第120(97.09.10)


どこへ行く、日本酒よ

 新庄祭りも終わり、静かな、あまりにも静かな9月がやってきました。実りの秋までのほんの一時、この静かさに身を任せて、しばらくはボ〜っとしていたいのですが、日本酒を取り巻く環境になにやら暗雲が立ちこめ始めました。
 それは、中央酒類審議会の答申を経て、この2月に国税庁より告示され、今年の7月1日から適用された 「清酒の製法品質表示基準」の一部改正です。
 今回の富田通信はこの改正について考えてみたいと思います。

【清酒の製法品質表示基準についての主な改正点】

(1) 白米の定義関係

 特定名称酒(純米酒、吟醸酒、本醸造酒等)に使用できる白米は、農産物検査法により3等以上に各付けされた玄米を精米したものに限られていますが、これに相当する外国産玄米を精米したものも使用することができるようになります。

(2) 製造時期の表示

 清酒には、製造時期を表示することになっていますが、輸入清酒で、製造時期が不明なものは、製造時期に代えて、輸入年月が表示できるようになります。


(3) 国内産清酒と外国産清酒をブレンドした場合の表示

 国内において、国内産清酒と外国産清酒をブレンドした清酒については、外国産清酒の原産国名及び使用割合を表示することになります。
 なお、使用割合については、10%の幅をもって表示することができます。

 以上です。では、一つ一つ考えてみたいと思います。

 まず、(1)の白米の定義関係ですが、外国産玄米が自由にそして、その使用を表示することなく、清酒に使えることになりました。私はいまさら外国産玄米を使ってはいけないなどと言うつもりはありません。使いたい酒蔵は堂々と使えばいいのです。

 ただ困るのは、外国産玄米を使っても表示されないということです。蔵元が口を閉ざせば、誰が、どこで、どのように作った米を使って清酒を造ったのか、その安全性も含めて、皆さん消費者のみならず、酒を売っている私にも分からないのです。

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(2)の製造時期の表示ですが、外国で出来た清酒は、その酒がいつ造られたかに関係なく、輸入年月が表示されるわけです。消費者はその年月を製造年月と思いこまされて飲むわけです………。清酒は口に入るものなんですよ。その清酒を輸入する商社がいつ造られたかも分からないものを調べもしないで輸入するとは思えないのですが。

(3)の国内産清酒と外国産清酒をブレンドした場合の表示については、前々から、密かに外国産をブレンドしそれを自社ブランドとして出荷している酒蔵が日本のどこかにあるらしいという黒い噂が流れていただけに、内心少しほっとしていました。ところが、吟醸酒研究機構の篠田次郎さんから届いた「幻の日本酒を飲む会ニュース」を読んで愕然としました。そこには以下のようなことが載っていました。

『広島県西条酒造組合からの手紙(新表示に対しての西条組合の厳守事項)・・・外国産清酒を直接バルクで輸入した場合は無論のこと、国内蔵置所経由で未納税移入しブレンドした場合は、酒税法上の規定のいかんにかかわらず、その産地名と使用割合を表示する。………これを解釈すれば、外国産清酒を輸入して販売する場合は、産地名と混入率を表示しなければならないらしいが、外国産清酒を業者から「桶買い」すれば表示は不要となるらしい。新しくできた表示基準では、ナンデモアリ同様なのだ。これまでも「桶取引」という隠れ蓑でイイカゲンにやれたのだった。桶取引したものは、ドコでダレがドノヨウニつくろうと、桶買いした蔵がつくったとされる。


 それは廉売店のメダマになっている量産酒だけの話ではない。吟醸酒もそうなのだ。情報公開への姿勢もなにもない。彼等がヤル気になったらすべては「闇の中」に押し込めることができるのだ。ドコでダレがつくったか分からない吟醸酒が、出荷元の蔵の名を麗々しく印刷し、市場に罷り通っているのだ。今度はそれに外国産が参入するだけだと思えばいい。』

 今度の新しくできた表示基準、そしてもうすでに適用されている表示基準は、篠田さんの言うとおりナンデモアリになってしまいました。いったいいつまで日本酒業界は自分の墓を掘り続けるつもりなのでしょう。



…… 編 集 後 記 ……
○8月25日の山形新聞の朝刊第一面に、私たちが作った山車がカラー写真で掲載されました。山車の題名は「風流 牛若丸」です。なぜ風流かですって?それはたぶんあらゆる日常的な呪縛を風流の名の下に一掃するためでしょう。すべての山車の題名は風流で始まります。
○富田通信もお陰様でまる十年、120号を出すことができました。本来なら「やったぜ十年」なぁんてウキウキ気分の通信を書くべきなのでしょうが、暗い内容の通信になってしまいました。これもきっとお祭りが終わったせいです。何はともあれ十年間、ご愛読有り難うございました。・・・乾杯

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