第106(96.07.10)


酒泉樹と昆虫

 7月3日、去年より一週間遅れて裏庭のアヤメの花が咲きました。激しい雷雨の中、朝に蕾の先端を割って出た白い花が、まるで蝶の羽化のように花びらを広げ始め、昼頃には白にわずかの青を散りばめた優雅な姿を現し、雨にゆれていました。・・・アヤメには雨が似合います。
 ところでこの前、わが家の子供たちが何処かでカブトムシの幼虫を捕まえてきました。それをおがくずを入れた箱の中に入れて成虫になる日を心待ちにしている様子。
 そこで、今回の富田通信は酒を造る不思議な木と、酒好きの昆虫について、坂倉又吉著の「酒おもしろ語典」より書いてみました。


酒泉樹と昆虫
 大正末期のある年の夏、新潟県は城川村の星野という酒造家の酒倉の脇にある樹齢200年を超えた杉の老木から、多量の酒精(アルコール)を含む雫が湧き出て、それが幾日も続きました。

 この木はこれが初めてではなく、十数年前にも、酒精水が出たことのある、いわば酒泉樹で、永い間に酒のこぼれを吸ったのだろうと評判になり「酒杉」と命名されて、県の史跡名勝記念物に指定されましたが、惜しいことにその木は枯れてしまったときいています。


 同じ年の秋、同じ新潟県の吉川村のある家の庭先の杉の高いところに、蜂が沢山集まっているので、調べてみると普通の酒より一寸苦味がある白く濁った酒が二合ばかり出てきました。これは酒屋とは関係がないので、木が自分で酒を造ったに違いありません。

 また、数十年前、ルードウィヒ教授が、山林の中にある大木の幹からしみ出ている樹液のもとに、蜂、蟻、蝶、カブトムシ、カタツムリ等の無数の昆虫や、野鼠、リス等の小動物の類が争い群がっているのに気付き、よく調べてみますと、その樹液が自然醗酵をして酒になっていたわけで、博士はその樹液の中から新種の醗酵菌を発見したのであります。

 このようなことは不思議なようですが、学術上考えられないことではありません。すなわち、植物の体内を循環している樹液には、幾らかの糖分が含まれていて、それが新しい芽となり、組織となり、また一部は、酸化して樹のエネルギーとなるのですが、その際、酸素が不足すると、分子間呼吸という現象が起こって、自然醗酵により酒精(アルコール)が出来得るのであります。

 よく森の中などに行ってみると、樹液のにじんでいるところに、多数の昆虫が集まっているのを見かけられることがあるかと思いますが、それにはおそらく僅かの酒精が含まれていることと思われます。

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「アルコール分1度以上のものは酒である。酒税法に照らして、税金を取るぞよ」といかに税務署が言ったところで、ここまではちょっと手が届きますまい。つまり自然は、思わぬところで酒の密造をやっていることになりますが、こうした現象が、酒というものの発祥であるとすると、この世で最初に酒を発見した始祖は、これらの酒好きの昆虫や野獣であったとみるべきでありましょう。

 酒は「神から人類のみに与えられた天の美禄」などと、人間たるもの思いあがるわけにはいかぬものと思います。

 ・・・昆虫も酒好きだったとは。ここはひとつ、木に酒でも塗ってカブトムシでも捕まえましょうか。もっとも、カブトムシが集まる前に、酒の匂いに釣られて私のほうが早く木にとまりそうですが・・・。


編 集 後 記

○先日、山形県松山町にある松嶺の富士さんに遊びに行ってきました。夏の蔵はひっそりとしていて、これまた風情があります。去年の冬にお邪魔したときには無かった酒のタンクの貯蔵倉にも冷蔵設備が出来ていて、品質管理が一段と向上していました。それになにより、若くて美人の事務員Aさんの入れてくれたお茶の美味しかったこと。また遊びに行こうっと・・・エヘヘ。

○ある人から聞いた、本当にあったコワイ話。東京の飲み屋さんでの会話です。女子大生「地酒ください」 女将「うちは、升酒ですけど」 女子大生「じゃ、それください。粗塩あります?」 女将「すいません。粗塩はおいてないんですけど」 女子大生「じゃ、アジシオあります?」 女将「・・・」
 ・・・私も、馬脚を露さないうちに退散しましょう。乾杯!

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…… 商 品 紹 介 ……

松嶺の富士・純米吟醸『秘めごと』
 松嶺の富士さんは、山形県の庄内地方の松山町にある小さな酒蔵ですが、亥年生まれの若い斎藤社長が張り切ってやっております。
 ラベルに松山町出身の佐藤公紀画伯の美人画をあしらった純米吟醸『秘めごと』。去年紹介したときは、美山錦50パーセント精米の純米吟醸でしたが、この度、価格据え置きのまま、山田錦50パーセント精米の純米吟醸酒になりました。雪国の清楚な女性を思わせる味わいにさらに磨きがかかりました。
 絶対のお薦めです!

1. 8L 3,500円  720ml 2,000円
純米吟醸『秘めごと』生酒 300ml 550円

出羽桜『大吟醸セット』
 日本屈指の吟醸蔵・出羽桜酒造さんの大吟醸の詰め合わせ。華やかな吟醸香と淡麗な味わいは、お薦めの一品です。

300ml×5本  4,200円

出羽桜『吟醸・一耕セット』
 このセットのために特別に詰めた吟醸酒と、軽い味わいながら口中で豊かに広がる香味で好評の純米酒・一耕の詰め合わせです。
 吟醸酒は冷やして、一耕は冷や又はぬる燗でお召し上がり下さい。

720ml×2本  3,200円

初孫『峰の雪渓セット』
 高山植物の鳥海フスマの絵をラベルにあしらった、その名のように、すっきりとフルーティーな美山錦100パーセントの吟醸酒のセットです。

300ml×5本  3,500円

初孫『浜辺の詩(うた)』
 日本有数の穀倉地帯、酒どころ酒田にある酒蔵。砂丘地の良水で、丹念に醸しあげた純米酒と本醸造のセットです。 日本海の浜辺にたたずむ時のおおらかな解放感に満たされる味わい。涼しい旨さを、キリッと冷やしてお楽しみ下さい。

 720ml×2本  2,500円

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