第104(96.05.10)


おいしいご飯を食べるために

 今年は、気温の変化があまりにも大きい春です。4月21日まで雪が舞っていたかと思えば、その後の初夏を思わせる陽気でゴールデンウィーク後半には、桜が散り始めました。そして5月5日の冷たい雨以来、また冬に逆戻り。日中の最高気温は10度を切り、箪笥に仕舞いこんだセーターを引っ張り出して着ております。この分では、真夏に雪が降るかも・・・エヘヘ。

 さて、今回の富田通信は、前回ご紹介した米を蒸すためのコシキに関連して、興味深いお話が秋山裕一(元醸造試験所所長)著「酒づくりのはなし」に載っていましたので抜粋してみました。

おいしいご飯を食べるために
 御飯を炊くとき、電気釜のスイッチが切れてから何分たって食べると、芯がなくておいしいか、すなわち「むらし」の時間は何分か。

 これまでの説明で、15分は必要である(実際にコシキで米を蒸す場合、15分蒸せば米の芯はなくなります)、ということはお分かり頂けたことと思う。

 さて、むらしさえ適当であればうまい御飯がいただける、などといったら大目玉を食うであろう。水加減だの、保温、おひつに移しかえる理だのいろいろとある。そのなかでもう一つノウハウ、秘法がある。


 すし屋へ行くと、洗った米がざるに入れて、水切りしてあるのに出会うことがある。これは単に水切りのためだけではないのである。御飯の歯ごたえ、固めの弾力のある御飯に炊き上げる理屈がここにあるのである。このことが、最近の私どもの酒米の研究から分かった。

 白米が乾燥してくると、わずか1〜2パーセントの水分の減少でも、水に浸けたときに水をたくさん吸うようになる。これは、酒米の性質の項で書いたとおりである(白米水分が1パーセント増減すると、吸水率は3パーセントの幅に増幅されて減増します。つまり、米の水分が多ければ水をあまり吸わないし、逆に水分が少なければ多く水を吸います)。要するに、米が乾燥してくると細胞壁がもろくなって、水に出会ったときにひび割れがし、このすき間に水が入り込む。この水分は、よい蒸米を調整しようとするときには大切な問題になるが、炊くときには、さして影響はないものと思われる。それは、御飯炊きは白米1に対して水1. 2くらいと、ほぼ一定量の水を入れて炊き上げてしまうからである。
 それでは、影響するのは何かというと、このひび割れと歯ごたえの関係である。ひび割れは細胞壁を割ってしまうから、一見、米粒は同じ形で炊き上げられるが、ひびの入った御飯は歯ごたえが弱くなり、腰のない御飯になる。

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 このように説明すると、すし屋のざるの洗米の意義もおわかりかと思うが、要は、洗った米の表面についた水が水切りの間(1〜2時間)に米の内部に侵入し、でん粉細胞を潤し、細胞壁に弾力を与えるものと考えられるのである。一つ実例を紹介しよう。

 白米の水分と吸水の関係を明らかにし、これを酒づくりのためのよい蒸米づくりに応用したのは、私どもが初めてと自負していた。それならば白米の水分調整機を考えようということになって、機械屋さんをあたっていると、なんと調質装置と称する大型の装置が存在していたのである。なお驚いたことには、金沢の大きなおしずし屋さんのすし米は、水分調整して納入されていることを聞きつけた。

 早速この工場を訪問して見学したが、今日の米の調湿に用いる加湿機を用いて、毎日、何石という米を調湿して炊いているではないか。装置そのものは簡単であったが、これもコロンブスの卵である。歯ごたえのある、しかもお酢を混ぜたりしても腰のある御飯を炊く試験を、いろいろと苦心を重ねながら繰り返した松任町の米屋さんの主人の発明だという。

 私どもの食べる米も、新米のうちは組織も生きておりまだみずみずしいのであろう、歯ざわりもよい。夏を越し、高温と乾燥にあって米自身も乾くと、乾き度によってひび割れが多く入って、腰のない御飯になる。これを防ぐには、玄米の水分を15パーセントくらいにすることが目標であるが、実際に家庭では、米を洗ったらざるに一度あげて、1〜2時間くらい水切りしてから炊くとよい。


 この場合水加減は米の量と同量にする。おいしい食事をいただくには、面倒がらないことである。

 お酒に限らず、何でも美味しいものをつくるというのは、大変なことなんですねぇ・・・乾杯。


…… 商 品 紹 介 ……

花羽陽・純米吟醸酒DEWA33

山形県内では一番古く、全国でも5本の指に入るという長い歴史を持つ花羽陽。新庄・最上地方の地酒です。

 この度、純正山形酒、純米吟醸酒DEWA33が花羽陽さんから発売になります。ぜひ、ご賞味下さい。なお、5月中旬入荷予定です。

720ml \1,500

メルシャン『さくらんぼのお酒』

フルーティーなカクテルに山形県産のさくらんぼ(ナポレオン)の実がそのまま入った全く新しいタイプのリキュールです。容器はグラスとしてそのまま使えそうな素敵なビンです。

 生産量が少ないために東北地区だけの販売です。

 アルコール分5%  150ml/220円
 1ケース/5,280円

 ※発送の場合はケース単位でお願いします。

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平成8年東北新酒鑑評会優等賞受賞蔵
  去る4月18日、東北新酒鑑評会の一般公開が仙台で開かれました。以下に山形県の優等賞受賞銘柄をお知らせいたします。
〔吟醸酒の部〕
寿久蔵・羽陽男山・千代寿・澤正宗・銀嶺月山・あら玉・みちのく六歌仙・花羽陽・初孫・上喜元・松嶺の富士・東北泉・蔵古流・栄光冨士・くどき上手・若乃井・羽陽桜川・福牡丹・米鶴・一献醸心・酒中楽康
〔純米酒の部〕
白銀蔵王




編 集 後 記
○今年は、寒さのせいか、はたまた歳のせいか、私としたことがまだ一度も釣りに行ってません。時折裏の空き地で、釣り竿を伸ばしては、心の中の川に釣り糸を垂れてみたりはするのですが、何故か、釣りに行く気がしないのです。ひとたび川に立てば、川に入り浸りになることは分かり切ったことなのに。いとしい人に会う前の、心のためらいのようなものなのでしょうか。・・・ナァ〜ンチャッテ。さてさて、今年の最初の釣りはどの川にしようかと、部屋の壁に貼られた大きな地図を眺めながら考えています。

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