第94号(95.07.10)


幽霊源吾

 7月7日、梅雨の晴れ間の実に爽やかな日です。陽光が池の水面に反射して、家の壁面にゆらゆらと光りの波紋を描いています。
 肌寒かった6月も過ぎ、やっと夏らしい暑さがやってきました。夏といえば幽霊というわけではありませんが、今回の富田通信は酒にまつわる話を書いてみたいと思います。

幽霊源吾

 明治時代の日本に本当にあった話。

 新潟県中蒲原郡横越村二本木の酒造家で、遠藤儀右エ門という人がおりました。ある晩、村の青年たちが同家に集まって、娘っ子の評判話、力自慢、大食、大酒自慢の話とはずんできたので、興に乗った儀右エ門が、「焼酎一升飲む者があったら、賞金二円と新しい下駄を一足やろう」と言い出しました。

 何しろ醸造元の焼酎で、火をつけると燃えるというしろものですから、さすがの若い衆たちも、それでは俺が、と言い出せません。
 ところが、同家の下男で十八になる「うすのろ源吾」という、ふだんは奈良漬にも酔うというカラ下戸が「わっちが飲むべえ」と、名乗り出ました。そしてごほうびへの執念からか、出された焼酎を枡の角から見事にキューッと飲み干し、賞金二円と下駄代二円。合わせて四円を懐に、人々の感嘆の声を後に門口を出たまではよいが、敷居をまたいで一、二間行って、石につまずいたかバッタリ倒れたまま起き上がらない。


 抱き起こしてみると息が止まっています。さあ大変、医者を、家族をの大騒ぎもついにむなしく、主人の儀右エ門も「俺がつまらぬ賭などをしたばっかりに」と平あやまりをし、旦那寺に頼んで、葬式も滞りなくすませました。

 さて、弔いがすんで三日目の夜中、源吾の家の戸をはげしくたたく者があります。開けてみると、遠藤方の酒男が真っ青な顔をして飛び込み、ワナワナふるえつつ、やっとのことで「源吾の幽霊が」と言う。そのうちにまた戸をたたく音がして、「おっかあ。あけてくれ」と、まぎれもない源吾の声に、お袋は腰を抜かしたが、さすがに親父、念仏をとなえながら戸を細目に開けて見ると、経かたびらを着た真っ白な影、まさしく源吾の幽霊。

「源吾、迷わず成仏しろナムアミダブツ」

「水をくんねえ、ああ喉がかわく」

 そこで、茶碗の水をやると、うまそうに飲む。幽霊にしては変だぞ、と気がついてよく見ると、正真正銘の源吾に家中びっくりするやらうれしいやら・・。 源吾の話では、焼酎を飲んだまでは覚えているが、後は何もわからぬ。目がさめてみると真っ暗で息苦しい。どうも埋められたらしいと考えて、一所懸命押していたらやっとのことで世に出られたということです。    (住江氏『酒の浪曼』より)

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「今昔物語」酒話

 けちな坊主が造った酒が仏罰で蛇に化したという話。

 摂津の国に住む、そのけちな僧は、たまたま説教供養の礼にもらった餅を、誰にも分けずにしまっておきました。あまりに古くなりカビが生えてきましたので、その妻が「惜しいから酒にしましょう」というので壺に入れて仕込んでおきました。

 そして、しばらくたったある日、もう酒になった頃だろうと、妻が壺をとってみますと何か底に動くものがある。灯をつけてよく見ると蛇です。キャアーッと妻君にすがりつかれて、僧も恐る恐る確かめると、まさしく大小数十匹の蛇が、からみ合っています。そこで夫婦はその壺を担いで遠く離れた広野に捨てて帰りました。

 それから二、三日後、村の若衆らが、この原を通りかかったところ、妙なところに壺があるので、何だろうと壺をあけて見ると、美味しそうな酒の香りがする。恐る恐る一人が毒味したが、なかなかうまい。そこで皆も競って飲んだが、飲みきれず、村へ持ち帰って飲み続けました。


 さてこのことが僧に聞こえ、自分がけちだったために、仏罰で酒が蛇に見えたのだと、大いに後悔したといいます。    (住江氏『酒の浪曼』より)


……… 商 品 案 内  ………

出羽桜『大吟醸セット』
 日本屈指の吟醸蔵・出羽桜酒造さんの大吟醸の詰め合わせ。華やかな吟醸香淡麗な味わいは、お薦めの一品です。

300ml×5本  4,200円

出羽桜『吟醸・一耕セット』

このセットのために特別に詰めた吟醸酒と、軽い味わいながら口中で豊かに広がる香味で好評の純米酒・一耕の詰め合わせです。

 吟醸酒は冷やして、一耕は冷や又はぬる燗でお召し上がり下さい。

720ml×2本  3,200円

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初孫『峰の雪渓セット』
 高山植物の鳥海フスマの絵をラベルにあしらった、その名のように、すっきりとフルーティーな美山錦100%の吟醸酒のセットです。

300ml×5本  3,500円



初孫『酒蔵の自然譜』
 酒蔵にずらりと並んだ酒の貯蔵タンク。その中から、今もっとも飲み頃の酒を選んでびん詰めした、純米吟醸酒と純米酒のセットです。

720ml×2本  3,000円



初孫『浜辺の詩』

 日本有数の穀倉地帯、酒どころ酒田にある酒蔵。砂丘地の良水で、丹念に醸しあげた純米酒と本醸造のセットです。

 日本海の浜辺にたたずむ時のおおらかな解放感に満たされる味わい。涼しい旨さを、キリッと冷やしてお楽しみ下さい。

720ml×2本  2,500円

お客様オリジナルセット
 当店にある720mlの酒をメーカーを問わず自由に組み合わせてセットに出来ます。セットは2本入れと3本入れの2種類です。価格は2本入れが酒代+箱代200円、3本入れが酒代+箱代300円です。





編集後記

 七夕の夜は雲が出て、星空は見えませんでした。考えてみれば、年に一度の織り姫とひこぼしの逢瀬を覗き見るというのは、ちょっと悪趣味ですよね。きっと天の神様が二人のために粋な計らいをしてくださったのでしょう。

 もっとも、織り姫、ひこぼしどころか、天の川さえ分からない星音痴の私には、晴れていても同じことですけれど・・・。

 それでも、今日ぐらいは二人のために乾杯でもしましょうか。

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