酒粕のはなし
1月の富田通信を書き上げたころにはまだ、今年は屋根の雪下ろしをしなくてもいいんじゃないか・・・などとほのかな期待を持っていたんですが、やっぱり雪は降りました。とくに1月中旬から下旬にかけては、毎日のように雪。一晩で、30センチを超える積雪の日もあるんですからほんとにいやんなります。おかげで、今年も雪下ろしをやらせてもらいました…。 |
とくに、鑑評会出品酒などはモロミを袋に入れて吊るし、自然に流れ落ちる酒をガラスの容器に集める方法をとり、まったく圧力を加えません。さらに、吟醸酒は低温で仕込むため、米が溶けきらずモロミの中に残っているというのも、酒粕が多くなる理由です。 ですから、吟醸酒を搾ってできた板粕は柔らかく(つまり板粕に吟醸酒がたっぷり含まれている)、その上、白く小さな米粒が点々と入っていて、甘酒にしたり、粕汁にしたり、あるいは焼いて食べるととってもおいしいんですよね。 食べてみたい人は、お申し出下さい。蔵元からもらった、吟醸酒の板粕がありますので差し上げますよ。 酒粕の利用法 酒を搾ったばかりの板粕は、前に書いたように甘酒や粕汁が一般的ですが、板粕をタンクに入れて柔らかくなってから夏以降に出荷される、いわゆる酒粕は、なんといっても粕漬けが代表格でしょう。ここで、酒の情報誌「びくん」に載っていた元醸造試験所の永谷さんが書いた粕漬けの方法をご紹介しましょう。 「奈良漬けは粕漬けの代表選手です。本来白瓜を漬けたもので、まず瓜を縦半分に割ってワタを除き、塩たっぷりで下漬けします。これを粕に漬け直します。一ヶ月もするとその瓜を取り出し、新しい粕に漬け直します。それを更に・・・と三回も四回もくり返しますと、塩分は抜けべっこう色の奈良漬けができ上がるという次第です。 |
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何種類かの粕が残りますので、順次格下げして使い、最初の段階で使った粕を適宜廃棄いたします。 こう見てくると奈良漬けは塩漬けの塩を粕で抜いて行き、粕のエキス分と置き換えているのです。 この手法を完璧にこなした実例は鮎の粕漬け(ある料理マニアの秘伝)であります。魚獲りが趣味のA氏は秋口になると自己の縄張りの川へ出かけ、落ち鮎をごっそり獲ってきます。 その中から形の揃った雌ばかりを選んで塩漬けします。それが並の塩蔵ではなく、トロ箱に大量の塩を入れておき、その中に埋め込んで脱水してしまうのです。飽和食塩水が底から垂れております。これを取り出して晴天に一日干しますとカチカチの塩ミイラとなりますが、これを粕に漬けるのです。 もちろん二度、三度と漬け直しますが、鮎のミイラは塩分が抜けると並行して粕の液分を吸い込み、お正月頃にはふっくらと肥えた鮮魚の姿に復元します。 |
魚の水分をまず除き、代わりに粕の液分を充填してやる。可哀想なのは粕で、酒を搾り取られたばかりか残った酒分までこうやって吸い出されるわけです。 さて腹に一杯に卵を抱いた姿のままのこの粕漬け鮎は、薄く背ごしに切って皿に並べ、塗りの箸でつまんで・・・思わず一杯やりたくなりますね。そんな贅沢な粕漬けです。」 永谷さんでなくとも思わずよだれがでそうです。落ち鮎が手に入る人はやってみませんか。当方、酒粕を提供しますので・・・。そしてでき上がったらぜひ私にもご馳走して下さい・・・エヘヘ。 ところで、「糟糠(そうこう)の妻」という言葉をご存じですか。私はてっきり、糠味噌臭いカミサンのことかと思ったら、飯が食えないから糟(かす)や糠で飢えをしのいだ、そんな貧乏に耐えて長年連れ添った奥様という尊称なんだそうですよ。余談ながら「粕」というのは俗字で正確には「糟」と書くんだそうです。 それでは皆さん、糟糠の妻に乾杯! |
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お知らせ・・・ 第10回「名酒を楽しむ集い」ご案内 日時 平成10年2月21日(土) |
出品酒:出羽桜「雪漫々」生酒 麓井「純米吟醸圓」生酒 樽平「純米大吟醸白鳳」生酒 栄光冨士「古酒屋のひとりよがり」生酒 松嶺の富士「高橋杜氏のたわごと」生酒 ※参加申し込みは富田酒店までお願いいたします。 ****編集後記**** 先日、屋根の雪下ろしをしました。作業を始めて15分ぐらいしたころ思わずハッと息をのみました。なんと、スコップでつけた雪の切り口が青く発光しているのです。空の色が反射して青く見えるのかと思い空を見上げましたが一面の灰色。その青は空の青とも水の青とも氷の青とも違う、雪の青としか形容のしようがない清らかで高貴な色なんですよ。この青がとけて地面に吸い込まれるからこそ、あの素晴らしい吟醸酒が生まれるに違いありません。 メールアドレス tomita@mail6.dewa.or.jp | |
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