第128号(98.05.10)


初呑切(はつのみきり)のはなし

 風薫る5月!っと書き出したいところなんですが、今年は4月から気温が高く、ただでさえ大急ぎで通り過ぎていく新庄の春がそれこそ全力疾走で駆け抜けていきました。
 4月20日に桜が満開になったと思ったら、22日にはもう葉桜。おかげで花見を楽しむ暇もなく、花無しで家の中で団子を食っておしまい。5月6日にはもう裏庭のスズランが白い花を可憐に咲かせていました。もう、すっかり初夏の装いです。
 ところで酒蔵では梅雨明け頃に、初呑切がおこなわれます。今回の富田通信は、いまの時期にこれを書くのはちょっと早いような気もしますが、今年の季節の流れの速さに乗じてこの初呑切について書いてみましょう。

初呑切

 普通、日本酒は秋から冬にかけて造られ、それを次の造りまでに出荷するというサイクルを繰り返します。その年の2月頃までに造られた酒は新酒としてすぐに売られるものを除いて、大部分は4月頃に火入をして貯蔵されます。

 この貯蔵された酒の品質を調べるために、時々タンクの呑口(のみくち、後述)から酒を取り出して鑑定することを呑切、最初の呑切を初呑切といいます。

 初呑切は酒造りが終わってからの酒蔵の最初の行事です。梅雨明けのこの日早朝から、杜氏、蔵人、主人、技師などが集まって、貯蔵タンク一本一本呑口から酒を取り出して検査をし、さらにきき酒をおこないます。
 この行事は酒蔵にとって夏の最大の行事で、終わればささやかな祝の宴も開かれます。

 きき酒の飛沫を浴びて蕗茂る
              田中稲風

呑口

 酒の貯蔵タンクの下の方に酒を出すための口がついています。この口のことを呑口といいます。ちなみに呑切という言葉は酒を出すために呑口を開ける(切る)ことからきています。
 でも、この呑口、酒を飲む口ではなく出す口なのになんで呑口なんでしょう?皆さん不思議に思いませんか。いろいろ調べてみたらやっぱり飲み口からきたもののようです。

−1−




 婚礼その他の祝儀用に使う角樽(一升入りから三升入り位までの丈の長い漆塗りの樽)は、その上部片隅に穴があいていて、そこを「飲み口」といいます。昔はその「飲み口」に口を当てて、満座の人々がいちいち順番に飲み回したものだそうです。今ではその飲み口から直接飲まないで、酒器や盃などに移して飲むことに変わったけれども名前だけは「呑口」として残り、しかもそれは角樽だけに限らず、すべての樽に及ぶようになり、さらに酒を仕込むタンクにも使われるようになったということです。


タンクには呑口が二つ

 不思議なことといえば、もう一つ。酒を造り、貯蔵するタンクにはなんと呑口が二つあります。タンクの一番下に一つと、その斜め上30センチばかりのところにもう一つ。上の呑口を上呑(うわのみ)、下を下呑(したのみ)といいます。

 どうして酒を出す穴が二つもあるんでしょう。結論を先に言ってしまえば、オリ引きをするための昔の名残です。

 仕込みタンクの中のモロミを搾って貯蔵タンクに入れる。搾ったばかりの酒は薄く濁っています。これを静置しておくと、上部の9割はすっかり透明になります。下の1割は濁りが濃くなります。この部分を「オリ」といい、上の方を澄ませることを「オリ引き」といいます。


 上の澄んだ部分は貯蔵に移し、オリの部分はそれを集めてまたオリ引きをします。ごく濃くなった部分は濾過に掛けます。
 酒袋で取りきれなかった微粒な薄濁り、自然沈下を待って沈殿させる先人たちの知恵が「上呑・下呑」に残っています。
 オリ下げという工程は、モロミ圧搾機が進歩して、微粒まで濾過できるようになったので、省略されるようになりました。「呑口」は、一つでもいいのかもしれませんが、木桶からホーロータンク、樹脂ライニングタンク、ステンレスタンクになったこんにちでも、二つ、ついているのです。


……… 編集後記 ………
 ゴールデンウィーク明けの6日、店をサボって新庄郊外の鮭川にヤマメ釣りに行ってきました。竿はサクラマスが釣れるかもしれないってんで、リールのついた黒鯛用のやつ。で、肝心の釣果の方は、……サクラマスはおろかヤマメもゼロ。とんだ獲らぬ狸になってしまいました。……人間、欲をだすとろくなことがありませんね。
                 ……乾杯。

−2−


『山形の吟醸酒を楽しむ会』
 代々受け継がれてきた杜氏達が秘技をつくし、時をかけ育てた、各蔵元の個性が香る秘蔵の逸品、みちのく山形の「吟醸酒」。県内35銘柄が勢揃いします。また平成10年東北新酒鑑評会金賞受賞酒も楽しめますよ!
 私も参加しますので、会場で見かけたらぜひ声をかけてください。
日 時:平成10年6月10日(水) 午後6時30分場 所:ホテル・サンルート酒田(酒田市)
定 員:200名(先着順)
会 費:5,000円
申込先:山形県酒造組合連合会
   (〒990-0041山形市緑町1−7−46)
    TEL 023-641-4050
    FAX 023-631-0903
※お申し込みは、ハガキ又はFAXに住所、同行者の人数、氏名、年齢、郵便番号、電話番号を明記し平成10年5月20日必着にて応募ください。
※先着順200名様に郵便振替用紙をお送りいたしますので、参加料5,000円を平成10年6月2日までにご送金ください。受領証(入場券)を発送いたします。
<参加銘柄>
一献・東の麓・羽陽辨天・米鶴・樽平・香梅・沖正宗・羽陽富久鶴・福牡丹・羽陽錦爛・東光・加茂川・小桜・羽前桜川・秀鳳・山形正宗・出羽桜・羽陽男山・霞城寿・朝日川・あら玉・銀嶺月山・澤正宗・千代寿・最上川・花羽陽・六歌仙・奥羽自慢・鯉川・竹の露・栄光冨士・亀の井・清泉川・初孫・上喜元


平成10年東北新酒鑑評会優等賞受賞蔵

 仙台国税局は4月17日に、平成10年東北新酒鑑評会の概況を発表し、第一合同庁舎で公開きき酒会を開催しました。

 以下に優等賞(金賞)受賞蔵をお知らせします。なお紙面の都合で山形県のみにさせていただきます。ご了承ください。

寿久蔵・秀鳳・出羽桜・千代寿・紅花屋重兵衛・銀嶺月山・あら玉月山丸・朝日川・一声・十四代・大吟醸手間暇・最上川・花羽陽・東北泉・栄冠菊勇・奥羽自慢・蔵古流・栄光冨士・くどき上手・羽前桜川・羽陽富久鶴・白銀蔵王・米鶴・一献醸心・酒中楽康

−3−

E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール