第102(96.03.10)


酵母のはなし

 春が来たってんで、虫やカエルが土の中から顔を出すという啓蟄(けいちつ)も過ぎたというのに、新庄はまだ1メートルを越える雪の中。それでも、時折屋根から滑り落ちる雪の音や、雨垂れの音に春の兆しを感じる今日この頃です。 さて、今回の富田通信はワインだろうが、ビールだろうが、日本酒だろうがこれが無ければ絶対に酒はできないという不思議な生物、酵母についてお話ししたいと思います。

生物学上の分類

 生物界の分類でいくと下図のように酵母は、原生生物の中の高等微生物の真菌類内の子のう菌に属し、その大きさは赤血球と同じかやや小さい1000分の4〜1000分の8mmで、卵のような形をしています。
 


酵母の役割

 醗酵の母と書いて酵母? 酵母の役割とは何なんでしょうか。平たくいうと糖分を食べて増殖しながら、アルコールと炭酸ガスを作ることにあります。私たちは、酵母の作ったアルコールを酒として飲んでいる訳です。

 では、酵母は糖分を食べて一体どれくらいのアルコールと炭酸ガスを作るのでしょうか。理論的には、1.11kgの糖分から0.72Lの純アルコールと、約300Lの炭酸ガスが発生します。

 余談ですが酒造りの最中に、底にわずかにもろみの残った醗酵タンクを洗おうとして、蔵人が醗酵タンクの中に入り酸欠で亡くなる痛ましい事故がおきるのも、この膨大な量の炭酸ガスのためです。くれぐれも注意しなくてはなりません。

 以上見てきたように、酵母の主な役割はアルコール醗酵にありますが、もうひとつ大事な役割があります。それは、美味しいお酒に欠くことの出来ない、高級アルコール類やエステル類などの芳香成分を作ることです。ですから、酵母の違いはお酒の香味を大きく左右します。

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協会酵母について

 話を日本酒に限ってみましょう。一口に酵母と言っても実に色々な性格の酵母があります。酵母に余計なお世話だと言われそうですが、性格の良い奴、悪い奴、アルコールに対して強い奴、弱い奴、果ては殺し屋までいるのです。

 そこで、醸造試験所と日本醸造協会では、美味しい日本酒を造るために、特に近年では素晴らしい吟醸酒を造るために、優秀な酵母を純粋培養して、各地の蔵元に分けています。この酵母は協会酵母とよばれ、現在14号まであります。その主なものを紹介しましょう。

協会7号 昭和21年に長野県の酒蔵から分離した酵母で、華やかな香りで、吟醸、普通酒用に適しています。
協会9号 昭和28年頃に熊本県の酒蔵から分離した酵母で、短期もろみで華やかな吟醸香を出します。
協会10号 昭和27年に東北地方の酒蔵から分離した酵母で、低温長期もろみで酸が少なく、淡麗な芳香のある吟醸酒を造ります。

 また最近はバイオ技術の発達によって様々な吟醸酵母が生まれています。昭和60年に生まれた協会13号は9号と10号の交配によって生まれた酵母で9号と10号酵母の特色をもつ吟醸香を出します。


 さらに、各県ごとの独自酵母の開発も盛んになって、それぞれ特色のある香味を出す酵母が出来ています。ちなみに山形県でも、山形清々酵母、山形酵母などがあり、鑑評会において優秀な成績をおさめています。

 今回は話が難しくなりましたが、何はともあれ美味しい吟醸酒を造ってくれる小さな生物、酵母に乾杯!


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編 集 後 記

○2月18日、米鶴酒造さんの蔵開きに行ってきました。吟醸酒研究家の篠田次郎さんや漫画家の高瀬斉さんもいらっしゃってて、大変な混みよう。まさに地域のいちだいイベントでした。表紙のイラストはその時に高瀬さんから書いて頂いた私の似顔絵です。

○2月24日の第8回「名酒を楽しむ集い」は、集いのご案内を差し上げてから三日で定員になってしまうほどの大盛況でした。つたや本店さんの素晴らしい懐石料理を楽しみながら、一人平均4合弱の大吟醸を平らげながらも、終始和やかな集いは、ご出席頂いた皆様の文化レベルの高さもさることながら、吟醸酒の持つ力のなせる技なのでしょう。吟醸酒に乾杯!

○2月28日、FM山形のグッディトゥディというラジオ番組に出演しました。内容は富田通信が100号を迎えたということで、電話を通して女性アナウンサーとおしゃべりするというもの。開始3分前に局から電話があり、アナウンサーが呼び掛けますからそのままお待ち下さいとのこと。・・・いつまで待っても呼び掛けがこない。ボリュームを絞ってかけているラジオではすでに始まっている様子。おかしい・・・受話器に耳を押しあて必死に聞き入ると微かに女性の声で「もしもし、富田さん聞こえますか?」「・・・あのう、遠いんですけど」「遠いですか、今調整してもらってますから・・・聞こえますか」「・・・あのう、かなり遠いんですけど」「富田さんの声ははっきり聞こえてますよ」ってんで、始まりました。中盤からは何とか聞こえるようになり、無事、笑いのうちに番組を終えることが出来ました。・・・ホッ。

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