第113(97.02.10)


寒造り

 節分の夜から立春の朝にかけて、新庄は今年一番の吹雪に襲われました。ヒュウウウーっと尻上がりに高くなる物悲しい音に、時折ドォーっという低く不気味な唸り声が混じります。雪女と冬将軍の圧倒的な混成二部合唱・・・。彼らの強大な力の前に人間の小ささを思い知らされる一瞬です。

 とはいっても、今年は暖冬で屋根の雪下ろしもまだ一回だけです。2月5日付けの山形新聞夕刊によると新庄の降雪量は去年1月の239cmに対して今年1月は245cmだったそうですが、真冬日(最高気温が氷点下)は去年1月が7日あったのに対して今年1月は1日しかなかったそうです。気温が高いために降った雪が融けるんですねぇ。そういえば例年だったら今の季節、ほとんど聞こえることのない雨だれの音が今も聞こえています。

 さて、本題に入りましょう。1月から2月にかけて、酒蔵では大吟醸の仕込みに入ります。いわゆる寒造りです。そこで今回の富田通信はこの「寒造り」について書いてみましょう。


寒造りの始まり
 酒は、ず〜っと以前から冬に造られてきたと思っていましたが、調べてみると意外に新しく、酒が冬に集中的に造られるようになったのは、江戸時代中期から後期の頃なんですよね。そして、完全に冬だけ造られるようになったのは、江戸末期から明治中期の頃と思われます。

 それ以前は、彼岸酒、春酒というように秋の彼岸前後から春の彼岸過ぎまで夏の期間を除いてほとんど一年中造っていたそうです。いわれてみれば、昔から冬にしか造らなかったら、あえて寒造りなんて言葉は生まれなかった筈ですものね。

 ではどうして、寒造りに集中したのでしょうか。ひとつには、冬に造った酒が秋や春に造った酒よりもはるかに味が良いということがあげられますが、理由はそれだけではありません。

 いつの時代もそうですが、物価の安定は政府にとって一番の関心事です。江戸時代、米の値段が物価に及ぼす影響は今よりはるかに大きなものでした。皆さんご存じのように酒を造るには大量の米が必要です。

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 また、江戸という町は全国各藩の屋敷があって、そこに国元を離れた武士たちがひしめき、寂しさを紛らわすため、あるいは今でいう官々接待のため大量に酒を消費しました。どれくらい飲んだかというと、江戸の人口が約100万人、年間の酒の消費が約100万樽。生まれたばかりの赤ん坊からお年寄りまでいれて一人平均、年間1樽。つまり一升びん換算で40本。大変な量です。
 そこで幕府は物価安定のため、以下のような酒造統制策をおこないました。
1.造り酒屋を城下町、宿場町、市場町に限定し、農民による在方での酒造り禁止
2.凶作の年は減醸令(酒造りの量を減らす)を下し、米穀の損亡を防止
3・自醸酒的性格の強い新酒(残暑が厳しいころの酒)を排し、市場性の高い寒酒づくりへの集中化

灘の寒造り

 江戸時代中期から幕末にかけて、灘酒は江戸で55%〜70%という圧倒的シェアを占めるようになります。当時の灘酒は他の酒よりも格段に味が優れていたからです。その理由は、


(1)宮水の発見
 1840年、桜正宗の6代目山邑太左衛門によって発見されました。宮水は、麹菌や酵母の繁殖を助ける成分や酵母の養分となる成分が多く含まれている水です。これによって灘酒は酒母やもろみの醗酵力の強い、つまり腐りにくく、味のしっかりした酒になりました。
(2)水車精米
 当時、精米は足踏みによっておこなわれていましたが、灘では、六甲山系の急流を利用した水車精米が発明されました。これにより、大量の、しかも高精白米が得られました。
(3)寒造りへの集中化
 細菌的汚染の少ない寒の季節に集中的に酒を造り、酒造期間の短縮化と集約化を計れば、品質的に向上するばかりか経済的に節減できます。また、こうして造った寒酒の優秀性をかざして大消費地江戸に持っていけば、市場を独占することができます。
 寒造りの技術は灘によって発展し、今日の清酒づくりの基礎が出来上がりました。

 いゃ〜、普段私たちが何気なく使っている寒造りという言葉の裏には、大変な苦労があったんですねぇ。先人の酒造りに対する熱意に乾杯!

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商 品 紹 介
  純米吟醸DEWA33

 去年の発売以来大好評の純正山形酒(米・麹菌・酵母・水のすべてが山形オリジナル)DEWA33が今年も発売になります。

 入荷は各社とも今月中旬頃になります。

○麓井・DEWA33圓
        720ml \1,300
○最上川・北国浪漫DEWA33
        720ml \1,450
○松嶺の富士・秘めごとDEWA33
        720ml \1,500
        1. 8L  \2,500
○栄光冨士・古酒屋栄光冨士DEWA33
        720ml \1,800
○出羽桜・出羽燦々誕生記念酒
        1. 8L  \2,850

お 知 ら せ

第9回『名酒を楽しむ集い』

 昨年11月、全国で吟醸酒の復旧に功績のあった人に贈られる『吟功績賞』という大きな賞を頂きました。これも皆様のお蔭です。有り難うございました。
 さて、今年も下記要領で『名酒を楽しむ集い』を開きます。今回は吟功績賞のお披露目も兼ねまして5種類の大吟醸と、つたや本店さんの素晴らしい懐石を楽しみたいと思っております。ぜひ、ご参加下さい。
 なお、定員になりしだい締め切らせて頂きますのでご了承下さい。
日時 平成9年2月22日(土)

    受付/午後6時 開宴/午後6時30分
会場 つたや本店 市内常葉町3-25
         Tel22-0434
会費 8,000円
定員 30名
主催 富田酒店
協賛 つたや本店
※参加申し込みは富田酒店までお願い致します。

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