第99号(95.12.10)


酒 神 祭

 今年も残すところもう僅か。あたり一面うっすらと雪化粧をしております。酒蔵は、早朝から米を蒸すもうもうとした蒸気とともに活気を帯びております。今回の富田通信は酒造りの安全と良い酒が出来ることを祈る酒神の祭りについて、栄光冨士社長の加藤有倫さんに特別寄稿してもらいました。

酒神祭について
    冨士酒造株式会社社長 加藤有倫

鶴岡市大山地区には現在酒蔵が4社残っています。残っていると表現したのは昔はもっとあったからです。酒銘を挙げると、白梅、出羽の雪、大山、そして栄光冨士であります。

 毎年、12月13日各蔵毎に酒神祭が執り行われます。(これとは別に、例年、7月15日には松尾神社の例祭を、地区内の醤油屋、酒販業者も交え共同で行っています。この松尾神社は最盛期40近い酒蔵を誇った大山地区の酒造業界の先人達が、京都の松尾神社から分社してきたものであります。)

 当社ではこの酒神祭のことを、単に「さかがみ」と言っておりますが、朝からまず、伝統献立、曰く「さかがみのごっつぉう(ご馳走)」作りが台所で始まります。「からげ(エイ)と大根の煮物」「アラメと油揚げの煮物」「氷頭(ひづ)なます」それに「澄まし餅」「あん餅」などです。これらは、蔵人と家族全員の午餐に供せられます。ただ最近は「からげ(エイ)」の値段が高すぎるので、「棒鱈」に変わることも多いのですが。


 夕方5時頃、神官を迎えます。そしてまずは、当蔵の母屋の神前と仏前に家族と杜氏が畏(かしこ)まり、良酒安全醸造祈願の祝詞をあげて頂きます。

 次に仕込み蔵に行き、入り口に榊(さかき)の枝を置き、鈴を鳴らして大幣(おおぬき)で浄めて頂きます。麹室(こうじむろ)、ふかし釜、タンクも浄めて頂き、約1時間で神事は終了いたします。

 さて、神事には直会(なおらい)が不可欠であります。当蔵では夜、男性は料理屋に、女性は会社内でと分かれて行います。料理屋には神官にもご臨席頂き花を添えて頂いております。幸いなことに当蔵の左隣に神社がありそこのお人柄の宮司さんですので本当に有り難いと思っております。

 会社に残った女性群は、仕出し料理の折り詰めで和やかに直会を楽しみます。ただ、この時期は既に酒作りが始まっておりますので、翌早朝の仕込みがありますので、杜氏たちはほどほどにして切り上げるのが通例になっております。

 心置きなく饗宴を楽しむのは、翌春になり、翌朝早起きの心配も無い、仕込み仕舞とか、甑(こしき)倒しと呼んでいる、その日の夜までお預けと言ったところでしょうか。

 はじめの部分で、4社残っていると表現したことに触れてみたいと思います。すべて「大山町史」からの引用であります。大山の地名は、慶長8年(1603)に尾浦城のあった尾浦を大山と改称したことに始まります。

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 元和8年(1622)10月、鶴岡に酒井忠勝公が入部、鶴岡城を居城に定めました。酒井家17代目のご当主、酒井忠明様は、現在鶴岡に住まわれており、書もよくされ、弊社でもレッテル字体の揮毫を何度かお願い申し上げました。「雪の降る町を」「庄内誉」「庄内平野」もその一部であります。

 文政2年(1819)の出版物「東講商人鑑」(鶴岡市立図書館蔵)には羽前大山酒銘柄として32銘柄が記録されており、弊社関連では、「冨士 加茂屋 専之助」と記されております。

 町村制が布かれた明治22年(1889)大山村、翌明治23年(1890)大山町になり、昭和38年(1963)9月1日、山形県西田川郡大山町は鶴岡市に合併されたのであります。

 江戸時代は概ね天領であったため、農民の年貢が低く、酒税も安かったのが、私見でありますが、酒蔵が多かった理由だと勝手に思料しております。

 さて、私こと当家の家系では12代目になっており昭和11年生まれであります。4代目の専之助が安永7年(1778)親戚筋の加藤治右衛門から酒株24株を取得したと「大山町史」に記載されておりますので、これが創業と思われます。又、休業した年の記載もありますが、大過無くこれまで続いてこられたのは大変幸運としか言いようが無いと思います。


 たとえば昭和18年戦時体制協力のため、各産業界で企業整備が行われた際、酒造業者に関しては、業者数で半分、製造数量で半分という国家命令でありました。戦争に勝てば酒屋などいくらでも復活出来るからということ、そして当時でのそれなりの補償金も出たようですが、多くの酒蔵が廃業致しました。弊蔵は、そんなに大きくもなく、明治32年生まれの亡父が兵役で留守、その当時出征軍人の蔵は情状酌量もありましたようで現在に至っております。亡父が、その当時の唯一の醸造関係の学校であった、大阪高等工業学校の醸造科に学び、大変な品質、技術指向の人でした。選んだ、南部杜氏が熊谷喜一郎であり、すべてを取り仕切る亡き姉の夫、加藤政芳(常務)と社内の人財に恵まれました。

 これからも、慧眼の富田氏のような流通業界の逸材の助けをお借りし、消費者の皆様の選択に応えられるような酒作りを目指して行こうと思っております。

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……… 商 品 案 内  ………

出羽桜・新酒しぼりたて

 全国屈指の吟醸蔵・出羽桜酒造さんより今年も下記の新酒しぼりたてが発売されます。新酒は収穫の喜び、豊かな実りへの感謝の形です。新しい米が新しい酒になって、感謝と喜びを食卓に運びます。

 香気成分や炭酸ガスをたっぷりと含んだ生気あふれる味わい、爽やかな粗削りの青春の装いをぜひご賞味下さい。

 新酒しぼりたて『桜花吟醸酒本生』
  価格 1. 8L 2,780円  720ml 1,360円
 新酒しぼりたて『春の淡雪』(本醸造オリ酒)
  価格 1. 8L 2,280円  720ml 1,050円
 新酒しぼりたて『一耕本生』(純米酒)
  価格 1. 8L 2,650円  720ml 1,260円

入荷予定 :12月中旬〜下旬

天童ワイン『にごりワイン』(限定品)
 濾過も火入れもしない、生のにごり白ワインは、もろみの香りを微かに漂わせた、酸味の程よく効いたやや甘口のワインです。一度お試し下さい。

720ml 1000円


◎東北清酒鑑評会優等賞発表

 平成7年東北清酒鑑評会の公開きき酒会が11月22日開かれました。

 山形県工業技術センターの小関先生の話によると、山形の吟醸酒は東北の吟醸酒の出荷量の実に4割を占めているそうです。このことをみても山形の酒蔵のレベルの高さが分かります。

 それでは、優等賞受賞蔵(吟醸酒部門)をご紹介します。

寿虎屋・羽陽男山・出羽桜(山形工場)・出羽桜(天童本社)・澤正宗・あら玉・一声・みちのく六歌仙・花羽陽・初孫(本町工場)・初孫(本社)・上喜元・松嶺の富士・麓井・奥羽自慢・竹の露・出羽の雪・羽前桜川・一献醸心




編 集 後 記
とうとう99号になってしまいました。来年は3桁の号数か・・・あぁ、ネタが、ネタが・・・。今年一年、本当にお世話になりました。皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

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