第108(96.09.10)


酒とお米の不思議な関係

 線路沿いのススキが風に揺れ、台所の片隅にスイカが恨めしそうに転がっています。新庄祭りの終わりとともに、秋がやって来ました。

 頭を垂れた稲穂は黄金色の輝きを増し、今月中旬からの刈り取りを待っています。私も5月に「田楽・山楽inかねやま」で植えた、酒造好適米・出羽燦々を刈り取りに14日に金山町に行ってきます。

 そこで、今回の富田通信では、酒と米の関係について書いてみたいと思います。

 私たちがお米屋さんで米を買う時、自分の好みに合った米を選びますよねぇ。粘りがあるとか、噛んだときの弾力があるとか・・・、つまりは、食味が良いといいますか、美味しい米を選ぶわけです。

 では、酒造りに使う米はどんな理由で選ばれるのでしょうか。やっぱり食べて美味しい米から、美味しい酒ができるのでしょうか?

 結論を先に言ってしまいますと、酒造りにおいては、食べて美味しいかどうかはあまり問題ではなく、酒を造りやすいかどうかによって選ばれます。日本酒の場合は、ワインと違って、米の味そのものが酒質を左右するということが非常に少ないためです。味よりも米の持っている性質によって選ばれます。

 旨い酒を造りやすい性質を持った米を酒造好適米といい、山田錦、美山錦、五百万石、雄町などがあり、現在約40品種が認定されています。


 酒造好適米とは、どのような性質を持った米をいうのでしょうか。酒の情報誌「びくん」に載っていた国税庁醸造試験所第一研究室室長・小林信也氏の説明を以下に簡単にまとめてみました。

(1)たんぱく質が少ない。
 酒の中のアミノ酸のほとんどは原料米の中のたんぱく質が麹由来の酵素によって分解・生成されたものです。このアミノ酸が多い酒は着色したり、雑味が多くなりやすいため、たんぱく質の少ない米が求められます。

(2)脂肪が少ない。
 脂肪は酸化して、酒本来の香りでない香りを生成するため、少ない方が良いとされます。

(3)大粒である。
  例えば50%精米歩合で酒を造る時、小粒では扱いが難しいため、大粒が好まれます。

(4)心白率が高い。
 米の中央にある、円または楕円の白色不透明な部分を心白と言います。白く見えるのは、米の中央部のでんぷん組織が疎い詰まり方のため、光が乱反射するためです。心白のある米は麹が造りやすく、もろみでよく溶けます。

(5)精米が容易である。
 精米中に米が割れたり、硬く精米しにくい、脱胚芽しにくい米は、酒質や作業性にとって良いとは言えないため、好まれていません。

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(6)吸水性が良い。
 一定量の水を速く吸水する方が原料処理が容易であり、酒母やもろみ中の溶解も良い。しかし、吸水量の限度はあります。

(7)麹が造りやすい。
 (4)の心白率が高いということに関連して、麹菌が米の中心部まで入り、良い麹が造りやすい米は醸造に適しています。

(8)酒母やもろみの中での溶解が良い。
 溶けやすい米でない場合は、粕の多いもろみになります。

(9)蒸米が外硬内軟である。
 (7)、(8)に関連して、蒸米の手触りが外側が硬くても、内側が軟らかく弾力のあるものが、麹が造りやすく、溶解が良いと言われています。

(10)カリウム等のミネラルが適量含まれている。
 カリウムやリン酸等のミネラルが無いと酵母や麹苗の生育が弱く、多すぎると増殖が活発になり、麹を造っている最中の品温やもろみの温度が急上昇し、操作や管理が複雑になるため、適量含まれている米が醸造に適しています。
 以上が酒造好適米の性質の説明です。これらの特徴は全て、酒を造るうえで好都合なのです。特に、酒の芸術品といわれ、米を半分以上も削って、低温で仕込まれる吟醸酒を造るときに、その威力を発揮します。


 誤解のないように言っておきますが、酒造好適米は、あくまで酒を造りやすい米ということであって、ササニシキや日本晴といった食用米では吟醸酒は造れないということではありません。食用米でも素晴らしい吟醸酒はできます。

 ただ、理由は分かりませんが、春にできた吟醸酒が秋になると、食用米で造ったものより酒造好適米で造ったものの方が味が良くなるのも事実です。

 酒と米の関係は、まだまだ分からないことの多い不思議な関係なのです。




酒の頒布会のお知らせ
 東光頒布会
頒布品 /純米酒1. 8L+もう一種類1. 8L 計2本
頒布期間/平成8年10月〜平成9年1月まで4回
会  費/毎月3900円×4回
予約締切/平成8年9月30日
内  容/
〔10月〕あけぼの100%純米酒+ひやおろし
〔11月〕山形県産はなの舞100%純米酒+辛口本醸造
〔12月〕朝日100%純米酒+本醸造鬼ころし
〔 1月〕山形県産はえぬき100%純米酒+本醸造うまくち

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酒の頒布会のお知らせ
  純米酒特撰頒布会
頒布品 /各社純米酒1. 8L×2本
頒布期間/平成8年10月〜平成9年3月まで6回
会  費/毎月4000円×6回
予約締切/平成8年9月30日
内  容/
〔10月〕環日本海・島根県 綾菊・香川県
〔11月〕恋の川・山形県  末廣・福島県
〔12月〕あさ開・岩手県  萬歳楽・石川県
〔 1月〕醉心・広島県   招徳・京都府
〔 2月〕冨の寿・福岡県  澤乃井・東京都
〔 3月〕七賢・山梨県   吉乃川・新潟県
※各頒布会とも、商品発送の場合には運賃が加算されますので、ご了承下さい。

編 集 後 記
 8月16日、仕事でドジをふんで右手薬指の指先をつぶしてしまいました。包帯を巻いた私の右手薬指を見て、知人友人の反応は正確に2種類の言葉に分かれました。一つは「山車作りでやったのか?」というもの。もう一つは、指を見て、ニヤニヤしながら「誰に噛まれたのや?」・・・あぁぁ、私はいったい何なんでしょう。仕事でという人が一人もいないとは・・・。まあ、これも日頃の行いのツケなんでしょうかねぇ・・・。幸い、指はワープロが打てるまでに回復しましたが、目下の最大の楽しみは、ツメの生え変わりをつぶさに観察できることです。滅多に見られるもんじゃありませんものね。乾杯!

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