第90号(95.03.10)


柱焼酎って知っていますか?

 現在の積雪は約70センチ程。それでも、日差しが日毎に強くなっていくのを感じます。もうすぐ春ですね!

 ところで、よくお客様から「アルコール添加していないお酒は無い?」とか「アルコールを加えた酒は駄目だよ。米だけで造った昔ながらの酒がなんたって一番だよ」という声を聞きます。

 確かに旨い不味いは個人の嗜好ですから、それについてとやかく言うつもりはありません。しかし、あまりの決めつけはお酒の楽しみを半減させることになりかねませんので、今回の富田通信はアルコール添加について書いてみましょう。

柱焼酎について

 昭和19年、戦争による米不足を補うために清酒のモロミにアルコール添加が正式に認められ、続いて昭和24年からは更に糖類を添加して酒を三倍に増やす、いわゆる三倍増醸酒が造られました。戦中、戦後の米が不足していた時代には仕方がなかったのかもしれませんが、量が減ったとはいえ、現在にいたるまでこの三倍増醸酒が造られ続けているところに、アルコール添加を悪役にしている原因があるのかもしれません。


 ところが、戦争の落とし子であるかのように思われていたアルコール添加、実は江戸時代から行われていたのです。しかも驚くべきことに、酒をより美味しくする秘伝として!

 1685年の『童蒙酒造記』には、酒に焼酎(アルコール)を入れると「味がしゃんとし、足強く候」とあって、良質の焼酎のとり方までも記されています。また、1771年の『酒造伝記録』には「酒がよくなるなり、ただし辛くなる」とあります。

 酒のモロミに焼酎を加えることにより、味がしっかりして、更に酒が腐りにくく保存が効く(足強く候)ことが江戸時代からすでに知られていたのです。 そして、加える焼酎のことを、酒をしっかりさせることから『柱焼酎』と呼んでいました。

アルコール添加の効用について

 実際に酒を飲んでみると、アルコールを少量加えた本醸造とか吟醸酒の方が加えないものより軽快ですし、香りも引き立つように思えますよね。

 味の軽さはともかく、アルコールを添加して酒の成分が薄まっているはずなのに、香りが引き立つのは何故なのでしょうか?

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 これについて、最近読んだ秋山裕一氏の『日本酒』という本に面白い話が載っていましたのでご紹介します。

「本醸造酒の特色は、白米重量の10%以内の醸造アルコールをもろみに添加していることである。具体的にいうと、1トンの白米に対して、100%アルコールを116リットル、実際にはこれに相当する量を30%アルコールになるように薄めてから添加している。この量のアルコールをもろみに添加すると約25%増量する計算になる。

 そこで当然、味もその割合で薄まっているのではないかという疑問が生じよう。搾った日本酒にアルコールを直接に加えれば当然成分は薄まる。しかし、もろみに薄めたアルコールを加えると、香りや味の成分が引き出されてきて、香味はあまり薄まらないことが、国立醸造試験所の試験結果からわかった。アルコール添加をしないで搾った日本酒と、添加後の本醸造酒とを比べると、香りの成分、アミノ酸類、有機酸類やミネラル分などは双方ともあまり変わりない。
 ところが、鉄や銅を含む貯蔵中に着色を進めるような成分は、半分あるいはそれ以下に減少する(表参照)。


 したがって、酒質全体からみると、軽快な風味になり、市場での保存性にも効果が期待できるという結果であった。もろみにアルコールを少量加えることの妙味がここにある。」

表 もろみへのアルコール添加による成分含量の変化
アル添による変化 成分
 あまり変わらない成分
(10%以内の減少)
イソアミルアルコール
全アミノ酸類
乳酸
カリウム
 少し変わる成分
(20%くらい減少)
酢酸イソアミル
コハク酸
 相当に減少する成分
(50%程度になる成分)
 酒粕に移行する


加熱着色成分

 いかがでしたでしょうか。純米吟醸、吟醸酒、純米酒、本醸造酒にはそれぞれに良さ、個性があります。あまり固定観念にとらわれず、自分の舌で自分に合う酒を見つけてください。それでは乾杯!

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…… 商 品 案 内  ……

 白い季節もやっと終わりに近づき、もうそこまで春が来ています。そこで今回は、出羽桜酒造の春づくしと参りましょう。

春の淡雪(本醸造生・オリ酒)
春霞のように淡く霞んだにごり酒。スッキリした飲み口が好評です。

1.8L 2,280円  720ml 1,050円


桜花吟醸酒
 出羽桜酒造の中核をなす吟醸酒。一口でいうなら、安くて、とにかく美味い吟醸酒です。「特撰街」という雑誌が主催した全国の普通吟醸酒部門では、一昨年が1位、去年が2位の栄誉を獲得しました。

火入れ1.8L 2,580円
本生1.8L 2,780円  720ml 1,360円


春雷(大吟醸酒)

 日本酒度+15の超辛口大吟醸。料理を引き立てるために、料理との調和、バランスを考えた吟醸酒です。香りの華やかさは群を抜きます。

 超限定品のため店には出しておりません。欲しい方は申し訳ございませんが「春雷」と声をかけてください。

720ml 3,000円



一枝春(純米吟醸生)
 春雷が辛口なら、こちらはバナナ系統の香りの、やや甘酸っぱい純米吟醸酒です。ギリッと冷やしてお飲みください。

720ml 2,100円





編集後記

○去る2月18日の『第七回 名酒を楽しむ集い』は、御陰様で大盛況でした。本当に有り難うございました。中には「これで冥土の土産ができた」などと仰ってくださる方もいて。───第八回目はどうしましょう・・・。

○東京に1センチの大雪!? テレビのトップニュースです。新庄では、一晩に50センチ、60センチ積もってもニュースにもならないのに・・・。人の多さの違いでしょうか。選挙では1票の格差が問題にされますが、同じ日本人として、一人当たりどれだけの国土を保全しているかという格差は問題にならないのでしょうか。新庄・最上地方では、一人当たり実に東京の100倍以上の国土を守っているというのに・・・。

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