第89号(95.02.10)


きき酒について

 暖冬予測の今年、屋根の雪おろしが嫌で我慢していたのですが、家の戸が雪の重さで開かなくなったので、仕方無く2月に入ってやりました。イャ~、雪の重いのなんのって、手のマメは潰れるし、腰は痛むし・・・、四日かかってやっと終わりました。家の雪消し用の池には屋根からの雪が山のように積もっています。

 ところで酒蔵は今、寒仕込みの真っ最中。そこで今回の富田通信は美味しいお酒をより美味しく楽しむために、きき酒について書いてみましょう。

きき酒の意義

 科学が発達した今日、分析機器による測定の方が人間の感覚よりも正確だと思われる方もいらっしゃると思いますが、機械による味や香りの成分の分析値はせいぜい百万分の一量(ppm)なのに対し、人間の鼻はそれのさらに千分の一量(ppb)までの香りを検出できます。
 さらに機械では人間の感覚で判断する品質の20パーセント以下しか判断できませんし、それぞれの香味のもたらす調和といった感覚的な判断は不可能です。ここにきき酒の意義があります


きき酒の目的

 ひとくちに、きき酒といっても、その目的とするところによって、全く意味が異なります。

 例えば、私が酒を仕入れる時や清酒鑑評会でのきき酒と、ふだん私達が酒を飲む時のきき酒とでは、目的と意味が違います。

 前者は酒の品質を判断するためのきき酒ですので、楽しみの要素は全く入りませんし、また酒の品質を判断するという性格上どうしても酒の欠点を探しがちになります。

 しかし、ふだん私達が酒を飲む時のきき酒の目的は、酒をより楽しむことにあるはずです。そのきき酒は、酒の良い点、旨い点を探すこと、さらには、その酔い心地までをもきくことにあると思うのです。

 せっかく買った酒を、欠点を探しながらひと瓶空けてしまっては、余りにも悲しい話ですから・・・。皆さん、くれぐれも暗〜い「きき酒おたく」にだけはならないで下さい。

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きき酒の順序

 酒のきき酒は、次に書くように色や光沢、香り、味の順におこないます。

(1)色とサエ
 グラスに入った酒を、まず、目でよく観察し、色が有るか無いか、その濃さや色調、サエ(透明度)の程度や浮遊物の有無についてみます。

(2)香り
 次に香りを嗅ぎます。グラスを軽く回して、香りを嗅ぎ特徴をみますが、酒を口に入れた時、鼻に抜ける香りも十分にみます。

(3)味
 酒を少量、口に含み、すするようにして酒を舌の上に広げ味をみます。味を感じる感覚は、舌の部分によって異なりますので、含んだ酒を舌全体にいきわたらせることが必要です。甘、酸、辛、苦、渋とそのバランスをみて、最後に口から鼻に抜ける香りを再び確かめます。口に含んだ酒を口中に留めておく時間は、2〜5秒位ですが、酒を飲み込んだあと、口に残った味(後味)をみます。苦みや渋み、くどい甘さや嫌な辛みの無い、後味のさっぱりした酒が良い酒です。


 いま、市場には本醸造、純米酒、吟醸酒などの素晴らしい地酒が数多くみられるようになりました。これらの酒は、それぞれに大変個性的です。

 最初の一杯はきき酒の要領で試してみて下さい。そして出来れば、一度に2〜3種類ぐらいのお酒を試してみて下さい。きっとお酒の楽しみが倍加するはずです。それでは、乾杯!



…… 商 品 案 内  ……

最上川・本醸造新酒しぼりたて

 新庄の町の北に位置する最上川酒造さんより、本醸造の新酒しぼりたてが発売になりました。

 新酒独特の風味と若々しさが魅力の本醸造酒です。ただ、生産本数がごくわずかなため品切れの際はご容赦下さい。

500ml \650


○亀の井・しろぎんじょう

売り切れました!

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第七回『名酒を楽しむ集い』ご案内
     東海道五十三次のお膳と雪見酒
 今回の『名酒を楽しむ集い』では、割烹料亭「つたや本店」さんのご協力により、「つたや本店」秘蔵の東海道五十三次のお膳を使わせて頂くことになりました。
 このお膳は二の膳つきで、色漆を塗り重ねたものを彫って、広重の東海道五十三次の名画を描き出したという、大変貴重なものです。
 このお膳を使って、雪見酒をやろうというわけです。お酒は雪見にちなんで、雪のつく名前の酒を揃えました。ぜひ、ご参加下さい。
日時:平成7年2月18日(土)
受付:午後6時  開宴:午後6時30分
会場:つたや本店
   新庄市常葉町3−25 tel 22-0434
会費:7,000円
定員:53名(定員になりしだい締め切らせて頂きます)
主催:富田酒店
協賛:つたや本店
※酒リスト/出羽桜(雪漫々、春の淡雪)栄光冨士(秘蔵酒、雪の降る町を)樽平(雪むかえ亀の尾大吟醸)他
※お申し込みは、つたや本店か富田酒店までお願い致します。



編集後記

1月17日の阪神大震災では、大変な犠牲者が出ました。被災された方々には心からお見舞い申し上げます。

 ところで、不思議なことが一つあります。当店では扱っていませんが、日本酒の三十数%のシェアを占める灘酒のことです。マスコミ始め、最大の消費地である東京からも灘酒を守れという声が聞こえてこないのです。

 思うに、江戸時代には大銘醸地とうたわれた灘も、大正末から昭和50年頃までの清酒の品評会のボイコットの間にすっかり質より量に転換してしまって、今やただの安酒の大生産地となってしまったからでしょうか。

 今までは、確固たるブランドであると思われていた灘酒、それが実は何の実体もない、幻であったことが暴露されてしまったのです。

 今後、灘酒はどこへ行くのでしょうか?

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