第127号(98.04.10)


遊び飲み

 今年は、雪の消えるのが非常に早くて、3月下旬には家のまわりに雪を見ることができなくなっていました。このままいけば、桜も早そうです。
 桜といえば花見酒ですね。ところでいったいいつ頃から日本人は、花鳥風月を愛でそれを肴に酒を飲むようになったのでしょうか。
 今回の富田通信は、この辺のことを日本酒センター刊行の「日本酒歳時記」より書いてみましょう。

遊び飲み

かくしつつ 遊び飲みこそ 
 草木すら 春は生えつつ 秋は散りゆく

大伴坂上郎女

 坂上郎女(さかのうえのいらつめ)は大伴旅人の異母妹で、旅人亡き後の大伴一族の精神的支柱ともいうべき役割を担い、また当代傑出した女流歌人としても高く評価されています。

 この歌はなにか気の沈むことのあった一族の集いで、「人の世に栄枯盛衰はつきもの。こんな時こそ楽しく飲んで下さいな。いきおいよく芽吹いている草木でさえ、秋には散っていき、また春が来て・・・」と、励まし、気を引き立たせているといったところでしょう。

 確かに、生者必滅、会者定離といった無常観、万象流転の嘆きとともに“だからこそ、こうしてお酒を飲む時間を大切にしたい。心の通い合う仲間と共にある瞬間が貴重なのではありませんか”という痛切な訴えが聞こえてくるようにも思えます。まさに一期一会の思想につながるものがあり、万葉人の飲みざまがそのまま生きざまであることを表現した、万葉集中の秀作といえましょう。

 とりわけ興味深いのは“遊び飲み”という熟語を使っていることです。魏志倭人伝の“歌舞飲酒”や風土記の“遊楽(たの)しみ遊ぶ”という日本人の酒の世界が、ここでは“遊び飲み”という言葉に凝縮されています。こうした遊び飲みの姿勢が、折々の花鳥風月を愛する心とともに、日本人の伝統的な飲酒観として定着していきます。

 万葉集よりもおよそ一世紀のち、880年代にその原型が作られたとされている「伊勢物語」では、当時の伊達者(だてしゃ)在原業平を主人公とする歌物語の中に、次のようなくだりがあります。

“むかし、左大臣(ひだりのおおいまうちぎみ)いまぞかり。賀茂川の辺、六条のわたりに、家をいとおもしろく造りて住みたまいけり。十月の晦日(つごもり)がた、菊の花うつろへるさかり、紅葉の千種(ちぐさ)に見ゆる折、親王たちおはしまさせて、夜ひと夜酒飲しあそびて、夜あけもて行くほどに、この殿のおもしろきを褒むる歌よむ・・・”

             (伊勢物語・80段)

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 日本酒の酔いは、優しくゆるやかで、味わいはつきることがありません。だからこそひと夜通して酒飲し遊ぶことができるのでしょう。単に好むのではなく、人性酒を嗜んだ私たちの祖先は、酒を楽しみ遊ぶものとして愛してきました。遊びそのものが私たちのまわりから失われている今、せめて酒を飲むときぐらい、遊び心を取り戻したいものです。

花の酒
 
花にうき世 我酒白く 食(めし)黒し

芭 蕉


 俳聖芭蕉でさえ、あまり高級とはいえないにごり酒風の酒をのみ、白くはない米を炊いて食べつつ、花に浮かれた憂き世をはすかいに眺め、我が身の不運をかこっていた、ということでしょうか。
 もっともこの白い酒、あるいは当時はやりの「うすにごりの酒」かもしれません。室町の頃刊行された書物に「先さけめしかし はやりて候 うすにごりも候」という口上とともに酒を売る女の図が載っていますが、グルメだった芭蕉のこと、はやりのうすにごり酒をのみ、滋養のある玄米を食べつつ、案外浮き世を謳歌していた、と推察することもできないことはありません。

 この「うすにごりの酒」を現代で言えば、「あらばしり」とか「しぼりたて」とか言われるものの一種で、ろ過したばかりの酒を指すのでしょうか。とすれば、その新鮮な味わいは当時でもなかなかトレンディな飲み物だったに違いありません。

 最後の浮世絵師ともいわれる伊東晴雨(1882年〜1961年)は、こんな花見を好んだそうです。

 人々が飲み歌う頭上には桜花が爛漫と咲き誇っています。その花をただ見て歩きます。おぼろ月でも出ていれば申し分ありません。そして歌舞飲酒のざわめきを遠く離れた小さな居酒屋に入ります。酒を注文すると、程よい燗の酒が運ばれてきます。目を閉じると、まぶたの裏に今見てきた万朶の桜が繚乱と広がります。静かに酒を口に含みます。はらりと花びらが散ったりして、酒が心にしみます。なんとも幽玄たる花見酒です。
さまざまの 事おもい出す 桜かな  桃青


同じ遊び飲みでも、どこかのノーパンシャブシャブとは雲泥の違いですね!



…… 商 品 紹 介 ……

栄光冨士『春の薦(はるのせん)』

 栄光冨士さんが、お花見にとっておきの酒を用意してくれました。

 ふんわりとした甘口の「特別本醸造 花より根」、幅のある味わいであと味もすっきりな「純米酒 庄内平野」、フルーティな「吟醸酒 庄内誉」の各300ml入りをビニールの手提げ袋に入れました。コップもついていますので、とっても便利です。
 満開の桜の下で、いろいろな味の酒を比べて飲んで下さい。きっと素敵な遊び飲みができますよ!

  300ml×3本 1,509円(税別)

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山形県内生酒飲みくらべ頒布会

 山形県内の18の蔵元の生酒が楽しめる絶好の機会です!キーンと冷やした生酒のおいしい5月から頒布開始です。

 頒布品:各月300ml×6本

5月
(東の麓・六歌仙・霞城寿・亀の井・一献・沢正宗)
6月
(山形正宗・忍川・千代寿・東北泉・奥羽自慢・沖正宗)
7月
(桜川・最上川・朝日川・樽平・麓井・出羽桜)

 会  費:1回 2,860円×3回

※価格は外税です。代金は毎月商品お届け時に頂きます。

 申込締切:平成10年4月20日

 申込方法:富田酒店までお申し込みください。

※商品は保冷箱に収納してお届けします。
※生酒ですので到着後は必ず冷蔵庫に入れて保存してください。
※発送の場合は、別途送料がかかりますのでご了承ください。



……… 編集後記 ………
 新庄を取り巻く山々は未だ雪を抱き、なかなか冬の衣装を脱ぎ捨てようとはしませんが、それでも川の水かさの増大は春の装いが近いことを感じさせます。 例年だったら、釣り竿片手にヤマメと戯れている時期なのですが、今年は雪解けが異様に早かったせいか、杉花粉がとても元気で・・・。くしゃみは出るわ、涙は出るわ、鼻水は出るわ。すっかりティッシュペーパーと仲良しのこのごろです・・・ハァ。

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