・乾杯!

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