第130号(98.07.10)

酒の歌(若山牧水)

酒の歌(若山牧水)

 今日もしっとりと、ザクロの赤い花びらを落としながら、重たい雨が降っています。木々の葉は、雨にうたれ、うっとうしいけだるさの中に緑をにじませ、周りのものすべてをその中に抱き込んでいます。新庄は梅雨のさなかです。
 ねむの花のように内と外との境界がぼやけてしまう夢幻的なこの季節、妙に心が落ち着き、内側に向かって静かに落ちていきます。
 今回の富田通信は、情熱とロマンと感傷の人、若山牧水の短歌の中から、酒を歌ったものを抜き出してみました。
 なお、最初の三つの歌は「白鳥の歌」として歌われていて、私の大好きな歌です。併せてお楽しみください。

 白鳥(しらとり)はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

 

 幾山河(いくやまかわ)越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく

 

 いざ行かむ行きてまだ見ぬ山を見むこのさびしさに君は耐ふるや

 

 灯(ひ)ともせばむしろみどりに見ゆる水酒と申すを君絶えず酌(つ)ぐ

 

 たぽたぽと樽に満ちたる酒は鳴るさびしき心うちつれて鳴る

 

 酒飲めばこころ和(なご)みてなみだのみかなしく頬をながるるは何(な)ぞ


−1−




 いざいざと友にさかづきすすめつつ泣かまほしかり酔(え)はむぞ今夜
 
 白玉(しらたま)の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり
 
 酒無しにけふは暮るるか二階よりあふげば空を行く烏(からす)あり
 
 秋かぜや日本(やまと)の国の稲の穂の酒のあぢはひ日にまされ来れ
 
 かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ
 
 飲むなと叱(しか)り叱りながら母がつぐうす暗き部屋の夜の酒のいろ
 
 ものいはぬ我にすすむるうす色の昼のひや酒妻もかたらず
 
 語らむにあまり久しく別れゐし我等なりけり先づ酒酌(く)まむ
 
 友酔はず我また酔はずいとまなくさかづきかはしこころを温(あたた)む
 
 時をおき老樹(おいき)の雫(しずく)おつるごと静けき酒は朝にこそあれ
 
 静心しづまりかねつ酒持ちて秋山さして出(い)でゆくわれは
 
 酒のめばなみだながるるならはしのそれもひとりの時に限れる

−2−



 それほどにうまきかと人のとひたらばなんと答へむこの酒の味
 
 置かれたる酒杯(コプ)のさけにもこまごまと静けき青葉うつりたるかな
 
 ゆふぐれを労(つか)れて酌(く)める一つきの酒はなかなかさびしくぞ酌む
 
 口にしてうまきこの酒こころにはさびしみおもひゆふべゆふべ酌む
 
 人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ
 
 寒鮒(かんぶな)のにがきはらわた噛みしめて昼酌む酒の座は日のひかり
 
 鉄瓶のふちに枕しねむたげに徳利かたむくいざわれも寝む
 
 朝日影さし入りて部屋にくまもなししみじみとして酒つぐわれは
 
 鉄瓶を二つ炉に置き心やすしひとつお茶の湯ひとつ燗の湯
 
 夜為事(よしごと)のあと労(つか)れて飲む酒のつくづくとうまし眠りつつ飲む

−3−




出羽桜『吟醸・一耕セット』

 このセットのために特別に詰めた吟醸酒と、軽い味わいながら口中で豊かに広がる香味で好評の純米酒・一耕の詰め合わせです。

 吟醸酒は冷やして、一耕は冷や又はぬる燗でお召し上がり下さい。

720ml×2本  3,107円(税別)


出羽桜『大吟醸セット』
 出羽桜の大吟醸の5本詰めセット。300mlの飲みきりサイズですから、お酒の劣化を気にせずに楽しむことができ、冷蔵庫に入れても邪魔になりません。冷酒がうまいこの時期に最適です。

300ml×5本  4,078円(税別)


初孫『渚の風物詩』

 日本有数の穀倉地帯、酒どころ酒田にある酒蔵。砂丘地の良水で、丹念に醸しあげた純米酒と本醸造のセットです。

 日本海の浜辺にたたずむ時のおおらかな解放感に満たされる味わい。涼しい旨さを、キリッと冷やしてお楽しみ下さい。

720ml×2本  2,500円(税別)

最上川・大吟醸『金美泉』

 地元新庄の銘酒、最上川酒造さんから大吟醸『金美泉』の720mlが発売されました。

 ほのかな甘さと穏やかな酒質は、金美泉の名のごとく、湧きいずる甘露といったところでしょうか。一度、お試しください。

720ml  2,500円(税別)





……… 編集後記 ………

○7月から店の前の道路の下水道工事が始まりました。工期は予定では8月末の新庄祭りまでだそうです。お陰で店は開店休業状態。長い夏休みになりそう。

○今回の富田通信は柄にもなく、短歌特集。ふだん、文学などというものには縁遠い私がこんな通信を書いてしまったのも、みんな梅雨のせいです。

・・・雨だれの音に乾杯!

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