第78号(94.03.10)


日本酒Q&AII

 去年に比べればはるかに多かった雪もだいぶ解け、一面の銀世界だった田圃も、土手の斜面の部分が帯状に黒い土肌を見せるまでになりました。春の足音がゆっくりと、ゆっくりと、しかし確実に近づいています。
 ところで、富田通信76号でご紹介しました「山形の酒蔵ラリー」ですが、定員200名に対して600名を越える応募があったそうです。
 さすがに酒の県・山形だと感心しましたが、この私もみごと抽選に当たりまして、あちら、こちらと楽しくラリーに参加させていただいております。
 今回の富田通信は、酒蔵ラリーの中で皆さんから出た質問に答えてみたいと思います。

仕込み水にはどんな水を使っているか

 酒を造る上で、水は非常に重要な地位を占めています。水は仕込み水として使われるだけでなく、米を洗う時、米を浸す時、米を蒸す時、割水、瓶を洗う時、器具を洗う時など、酒造りの色々なところで使われます。それだけに、水の良し悪しが酒質を大きく左右します。

 酒造りの水としての性質は、カビ臭やゴミ臭のような特異な臭いがなく、異味がなく、また、混濁がないことがあげられます。


 酒造りの水として有害成分のもっとも代表的なものは、鉄分です。鉄分は酒の着色の原因になり、また香味を害します。
 その他では、マンガン、重金属類が酒質に悪い影響をあたえます。
 酒造りの水には、これらの物質がほとんど含まれていません。
 山形県の酒蔵は井戸水や伏流水、または伏流水を水源とする水道水を使用しています。

今年の米不足による仕込みの影響について

 米屋にいっても米がない、米が買えないなど連日のようにマスコミが報道しています。酒蔵も例外ではなく、去年の秋はどの蔵にいっても米の確保の話題でもちきりでした。
 結果として、前年の一割〜二割減となるようです。
 しかし、不作によって酒質が落ちる心配はありません。ご安心ください。
 皆さんご存じのように米は農作物であり、米の出来は毎年違います。酒蔵は毎年米をみて、米の状態に合わせて造りを変え、常に最良の酒を造り続けてきました。

 実際に今年の新酒を飲んでみても、その出来映えの素晴らしさには驚かされます。杜氏さんの腕には脱帽です。

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山廃(やまはい)という言葉を聞きますが山廃とはなんですか

 山廃とは「山卸し(やまおろし)廃止モト」を詰めてよんだ言葉です。

 酒の元になる酒母を造る方法には大きく分けて二つあります。酵母菌を安全に増殖させるのに必要な、乳酸菌を自然に繁殖させる方法と乳酸菌を初めから添加する方法です。
 前者を生モト系酒母、後者を速醸系酒母といい、山廃モトは生モト系酒母に入ります。
 山卸し廃止モトとは、読んで字のごとく「山卸し」を止めたモトのことです。
 では「山卸し」とは何でしょう。酒は明治時代の末まで、すべて生モトで造られていました。
 この生モト造りは木製のたらいのような浅い半切桶(はんぎりおけ)を6〜8コならべ、ここにモト一本分の物料(冷やした蒸米、米麹、仕込み水)を均等にわけて仕込むことから始められます。そして、生モトでは仕込み後、12〜24時間後に山卸しという作業が行われます。
 山卸しは半切桶1コに3人の蔵人がついて、先端を丸く削った玉櫂(たまがい)を持って、モトの物料を磨りつぶしていく作業です。これは5、6時間ごとに3、4回行われますから、厳冬の早朝から深夜にわたる大変な労働になります。
 生モトではこの山卸しが終わると、壺代(つぼだい、モト仕込み用の小桶)の中にモト寄せといって、どろどろに磨りつぶされた物料を合併します。
 この山卸し作業の時に声をあわせて唄われるのが「とろりとろりと、いま、するモトは酒に造りて江戸に出す」で始まる「モトすり唄」です。


 ところが醸造化学が進歩し、酒がどのようにして造りだされていくかが明らかになるにつれて、「山卸し」作業で米粒をすりつぶさなくても、米粒は米麹の酵素力だけで立派に溶解していくことが実証されたのです。こうして、つらい「山卸し」作業を廃止した「山卸し廃止モト」略して「山廃モト」が誕生したのです。
 イヤ〜、質問内容が大変高度で参りました。もっと勉強せねば・・・。


…… 本 の 紹 介 ……

『山形銘酒百科・酒蔵』

 日本吟醸酒協会顧問、篠田次郎先生の巻頭エッセイ「山形の酒を語る」で始まる『山形銘酒百科・酒蔵』

 山形県内の全酒蔵が写真入りで紹介されているばかりか、山形の風土、食べ物、酒器、さらには対談と実に内容が盛り沢山。これ一冊で山形の酒通になること請け合い。全ページカラーの豪華本です!
 県内の書店、東京の有名書店にて発売中です。
 なお、書店でお求めになれない場合は、当店に少々在庫がありますので、実費にてお分け致します。

みちのく書房 1,800円

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…… 商 品 紹 介 ……

朝日町ワイン アイスエッセンス

晩秋、完熟しきった糖度の高い葡萄を凍結、凍ったままの葡萄をプレスし、 葡萄から浸み出る濃厚で香り高い葡萄のエッセンスだけを、厳寒の冬の自然 の寒気の中でゆるやかに醗酵させました。

 柔らかく芳醇な「極寒の葡萄の雫」アイスエッセンス、限定販売です。

極甘口 白・ロゼ 各720ml 2,000円


…… 編 集 後 記 ……

○いろいろな蔵元さんにお会いして、お話を伺う機会が多いのですが、その度に酒造りに対する情熱に心を打たれます。

 さらに思うことは、酒に対する考え方、造りに対する考え方が各蔵ごとに違うということです。皆さんそれぞれに非常に個性があって、自信をもって話されます。したがって出来てくる酒もまた個性があります。俗に「酒屋万流」という言葉がありますが、とかく右ならえ意識の強い日本で実に喜ばしいことです。比べ飲みは楽しいですものねぇ。

○長かった冬ごもりも、やっと終わりに近づき、4月まであと20日余りとなりました。4月になれば、去年の10月からジーッと待ちに待った渓流釣りの解禁。ナンカ毎年3月の編集後記で書いているような気がしますが、それでも書かずにはいられません。水面を割って手元に飛んでくる光輝くヤマメが目に浮かびます。富田通信が終わったら久々に釣り竿を振ってみましょう。

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