第119(97.08.10)


お酒ゼミナール

 残暑お見舞い申し上げます。皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
 今年の夏の冷夏予想は見事に外れ、新庄は例年並の暑さになっています。それでも高気圧がいくぶん北に偏っているせいか、朝の爽やかな冷気が、連夜の新庄祭りの山車制作で疲れた身体にかろうじて一日分の活力を与えてくれます。

 7月下旬、出羽桜の仲野常務といっしょに新庄の北隣の金山町に田圃を見に行ってきました。もちろん酒米の田圃です。朝晩が涼しくカラッとした気候のため、イモチ病の発生もなく青々と気持ちよく育っていました。そろそろ穂が出ている頃でしょう。
 さて、8月号恒例のお酒ゼミナールと参りましょう。今回はクイズ形式ではありませんが(祭り準備の飲み疲れのため問題が浮かびません)、ご勘弁のほどを。

ラガービールって火入れ(加熱処理)したビールだと思っていたのですが、ラガーの生ってどういうことですか?

 そうなんですよね。いったいいつ頃、誰が、何の目的で言い始めたのかは分かりませんが、日本では長い間、火入れしたビールのことをラガービール、生ビールのことをドラフトビールと呼んできました。


この呼び名はかなり一般化していて、昭和50年発行の『酒の事典』外池良三著にさえドラフトビールの項に「ドラフト・ビール:生ビール、普通は加熱殺菌をしないビールという意味である。これに対する殺菌したビールがラガー・ビールである。後略」とあります。

 では、ラガービールとは、いったいどんなビールをいうのでしょうか。実は富田通信の第23号に書いたように、ラガービールとは貯蔵したビールのことをいうのです。
 ラガーとは、ドイツ語のLager(貯蔵庫)に由来していて、ラガービールは「貯蔵ビール」と訳されます。

 ここで簡単にビールの製造法を説明しておきます。

 現在のビールは、まず麦汁を造り、これにビール酵母を加え5〜10℃で一週間あまり発酵させます。これを主発酵といい、このとき、後発酵のために発酵液の糖分を3%ほど残します。主発酵の終わった段階のビールをとくに若ビールと呼びます。若ビールを0〜1℃の低温で30〜50日間熟成させます。これを後発酵といいます。後発酵タンクは適度に加圧されており、ここで残りの糖分を発酵させて、発生する炭酸ガスをビールに溶け込ませます。こうしてビールの出来上がりです。

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 16世紀頃までは、主発酵の終わった若ビールを出荷、販売していました。ところが、貯蔵庫(ラガー)で貯蔵することによって味も日持ちも良くなることが分かり、貯蔵室で後発酵させるようになりました。つまり、ラガービールとは後発酵をさせたビールをいうのです。

 現在、世界で造られているビールのほとんどがラガービールです。ですからラガービールには本来、火入れをしたビールという意味はまったくないのです。 ここまで書いたついでに、ドラフトビールについても書いてみましょう。ドラフトビールとは樽ビールのことをいいます。本来は、容器から容器へ注ぎ出すことを意味していて、そこからドラフトという名がきました。

 びん詰めビールをボトルド・ビーア、缶やびんに詰められたビールをパッケージド・ビーアというのに対して、このドラフト・ビーアがあるのですが、日本では、容器に関係なく生ビールの意味で使われています。

 まったく日本人は横文字に弱いんですよねぇ。意味なんか関係ないんですから。商売上手といおうか、浅はかといおうか・・・。


 そういえば昔、本物のポートワインとは似ても似つかぬまがい物をポルトガル政府から抗議が来るまで知らん顔でポートワインと名乗って売っていたメーカーがありましたっけ。

日本酒の賞味期限はどのくらいでしょうか?

 造られてから、どれくらいの期間おいしく飲めるかという質問ですが、大きく分けて二つの要因によって違ってきます。製造方法と出来たお酒の保管方法です。

 まず製造方法による要因ですが、原料米を削れば削るほど長く持ちます。また精米歩合が同じであれば、純米酒よりもアルコールを少量添加した本醸造タイプのほうが持ちます。それから当然といえばそれまでですが、生酒よりも火入れした酒の方が長持ちします。

 次に保管方法による要因ですが、光を遮断し、保管温度は低ければ低いほど長く持ちます。

 個々のお酒がどれほど持つかは、なかなか答えられませんが、ちなみにこの前当店の冷蔵庫(0〜5℃)で貯蔵した大吟醸は、9年の歳月を経て、色は緑に冴え、抜群の香味を保っていました。

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お便りコーナー

 今年の正月から7月までの7ヶ月間、メコンの国々を巡る旅に出ていた、浜松市のKさんからインドのシッキム地方の「トゥンバ」別名「チャン」という珍しいお酒の土産話をいただきましたのでご紹介いたします。

トゥンバ

 粟を蒸してパンの粉とあわせ、お湯をつぎたすことでわずか5分〜15分でみるみるお酒になる。
価格:20RS(68円)
安上がりな酒で地元の民家で密造されている。
これで3〜4時間飲める。

 いやぁ、実に不思議な酒があるものですねぇ。世界は広い・・・。Kさん、面白いお話、どうも有り難うございました。


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…… 編 集 後 記 ……

 先日ラジオで聞いた話なのですが、今年の夏、話題のアニメ映画「もののけ姫」の制作費がアニメ映画史上最高の46億円なんだそうです。

 ところで皆さんは、この46億円の制作費の内、宣伝費はいくらぐらいだと思われますか? 驚くべきことに24億円なんだそうですよ! 残りの22億円が実際に制作にかかったお金。実制作費より宣伝費の方が多いんですね。

 ここで、誤解のないように言っておきますが、私はもののけ姫の内容をけなすつもりは毛頭ありません。きっと素晴らしい内容の映画なのでしょう。

 私が言いたいのは宣伝費のことです。良いものは、あまり宣伝しなくても、口コミによって少しずつ広まっていき、やがて根強い人気によって不動の地位を占めると思っていたのですが、現在はまず、商品発表より先に圧倒的な宣伝力でそのものを不動の地位まで押し上げてしまうものなんですねぇ。

 そこには、圧倒的な宣伝力を持つものの前に、宣伝力を持たない本当に良いものが隠されてしまう危険が絶えずあります。地方の小さな吟醸蔵なんか、最たるものでしょう。自分の五感と心とでしっかりと良いものを見つめ、それをみんなに伝え続けなければ・・・。乾杯!

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