第109(96.10.10)


聖人と賢人

 新庄は今、稲刈りの真っ最中。田圃のあちこちで大型の機械が、まるで電気バリカンのように動いております。

 稲刈りといえば、9月14日と15日、「田楽・山楽inかねやま」で春に植えた酒米の稲刈りに金山町に行ってきました。春に植えたのは「出羽燦々」という酒米でしたが、まだ刈り取り時期に達していないというので、美山錦という酒米の刈り取りとなりました。

 農家の方に刈り取りの指導を受け、「くれぐれも指を刈り取らないように」と脅されながら鎌をもらい、参加者一同見事に実った田圃へ。

 おっかなびっくり鎌を稲にあてる・・・ザクッ、意外と簡単に切れる。指は・・・無事。気を良くして次の株へ。こうして4株切ったところで、手にもった稲を下に置いて、また4株切って、先に切った4株と合わせて8株となったところで、ワラで縛って一束にします。

 このワラの縛り方がまた難しい。農家の人を見ると手品師のような鮮やかな仕種でぜんぜん分からない。で、隣の参加者を見ると私と同じ様に困惑顔。それを察した農家の方が親切に教えてくれて、悪戦苦闘の末、何とか一束出来上がりました。こうしてワイワイガヤガヤ一時間。汗まみれになりながら、なんとかかんとか稲を刈り終えました。爽やかな風が肌に心地好い2日間でした。


 さて、本題に入りましょう。人間には108の煩悩があるそうですが、除夜の鐘はそれを消し去るとか。富田通信も108号を超え、煩悩も無くなり無我の境地に達したところで(書いている本人は、煩悩が消える変わりに、毎月思考力が消え、今ではすっかり空になってしまい叩けば除夜の鐘のように鳴り響く頭を掻きむしりながら、ネタ探しに苦しんでおります)、聖人と賢人の話を「酒おもしろ語典」より拾ってみました。

聖 賢

 酒の名を聖(ひじり)とおほせし
        古の大き聖の言のよろしき

 これは、万葉の歌人大伴旅人(おおとものたびと)が歌った「酒を讃むる歌十三首」中の一首で、その意味は「酒の名を聖とつけた昔の大聖人の言葉の何とよいことよ」ということなのですが、その大聖人(大き聖)とは、魏の徐という人を指すのであろうとの説があります。

 すなわち、『三国志』魏志の徐伝によると、魏の太祖曹操(紀元前400年頃)が禁酒令を出しました。ところがあるとき徐はひそかに飲み「沈酔」していたのを見つけられ「只今聖人と会っておりました」と逃げましたが、それを伝え聞いた曹操は大いに怒って、彼を誅しようとしました。すると、曹操の側近が助けていわく、「日頃人民共はないしょで酒を飲んでいますが、そのため清い酒を“聖人"濁った酒のことを“賢人"という隠語を使っています。

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 徐は真面目でたまたま酔って正直に言っただけのことですから・・・ 」と。そこで曹操のきげんも直り、徐は刑を免れたとありますが、「大き聖」とはその徐を指すものと『万葉集講議』は解しています。

 これがすなわち、歴史上における禁酒令第一号であり、それとともに、清酒を聖人、濁酒を賢人、酒の総称を聖賢というようになったゆえんであります。なるほど、聖賢とは酒の功徳を礼讃して妙なる言葉ではありませんか。

 李白の有名な詩「月下独酌」中にも、次のように述べています。

  已聞清比聖(むかし清酒を聖人に比べたと聞く)

  復道濁如賢(また濁酒を賢人にたとえたという)

  賢聖既已飲(聖人、賢人を飲んでしまった以上は)

  
  何必求神仙(何も神仙を求める必要はない)

  三盃通大道(三盃で大道に通暁し)

  一斗合自然(一斗で自然に合体する)

  但得酒中趣(ただ、酒中興趣を解すればよい)

  勿為醒者伝(下戸に言って聞かさないことだ)


 さすがに李白、いいことを言いますねぇ。こうなったら私もすっかり空になった頭を吟醸酒で満たすことにしましょう。・・・乾杯!




… 商 品 紹 介 …

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編 集 後 記


○10月3日、山形県の秋の清酒鑑評会の一般公開が山形県工業技術センターでありました。会場に着くと知った顔があちこちに見えます。挨拶をして吟醸酒、純米酒がずらーっと並んだセンター2階のきき酒室に入ると、吟醸酒の香りとピーンと張り詰めた空気に圧倒されます。私語は一切無く、聞こえるのは酒を口に入れて空気を吸い込むジュルジュルという音と、口に含んだ酒を吐器に吐き出す音ばかり。全感覚を酒に集中させた真剣勝負。いや~、鑑評会は疲れます。

○先日、珍しいものを食べました。名前はキツネノチャブクロ。そう、あの指で押すとふわっと煙のような胞子を出すキノコです。まだ、胞子を出す前の白くて固い球形のキノコをゆでて薄皮をむいて醤油をつけて食べるのです。友達が取ってきて食べさせてくれました。味や匂いはほとんどないのですが、歯ざわりがこんにゃくに似ていて少し滑りがあります。煮物などに入れると味を吸って中々美味だそうですよ。皆さんも機会があったらお試しください。なお、ゆでたキノコを割ってみて中が黄色くなっているやつは苦くて食べられないそうですので、ご注意の程を。

○今年の夏、徳間書店さんから「秋に“蔵元自慢 純米・吟醸酒百撰"という本を出版するんですが、その本の中の“全国うまい酒が買える店"というコーナーに富田酒店を紹介したいのでアンケートに答えてほしい」という電話がありました。徳間書店に知り合いはいないし、第一あの大出版社が何で新庄のこんな小さな酒屋に電話などと半信半疑で聞いていると更に「あの〜、掲載料は要りませんので」とのこと・・・。本は11月頃に書店に並ぶそうです。もし、本屋さんで見掛けたらページを開いて見てやってください。

 それにしても何故徳間書店がうちみたいに小さな酒屋に???

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